IT Japan 2002 日経BP社は7月17日,大手IT(情報技術)企業6社のトップが講演するシンポジウム「IT Japan 2002」を東京品川区の品川プリンスホテルで開催,討議の成果として参加した1242人の賛同のもと「新ITシステムの構築に当たっては安全性と信頼性を重視すべき」など,4項目にわたる提言(全文はこちら)をまとめ,発表した。

 「日本のIT蘇生に向けて――今求められるエンタープライズITソリューション」を統一テーマにした「IT Japan 2002」では,寺島実郎三井物産戦略研究所長,名和高司マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナーの両氏が基調講演し,秋草直之富士通社長,青木利晴NTTデータ社長,小野功日立製作所専務/情報事業統括本部長兼情報・通信グループ長&CEO,椎名武雄日本IBM最高顧問,島田精一日本ユニシス社長,西垣浩司NEC社長(講演順)がそれぞれの立場から「日本経済の再生にはITが機軸になる」ことを力説した。

なぜ日本は「IT先進国」になれなかったのか,そして「再生のシナリオ」は

 各氏の講演では,80年代に成功し「情報化先進国」と称された日本が「IT先進国」になり得なかった現状分析・認識と,それを踏まえた上でのIT利用企業とサプライヤであるIT業界が今後いかに対応し,再び活気を取り戻す「IT再生のシナリオ」が展開された。

 まず,80年代に不振をかこった米国が,ITを活用しながら力強く復活した模様を寺島三井物産戦略研究所長が,次のように分析し,日本のIT蘇生討議の口火を切った。

 「米国はIT活用の基盤であるインターネットを開放しながら,実は米国主導でITの徹底的なデファクト化とブラックボックス化を推進し,世界経済の囲い込みを図った。それが90年代のIT革命の本質である。EC(欧州共同体)や中国は警戒感を強めている。日本のとるべき道は,ITのオープン化を徹底的に進め,米国による囲い込みを許さないという認識を深めるべきだ」と,安易な米国ITトレンドの追随に警鐘を鳴らす。

 さらに同氏は,ITにFT(ファイナンシャル・テクノロジ)を連結させたマネー・ゲームの中でIT革命が起こった側面を指摘し,経済や産業にITの威力を反映させるというIT本来の良い面を阻害した米国や日本のIPO(株式上場)ブームを批判。「こういう金融肥大化経済を否定し反省しなければ,真のIT活用のエネルギーは生まれてこない」と論じた。マッキンゼーの名和パートナも「新エコノミーは無形資産だけがアピールされたバーチャルな経済。リアルエコノミー(有形資産)にITを乗じたところが競争に勝つ」と話した。

 日本IBMの椎名最高顧問は「米国では伝統的な企業がITを活用して活性化した例も多い。日本でカンバン方式ともてはやされた自社中心の情流や物流を,IT活用のSCM(サプラチェーン管理)で超越し米製造業は活性化している」と,IT革命がバブルだけではない面も強調。先の寺島所長も「IT革命の光の部分は景気変動に伴う過剰在庫の調整を,ITを活用しながら素早いタイミングで実施したことだ。そのため米国経済は景気の底を脱するサイクルが早まっている。ロジスティックスへのIT活用は日本の攻め筋になる」とIT活用の重点分野を示唆している。

 富士通の秋草社長は,過去10年間,米国で事務職人口が8%減少しているのに対し,日本は同じ時期に逆に18%も増加しているデータを提示。「日本では流通の中抜きにSCMが効果があると理解していながら踏み込めない。IT活用で効率化を図っても社内失業という形で削減に踏み込めない。過去のIT資産の制約やしがらみの中で情報システムが維持されている。ITを使い切ってはいない」と言い切った。NECの西垣社長も93年まで1位を維持してきた日本の国際競争力が94年に3位に落ち,2002年3月に30位に低迷する現実を指摘。「過去の蓄積の上で変化を拒み暮らす老大国」が今の日本の姿とした。

