これまで長い間,IPv4ネットワークの運用を担当してきた。IPv6の検討を始めることになったとき,正直,本当に導入する必要があるのか疑問だった。

 よく言われる話だが,今のユーザーは現在のIPv4インターネットにそれほどの不便を感じていない。企業はコスト削減のような明確なメリットがなければ導入に慎重になるだろうし,個人ユーザーはあまりインフラを意識しないので,サービスが利用できればほかのことはあまり気にない。検討作業は,現時点でのIPv6の利用者層をイメージできない状態のまま進めるしかなかった。

 一方で,IPv6網の作り方もはっきりしていなかった。例えば,IPv4網がそっくりIPv6網に乗り替わってしまうような移行モデルには違和感があった。

 そうしたIPv6に対する意識は,昨年,IPv6 Summitに運営委員として参加したことで変わり始めた。それまであまり交流のなかったIPv6コミュニティや,IPv6サービスを始めた他のISPの担当者と議論する機会を得て,いくつか考えさせられることがあったからだ。

 まず,利用形態を絞ればIPv6の導入を具体的に検討できるところまで環境が変わってきたことを再認識した。そして議論する中で,“IPv6とIPv4は違うものである”という認識を共有できた。

 もちろん人によって温度差はあるし,見方の若干の違いはある。だが,それぞれを違うものと認識し,IPv4すべてをIPv6に乗せ替える必要はないということは皆一致した。こうした見方をIPv6を促進する立場の人が言うと否定的に聞こえるかもしれない。でも僕は,逆に導入の可能性を感じた。

 乗せ替えという話になると、すでに確立されたIPv4ネットワークとの比較になってしまい,コストや安定性の面でリスクが大きくなる。しかし,IPv4と同居することを考えられるなら,利用したい分野から段階的に適用できるようになる。

 IPv4のISPを始めた当時も問題はあった。ただしそのときは,すでに学術レベルではあったがIPv4ネットワークはあったし,米国ではサービスが始まっており技術的にも運用的にもある程度の指針があった。また,サービス利用者が少ない状態から始めることができたので,手探りで問題を解決していく時間も持てた。

 これに対して今回のIPv6は,幸か不幸かすでに広く普及したインターネットへの適用となる。周囲の期待は大きいが,その分リスクに対しても敏感だ。こうした状況下でIPv6を適用するには,新しい分野や端末から始めるのがやりやすいように思う。例えていうと,家族や物が増えて家が狭くなったとき,家を土台から建て直すよりも増築するほうが簡単だというようなものか。

 もうひとつ強く印象に残ったことは,他のISPもやはりIPv6の導入に不安を抱いていたことだ。これは,自分だけではないという意味で少し安心した面もあるが,別の面ではちょっと不安になった。というのは,ISP関係者が不安に感じている問題がいくつもあったからだ。具体的には,仕様の理解の不足,運用モデルが不明確,運用上必要な製品と機能(SNMPなど)の不足などがある。これらはどれも解決していかなければならない課題である。

 最近になって,これらの不安を共有するいくつかのISP運用者が集まって,IPv6のISPとはどんなもので,どんなことが必要なのかを運用面から議論している。議論は,アドレス管理やルーティングなどのカテゴリ別に進めることにした。すでに何回かミーティングしたが,いつも活発な議論が交わされ,参加人数も増えている。

 多分そこで議論されている問題のいくつかは,IETFの場やベンダーの開発現場でも議論されているだろう。ただ,運用の立場で問題を検討すると,研究開発者とは違った対策方法が見つかったり,新たな仮題が見えてきたりする。こうして得られた運用側の要望をまとめ,開発者と協力してよりよい環境を作っていければうれしい。

 今ある機器で効果のあるIPv6の利用方法を見つけ,それを実際のサービスに組み込めたらと考え始めている。実際のサービスにこだわるのは,きっと本当の発展は実際のサービスに使って初めて達成できると思っているからだ。


IPv6 Summit
 IPv6の普及団体である「IPv6 Forum」が主催している啓蒙イベント。昨年末には日本でも開催された。
議論している
 IPv6オペレーション研究会。ISP運用者などIPv6関連技術者の有志が集まり,IPv6を実運用面から検討している。

猪俣 彰浩
富士通のインターネット接続サービス「Infoweb」の立ち上げに参加。バックボーン・ネットワークの運用を担当している。目下,富士通のネットワーク・サービスのIPv6対応を検討中。力不足を感じながらも,なんとかよりよい形でお客さんに利用してもらえるよう努力している。