私は,日立のFLORA-ie 55mi(ゴーゴーミーと読む)というWebパッド製品に関する研究開発に従事している。この55miをベースにIPv6化の試作を行い,新しいネットワーク・システムの研究を進めることになった。

 55miという製品は,インターネット専用機器(インターネット・アプライアンス)として,ペン操作で気軽に,家屋内でソファに寝転がったままでも「インターネットできる」というコンセプトの下,機能特化したものである。

 このコンセプトを実現するため,55miは無線LANモジュールを内蔵し,携帯電話やPDAよりも大きな液晶パネル(10.4型,解像度SVGA)上のタッチパネルによって,専用ペンか指で操作できるようになっている。これをさらにIPv6化することで,P2P(Peer to Peer)で情報のやり取りが可能となる。OSには米TransmetaのMidori Linux(以前はMobile Linuxと呼ばれていた)を採用。米Netscape Communicationsのブラウザを搭載している。

 55miのIPv6化における方針として,ユーザーにできるだけIPv6のことを意識させずに,きちんと使える形にまとめることを考えた。55miのOSは,Linuxベースで開発しているので,相互接続性を考慮してIPv6対応はUSAGIプロジェクトのプロトコル・スタックを使うことにした。ちょうどUSAGI STABLE Release 4が2002年10月7日に出たので,これを載せることにした。

 アドレス設定時に,IPv6の128ビット・アドレスをペン操作で直接入力させることは大変困難である。しかし,実験環境などで直接アドレスを設定するケースも想定されるため,ユーザーの選択肢として残す必要があった。ペン操作で簡単に入力できるように,GUIでよく用いられるスピンボタン(数値をボタンで上下させる)で128ビット・アドレスを4桁ごとに入力させる手法も考えたが,ビット数が大きく,採用する効果は疑問なため,ソフト・キーボード/外付けキーボードによる入力を採用することにした。

 実際の使用においてIPv6アドレス設定は,RA(Router Advertisement)で設定する手法をデフォルトとした。このためIPv6対応ルーターがあれば,128ビット・アドレスを入力する必要はない。

 また当時,IPv6のDNSサーバーのアドレスは,IPv4のようにDHCPで自動設定可能なシステムではなかったため,直接手入力による設定手法しか取れない可能性があった。しかし,IPv4のパケットでDNSサーバーにAAAAレコードを問い合わせるケースが現状ほとんどであると考え,IPv4側の設定値も使える仕様にした。IPv4側では,直接入力のほか,DHCPによる自動設定が使えるため,デフォルト設定をDHCPとすることで,DNSサーバーに関しても間接的にではあるが自動設定できるようになった。

 これらは,USAGIのIPv4/IPv6デュアル・スタック構造に救われた感がある。IPv6ネイティブ環境が一般的になるころまでには,DNSサーバーのIPv6アドレスを端末側で自動設定させる手法の標準ができていることだろう。

 今回,55mi上で動作するアプリケーションのIPv6対応も進めた。ユーザーにとってIPv4/IPv6の違いを意識することがないように,IPv4版で採用していたWebブラウザとメール・ソフトのIPv6に対応した新しいバージョンのものをインストールし,動作確認を行った。

 またP2P(Peer to Peer)が体感できるよう,IPv6に対応した手書きメモというアプリケーション・ソフトも用意した。これは手書きメモを,55miあるいはPCとの間でP2Pに送受信するシステムであり,画面のハードコピーに手書きメモを追記して送る機能も備えている。例えば表示したドキュメントのハードコピーに対し,強調したい個所に色を付けたり,コメントを入れて相手に送ることができる。オフィスにおいて書類をやり取りするときなど,1つのコミュニケーション手段になれるのでは,と考えている。

 以上,述べたように,Webパッドである55miのIPv6化を進めた。IPv6の機能を用いてネットワーク設定が自動で簡単に行え,すぐに使える便利な端末になったと自負している。55miもそうだが,今後もエンドユーザーが触る端末において,より多くのユーザーに喜んでもらえる製品とは何かを考え,研究開発を進めていきたいと思う。

岩渕一則
 PC開発の仕事がやりたくて1984年に入社。実際にPCに絡み出すのは1993年頃からであり,それまではデジタル信号処理を用いた適応フィルタの研究に従事。PC分野に移ってから,ビデオキャプチャカード,PCカードDVDデコーダ,メディアプロセッサなどの研究開発に参加。2000年から組込みLinuxに触りだし,USAGIを利用したIPv6試作機器(VoIP電話とMPEG-4)を手掛けた。今回は3作目。週末は,DVDかCATVでSFドラマ・映画ばかり見ていて,家人に呆れられているが,今年はCSデジタルだと画策中。