「今の日本は敗戦国だ。建国し直そう」

 こういうIT活用の現状認識の上に立って,果たして日本のIT再生はあるのか。各氏はそれぞれの立場で再生への持論を展開。自社の果たす役割やソリューションを強調した。

 富士通の秋草社長は「少ないCPU能力や限られたファイル容量,低速回線,数値データ中心,低いソフト生産性など,ITリソースに制限が存在した過去に作ったアプリケーションそのものを変えないとIT再生はありえない」とし,従来の業務ごとに孤立したアプリケーションをスクラップ・アンド・ビルドで維持し続ける愚の停止を提案した。「ITリソースは無限と言えるほど豊富になった。富士通は作らないアプリケーション,つながるアプリケーション,そして止まらないインフラの提供が可能だ。企業はITリソースを使い切ってしまう発想を持って欲しい」と話した。

 「オープン・ミッションクリティカル・システム」を強くアピールしたのはNECの西垣社長。現在開発中である世界最大のモバイル・コンピューティング・システムは「メインフレームに匹敵する巨大な処理能力を持ち,加入者やトラフィックの急増に対応し,新サービスの投入など環境変化に応じて柔軟に変更できる高い拡張性を備える。もちろん24時間365日倒れず,投資コストも節約可能だ。こういうミッションクリティカルなシステムをオープン・システムとオープン・ネットワークで構築し運用する時代が到来した」と話す。

 日立の小野専務は電力サービスにも似た「情報のライフライン」を提供するという。「安心,安全,快適」がキーワードだ。「企業のコアとなる業務は,最先端ITによる差別化技術を用いシステム・インテグレーション方式で提供する。コア周辺業務は外部のサービスを使うという,ITの所有型と共有型の共存方式を提案していく。IT業務の構造変化は目の前に来ている」と話した。

 ネットを活用したコラボレーション(共創)型の新ビジネス展開を,サービス・プロバイダの立場から推進するのはNTTデータの青木社長。「既にいくつか事例が出ているが,ITを知らない企業と組み,ビジネス・ノウハウとITの相乗効果で新市場を創出する」と話し,今後のブロードバンドの発展が文化の違う企業同士の共創を醸成すると期待をかける。

 マッキンゼーの名和パートナは「企業のコア業務の周辺に成長のネタが隠されている。それをブロードバンドという“現場が見える”ITツールで掘り起こす。現場に強い日本企業は,ブロードバンドで生き返るチャンスがある」とした。

 「ITは情報化時代を切り開くハサミだ,道具だ」と強調したのは日本IBMの椎名最高顧問。「残念ながら政府のIT戦略会議では,ITの普及ばかりが議論されており,ITの究極の目的をないがしろにしている」と話し,IT黎明期に企業経営者のビジョンや夢が前例のない新システムを誕生させた二つの事例を引き合いに出しながら,「ITの活用は経営者の意識次第だ」と,次のように述べた。「経営者は『こうしたいのだが,できるかね』とサプライヤにぶつけて欲しい。IT技術を持つサプライヤは何とか実現しようと知恵を絞る。サプライヤからの提案で構築したシステムが良かったという話を聞いたことがない」

 日本ユニシスの島田社長も,80年代売上高が拮抗していた米ウォルマートとKマートが,前者は史上最高の決算をあげ,後者は倒産した例を引き合いに出し,「KマートのCIO(情報最高責任者)は最近3年で4人交代した。それに対しウォルマートはロジスティック担当のCIOが社長に就いている。ITは企業戦略そのもので経営者のビジョンが重要だ」と,椎名最高顧問の考えを支持した。

 椎名最高顧問が講演の最後に「危機がないと経営者にビジョンは生まれない。にもかかわらず,最近の経営者からビジョンを聞くことが少なくなったということは,日本は政府のトップも含め15年前の米国や英国とは違い危機意識がまだ少ないのだろう。私は,今の日本は敗戦国だと思う。まるっきり違う国に建国し直さなければならない」と締めくくったのが参加者の共感を呼んでいたようだ。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)