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 日本政府が国家プロジェクトとして、高速科学演算と汎用大型サーバーに向けて、同時に2つの超高速プロセッサの開発に取り組む可能性が出てきた。それらが政府主導、あるいは民間主導であっても、1995年のIT市場規模の方が2005年の市場見通しを上回るという「成長なき日本IT産業」の閉塞感を打破する1つの起爆剤にはなりそうだ。

 文部科学省は5月末、世界最高速のスーパーコンピュータを開発する計画を明らかにした。既に予算化が決まり、NEC/東工大、東大、日立製作所/東大、富士通/九大の4組織がスパコンの中核となる要素技術を分担開発。その成果を持ち寄って、最終年度の2010年度末までに1秒間に1000兆回を超える浮動小数点演算が可能な超高速スパコンを開発する。

 2004年に米IBMが開発したBlue Gene/Lは、独立機関によるベンチマークテストで毎秒70兆7200億回の演算を記録した。このスパコンは、IBMがエネルギー省国家核安全保障管理局のために構築したもので、現在、世界最高速である。これに対して日本では、NECが構築した気象庁の「地球シミュレータ」が最も速く、1秒間に36兆回の演算ができる。同スパコンは昨年まで2年半もの長期間、世界最高速の地位にあった。

 スーパーコンピュータは、抜きつ抜かれつの国家威信をかけた開発イベントのようなもの。これに対して、大型サーバーやそれ用のプロセッサチップの開発は、その国のIT産業の足腰の強さと広がりを測る尺度となる。その意味で、サーバーとマイクロプロセッサは大騒ぎはされないものの、IT産業という観点からはスパコン以上に重要視すべきものといえそうだ。

 それは「大型サーバー1台の販売は、金額でその4倍のビジネスを生む」(富士通の黒川博昭社長)という経験則があるからだ。ソフトやサービス、ストレージなどがサーバーに付帯するという垂直統合論である。「今やソリューションが先だ、ソフトが先だ」と、ソフト/サービス業界からは、メーカーの独善と時代錯誤の考えだと異論が出るだろう。しかしIBMの場合、最近5年間でソフト/サービス対サーバーの売上比率は5.1から4.9倍になり、サーバー事業が強くなったことをうかがわせる。富士通も7.3が6.3倍になった。一方、日立やNECはこの逆の流れだ。

 だが、プロセッサの開発に関して今の日本は、まるでサンドバックのように打ちのめされている。技術問題よりも、日本メーカーにはIBMやインテル、マイクロソフトのようにデファクトを持てないという、宿命論のようなものが存在するためだ。鉄鋼や自動車、家電は、低品質・低価格製品から海外進出しシェアを上げ、最終的に高品質・高価格製品分野で不動の地位を獲得した。そういう日本基幹産業の世界市場制覇の伝統手法がITではまだ通用していない。

 しかし、Linuxを核にしたオープンソースという世界共通のデファクトの台頭が日本の弱点を強みに変えつつある。パソコンやサーバー分野でインテルとAMDの戦いが激しくなる一方、アップルのIBM離れや、IBMの長期的なハード事業の縮小機運など、プロセッサ開発を巡る流れも変わってきた。最大のネックとみられるチップ量産についても、インテルの決断次第で、国産3社に加えて米HP(ヒューレット・パッカード)やユニシス、サン・マイクロシステムズなどが、採用する可能性すらある。

 この大型サーバー向けプロセッサ開発には2つの水面下の動きがあり、両者共に06年度からの予算措置を狙う。1つは経済産業省の半導体やコンピュータ業界の再編を前提にした開発構想だ。もう1つは、自民党の政策集団、情報産業振興議員連盟の中に今春発足した「情報産業国際競争力強化委員会」(茂木敏充委員長)の政策提言の動きだ。後者は日本のイノベーション持続のためには、IT産業の確立が必須だとし、1兆円の予算でIT産業の抜本的な改革・再構築を国家プロジェクトして推進する。その中で世界最速マイクロプロセッサ開発を位置づける。

(北川 賢一=主任編集委員)