企業がIPv6を導入するシナリオは,大きく次の二つがあると思われます。
1.IPv6の普及に合わせて導入する
インターネット技術を企業ネットワークに活用する「イントラネット」によって,社内システムの開発期間と開発コストが大幅に削減されました。これと同じ効果は,IPv6がある程度普及した段階で社内ネットワークをIPv6化すれば,再現できるでしょう。このアプローチを選ぶなら,世の中の状況に合わせ,社会的にIPv6の利用が広がった頃合いを見て,自社ネットワークに取り入れるのがいいでしょう。2.積極的にIPv6を導入する
現在の業務システムが抱える問題はいくつもあります。典型的なものとしては,コスト,セキュリティ,柔軟性,拡張性などがあります。これらの課題のいくつかが,IPv6を活用することで解決できます。このように,今ある課題を解決するという目的でIPv6を取り入れるというシナリオもあります。
一般には,前者の「IPv6の普及に合わせて導入する」というシナリオから導入時期を想定するのが自然だと思います。後者の「積極的にIPv6を導入する」というシナリオを選ぶ場合は,直面している問題をはっきりさせてから,IPv6に詳しいインテグレータと一緒に検討・構築するのがいいでしょう。
では,世の中にIPv6が広まり始めめるのはいつ頃になるのでしょうか。これは,各種のネットワーク機器,サービス,アプリケーションが,いつ頃からIPv6環境で利用できるようになるかということと深く関係します。現時点のIPv6対応状況を見てみましょう。
まずルーターですが,IPv6対応ルーターは,NECや富士通,日立製作所などが出荷を始めています。SOHOルーターの分野ではヤマハもIPv6対応を始めましたし,アライドテレシスもIPv6対応を今秋から始めることを発表しました。また海外メーカーにおいても,米シスコ・システムズをはじめとする大手ネットワーク機器ベンダーはIPv6対応を積極的に進めています。主要機種の大半はこの1年でIPv6対応を終えることになるでしょう。
次にインターネット接続事業者(プロバイダ)のIPv6化です。現在,10社以上のプロバイダが,IPv6サービスを提供するために必要なアドレス情報(IPアドレスの先頭部分;プレフィクスと呼びます)を割り当ててもらっています。商用サービスは2001年4月にNTTコミュニケーションズが始めました。またインターネットイニシアティブ(IIJ)も,商用サービスへの移行を前提とした試験サービスを提供しています。このほかにも,Jens,KDDI,NEC,大阪メディアポート(OMP),富士通などがIPv6実験サービスを提供しています。これらの実験サービスは,今年から来年にかけて商用サービスへ移行していくものと思われるので,2002年にはいくつものプロバイダが商用のIPv6サービスを提供することになるでしょう。
マシンはどうでしょうか。UNIX系OSについては,BSD系もLinux系も米サン・マイクロシステムズのSolarisもほぼIPv6対応は終わっています。パソコン用OSとしては,マイクロソフトが今年後半に発売予定のWindowsXPがIPv6を標準装備する予定ですし,米アップル・コンピュータは最新のMac OSでIPv6に対応することを表明しています。
アプリケーションは,OS同様,UNIX系の対応が進んでいます。DNSサーバー,Webサーバー,メール・サーバーなどの主要製品は,ほとんどがIPv6化を終えています。ただし,パソコン用アプリケーションはこれからといった状況にあります。それでもWindowsXPが発売されれば,クライアント側アプリケーションのIPv6対応は加速されることでしょう。
もう一つ,見逃せない動きとして,パソコン以外の端末がIPv6化するという動きがあります。例えば,現在,総務省の平成12年度補正予算(80.5億円)で情報家電のIPv6化が国家レベルで推進されています。また携帯電話の世界でも,次世代携帯電話の仕様にIPv6が標準規格として組み込まれることが決まっており,IPv6を使ったIP携帯電話のフィールド実験が国内外で実施されています。
紹介してきたように,IPv6の環境は今年から来年にかけて飛躍的に進展する気配が濃厚です。こうしたことから,早ければ2002年中にも,複数の企業がIPv6によるシステム構築に着手するようになると思われます。
ちなみに,私が所属するNTTコミュニケーションズでは,1999年12月から2001年4月まで,IPv6の実験サービス「IPv6OCNトンネリング実験」を実施してきました。そこには多くのユーザーの方々に参加していただきましたが,顔ぶれはさまざまでした。IPv6の機器やソフトウェアを開発している企業やシステム・インテグレーションを手がけている企業だけでなく,一般企業も参加されました。一般企業の参加目的は,IPv6ネットワークの構築・運用ノウハウを蓄積することです。こうしたことから,すでに一部の先進企業は,IPv6の導入を真剣に考え始めていることがわかります。
もし,今年社内ネットワークの更新時期を迎えるのなら,導入予定の機器がIPv6対応なのかどうかを確認するようにした方がいいでしょう。今年からIPv6を運用しないにしても,いつでもIPv6化できる体制を整えておけば,余裕を持ってIPv6化を進めることができるからです。