IPv4では絶対に真似できない,IPv6の特徴は何か――。こう聞かれたらグローバルでかつ広いアドレス空間を持っていることと,まず答えるだろう。

 この特長にはインターネットでの通信におけるパラダイムシフトを起こす大きな力が潜んでいる。IPv6では一つのサイトあたり「/48」でアドレスを割り当てることになっている。言い換えれば,一つのサイトで2の80乗という広大で,かつグローバルなアドレス空間が利用できるわけである。そんな状況を考えただけでワクワクしてくる。しかもそれは未来の出来事ではなく,既に始まっている現実なのだ。

 IPv6では,IPv4では実現できなかった新しいサービスが提供されるだろう。それと同時に,IPv6を適用する分野として,今までの発想を超えた新しい分野が加わるはずだ。電気を利用するほとんどの装置はIPv6を話す時代へと変わっていくのではないだろうか。

 IPv6が持つ広いアドレス空間うまく利用した特徴的な機能の一つに,Plug and Play(Auto-Configuration)がある。この機能や技術は今後のIPv6の展開を考えたとき必須なものだと思われる。この機能により,高度な技術的知識を持たない人が利用する装置でも,電源を入れたとたんに,あるいはケーブルをつないだとたんに,IPv6での通信環境が整い通信を行えるようになる。この機能の充実なくして,IPv6の新分野への展開は難しいだろうし,ましてパラダイムシフトも起こらないのではないだろうか。それくらいPlug and Playの技術は期待されているものだと感じる。

 現在IPv6では,ホストのアドレス設定を自動的行う技術はほぼ確立されている。しかし,それだけでは十分ではない。Plug and Playでカバーしなくてはならない範囲が広いからだ。ホストにおけるアドレスの自動設定はPlug and Playの基礎となる重要な技術ではあるが,それだけでそのホストがすべてのIPv6通信機能を利用できる状態になるわけではない。他にもDNSサーバーの位置や,目的とするさまざまな通信サービスがどこから提供されているかなど,通信に必要な情報を取得し設定しなければならない。Plug-in したばかりの状態からこれらの情報の取得設定を自動的に行う方法について,現在多様な観点からの研究開発が進められている。

 私が現在,最も注力しているのは,Plug-in したばかりのノードのホスト名およびアドレス情報をDNSに自動的に登録する機能である。IPv6アドレスは長い。それが特徴である。でも,それは同時にそのアドレスを記憶することを困難にする元凶ともなる。特にEUI64ベースのアドレスだと,規則性のない数字が並ぶアドレスとなるため,そのアドレスを記憶することは至難の業である。

 通信相手のIPアドレスが画面にでも表示されるなら,Cut & Pasteでなんとかなるかもしれない。しかし,任意の通信相手をIPアドレスで指定することは事実上不可能だ。そのため,IPv6で通信相手を指定するのには,通常はIPアドレスではなく,人間が記憶しやすいホスト名を用いることになる。(ホスト名にはIPv4かIPv6かの違いはには明示的に現れないので,ホスト名で相手を指定する方法は,IPv4からの移行を考えた場合にも都合が良い。)

 というわけで,Plug and Play環境においては,IPアドレスの自動設定がなされたあと,速やかにそのノードのホスト名をDNSへ自動登録する機能が必要になる。この手続きは一連のPlug and Play機能の実現のために不可欠な機能となるだろう。

 この機能を実現するのに必要な技術要素は,(1)新しくネットワークに参加したノードを即時発見し,(2)そのノードのIPv6アドレスを知り,(3)DNSへの登録が必要なアドレスかどうか検証し,(4)そのノードのホスト名を決め,(5)ホスト名及びアドレス情報をDNSに登録する――などである。現在,これらの機能を実現する方法をIETFに提案し,議論を行っている最中である。

 通常の通信ではホスト名を用いていればこと足りるので,一般のユーザーは長く複雑で人間が記憶しにくいIPv6アドレスを直接扱わなくて済む。しかし,通信インフラを管理する側はそうはいかない。IPv6アドレスを扱わなくてはいけない状況は多々ある。例えば,DNSデータベース情報を手動で構築する場合は,数字表記のIPv6アドレスを扱うことになる。この作業を容易にするためにも,新しくネットワークに参加したノードのIPv6アドレス情報を容易に収集する機能は重要で,上記の提案は,この処理にも利用できるアドレス情報の自動収集機能も含んでいる。

 IPv6は,少なくとも自分たちの子孫の時代になっても使い続けることができ,IPv6に代わる新しいプロトコルを考えなくてもいいように設計されている。つまり,インターネットの歴史においてIPが代わるなどということは当分ないはずである。従って,この時期にインターネットのプロトコルの研究開発に携わっている者の責任は大きいと思う。未来において,現在の出来事が笑って話せるよう活動を継続させていくつもりだ。

 新しいプロトコルを産みだし,普及させていくのは容易なことではない。解決していかなくてはならない課題も少なくないだろう。でも,それらは多くの人の努力により着実に解決されていくだろう。IPv6にはインターネットの通信におけるパラダイムシフトを起こす力があると信じるものとして,その変化の一助にでもなれれば幸せだと思う。


「/48」でアドレスを割り当てる
 128ビットのアドレスの先頭からの48ビット部分を固定してアドレスを割り当てることをいう。残りの80ビットの部分を割り当てられたサイトのポリシーで自由に利用してよい。一般に下位64ビットはインタフェースIDに用いるので,実際には16ビットの空間の裁量がある。これは割り当てられたサイトで2の16乗(64K)個にも及ぶsubnet を利用可能であることを意味する。
EUI64ベースのアドレス
 EUI64は,IEEEで定義しているMACアドレスから容易に生成可能な8バイト(64ビット)のアドレス体系の名称。Aggregatable Global Unicast Address, いわゆるグローバルアドレスでは,下位64ビットをインタフェースIDとしているが,一般にこの部分にはMACアドレスから変換されるEUI64形式の情報を用いることになっている。従って,インタフェースIDはまず重複することのない情報となるが,同時に規則性のない数字の連続にもなっている。

北村 浩
“IP”という宗教の長年の信奉者。現在はIPv6およびMobileIPv6を中心とした研究開発を行っている。IETFでIPv6関連の提案を多数行っている。趣味は,PCいじりかな。明確な信念を持っているわけではないが,自分が使うPCはまずケースを開け,多少分解してHardware構成を確認してからでないと,すっきりしない。第二の趣味として,主要なプログラミング言語(特にインタプリタ系)の完全制覇を目指しているが,時間がなくて全然進まない。これは引退後の楽しみに――と最近は考えている。