はじめまして。慶應義塾大学 環境情報学部 専任講師の南 政樹です。

 これから約1年間,IPv6を中心にしてTCP/IP技術について解説させて頂くことになりました。まだまだ新米教員なので至らない点があるかも知れません。どうか温かい目で見守っていてください。宜しくお願いします。

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 2000年は,国会で首相の口からIPv6(IP version 6)という言葉が飛び出すという“事件”があり,これをきっかけに「IPv6」が多くのマスコミで取り上げられた年だったと思います。私が所属している研究室には,毎日マスコミ各社からの取材依頼が殺到していました。私はIPv6に長年携わってきたので,この一連の出来事は個人的にとても嬉しかったのですが,その反面,この言葉の示している技術やその背景を知りたいと思っている人たちに,それが伝わっているかどうかとても不安になりました。というのは,IPv6を説明するのに苦労してきた経験があるからです。

 これまで色々なところでIPv6について解説をしたり,その可能性について議論してきましたが,IPのような基盤技術は「縁の下の力持ち」で利用者にとってはあまり馴染みがないというのが正直なところだと思います。だからと言って,わかりやすい例を挙げようとすると誤解されることがたくさんありました。

 その後,私は一つの大きな誤解をしていたことに気が付きました。それは「IPv6は一つの技術ではなく複数の技術の組み合わせである」ということです。つまり,これを一つにまとめて説明するのはとても無理だということでした。

 このような経験から,IPv6の全体像を体系的に説明できる機会があれば,とずっと思っていました。そうした中,こういう機会に巡り会えたことを本当にありがたく思っています。

 さて,というわけで,今回からほぼ1年間をかけてインターネットの原理からIPv6が持つ重要な機能・特徴,そしてインターネット技術全般について解説したいと考えています。どうぞ宜しくお願いいたします。

インターネットとは?

 私は学生から「インターネットとは何ですか?」という質問をたびたび受けます。同じキャンパスで教鞭をとっていらっしゃる村井純先生はこの質問にこう答えていらっしゃいました。

「携帯電話,衛星通信,糸電話――。(自分からみて)隣にいる人に情報を届ける技術はたくさんある。こういういろいろな技術を横に並べて,その上に風呂敷をかけてやって,風呂敷の上から見ると全部が同じように見える,その上で「あそこと通信したい」とか言える,そういう技術がインターネットである」

 インターネットの語源は,異なったネットワークを相互につなぐネットワークという意味の言葉 ~ inter-networking ~ です。村井先生の「風呂敷」の例はまさにネットワークのネットワークを表現したものだと思います。図1はそれを示した図です。

 
図1 データを伝える技術はいろいろ
 

 同じような質問に対してもう少し具体的な例を示すために,私はインターネットの機能を宅配便になぞらえます。宅配便で荷物を送りたいと思った人は,まずその荷物を梱包し荷札(送り状)に必要な情報を書き込みます。そして最寄のコンビニエンスストアや宅配業者にその荷物を渡します。荷物を受け取った宅配業者は,荷札に書かれたあて先の住所を見てそこに最も近い自社の集荷場(あるいは営業所)を割り出します。そして荷物をその集荷場まで届けます。続いて,集荷場(あるいは営業所)の担当者は,あて先住所の家にその荷物を届けます。こうして最終的に,荷物はあて名の主に手渡されます。

 
図2 小包み(パケット)が配送されるしくみ
 

 さて,この例には,荷物を送りたいと思った人とその荷物を受け取る人が登場します。インターネットではデジタル化された(数値化された)情報がこの荷物にあたり,荷物の送り主とあて名の人がそれぞれ送り元(source)とあて先(destination)のコンピュータにあたります。次に荷札にはそれぞれの住所と名前が書き込まれていました。「住所=位置を特定する部分」「氏名=個体を特定する部分」と考えると,これはインターネットの場合でもまったく同じしくみになっています。ただ,コンピュータの場合は,住所と氏名のそれぞれはあらかじめ決められた形式の数値になります。詳細はおいおい説明することにしましょう。

 ところで,このように何かを説明する時に,そのものの機能や特徴に着目したり何かに例えたりして,抽象的に説明することがしばしばあります。モデル化はそういう手法の一つです。次回は,インターネットの原理やしくみを説明する上で是非知っておいて頂きたいモデルについて説明します。

 この連載では,ゆっくりしたペースで説明を進めていきたいと考えています。もしわからなくなったら,一度立ち止まり,前の説明を読み返すなどしてじっくり考えてから読み進むようにしてくださいね。