

NTT東日本は現在,BフレッツとIPv6の組み合わせによる新たなアプリケーションの検証を目的に,「BフレッツIPv6サービス実験」を実施している。その実験項目の一つに「IPv6を利用したストリーミング・コンテンツの配信実験」がある。ピュアIPv6ネットワーク上で,HDTV(高精細度テレビ)クラスのストリーミング・コンテンツを提供するというものだ。この配信実験の開発・設計に携わっている。
ストリーミングとの出会いは,今から4年ほど前のことだ。当時私は,NTTの未来ねっと研究所で,WDM(波長分割多重)ネットワーク上での大容量映像マルチキャスト配信の研究開発業務についていた。そこでの実験は,ラボ内に構築した高速ネット環境でMPEG2や非圧縮映像を配信するというもの。その頃はまだ,数M~数十Mビット/秒のコンテンツを商用網で流すといったことは夢物語であり,「こんなレートのコンテンツで実サービスができるのはいったいいつのことだろう? いつか自分でやってみたいな」と漠然と思っていた。
IPv6については「“未来ネット”という研究所にいるんだから,勉強はしておかなきゃ」ということで,専門書などを読みふけってはいた。ただし,実装には手を出していなかったので,いつか思いっきり触りたいなぁと感じていた。
その後,NTT東日本に異動しフレッツ・スクウェアの開発・設計を担当することに。もっともフレッツ・スクウェアは,ちょうどフレッツ・ISDNが全盛を迎えている頃に作り始めたこともあり,仕事はストリームではなく,主にWeb系が中心となっていた。
もっともすぐにブロードバンドの世界が近づいてきた。フレッツ・ADSLやBフレッツが始まると,業務に占めるストリーミングの割合はどんどん増えていった。「これはハイレート映像が流せるかも」などと考えている矢先,米MicrosoftのWindows Media 9(WM9)によるHDTVストリーミングのデモを見る機会を得た。見た瞬間,「これをBフレッツで流したい!」と即座に思った。ちょうど1年ほど前のことだ。それから,あれよあれよという間に,Windows Media 9 Serverによる世界初のHDTV品質実網配信デモまで突き進むこととなった。
振り返ると,「これは夢だな」と思っていたことがわずか3年ほどでかなったことになる。こういった経験がきっかけとなり,冒頭で述べたIPv6業務に携わることとなった。「やってみたいな」と思っていたことがもう一つかなったわけだ。つくづく運がいい。
IPv6配信実験に取り組むに当たっては,まず「なぜこの業務をやるのか」という理由を自分なりに整理してみた。「好きだから」というのではなく,業務としての意味を問い直しておきたいと思ったからだ。
映像配信サービスを評価する尺度はいろいろある。映像の品質を高めることは,何よりも重要なファクターだ。これがクリアされれば,ビデオ・オン・デマンドはもちろんのこと,多面的なサービス展開への扉が開かれる。実際,上記のデモでは,商用網であっても高品質な映像が流せたので,社内外から多くの反響があった。品質が高いことは見る人にインパクトを与える。
次のポイントは,できるだけ多くの方に見てもらいたいということだ。より多くの人が関心を持ってもらうことが,未知なるサービスの足がかりとなると考えるからだ。しかも,多様なサービスを創造できるように,システム上の仕様制限は少ないほうが望ましい。
これらの観点に立つと,IPv4に比べ広大なアドレス空間を有するなど仕様上の柔軟性に富むIPv6は理想に近いものといえる。映像配信をIPv6で実現することは,十分に意義深いはずだ。
さて,動き出してからサービス開始までの期間は約6カ月だった。IPv6をまともに触るのは初めての経験だったが,専門書を読みあさっていた経験もあり,比較的順調に進めることができた。オープニングをWM9日本語版製品発表イベント「Windows Media 9シリーズ Digital Media Day & Digital Media Night」と同日に行うことが決まり,ブロードバンドシアターとしてパートナ協力することになった。アーティストのライブをエンコーダからサーバまでBフレッツで送り,再びBフレッツでブロードバンドシアターブースへライブ配信するデモを実施した。
高品質なライブ映像を,上りも下りも商用網(Bフレッツ)でクライアントへストリーミング配信すること,しかもそれをIPv6でやるのはとても意義深いことに思う。この実験の先には,個人放送局による魅力的な映像配信サービスがあるはずだ。当日のデモは,特に問題も起こらず,無事完了。きっと近いうちに,さまざまなアイデアを持った人々がそれぞれ工夫を凝らした配信サービスを始めてくれるのではないか,とわくわくしている。
もっとも,本サービスとして成熟させるにはまだコンポーネントが十分に揃っていない。エッジ系の配信システムでは,サーバー以外にファイアウォール,L4スイッチ,キャッシュといったコンポーネントが必要になる。これらに対する各種ベンダーのIPv6製品対応は,まだ出始めたばかりという状況だ。運用・監視系などのバックエンド・システムについても同様である。
端末系はWindows XPがIPv6スタックを標準装備したことによって,だいぶ現実的になった。だが,アクセス・ルーターやSTBなど,コンシューマ向け機器向けの実装などはもっと枯れる必要があるだろう。
これらの流れを加速させるためには,サービスとして動いているということを世の中に示し,訴求していくことが重要と考える。魅力的な未知のブロードバンドサービスを創造できるよう,今後も取り組んでいきたい。
小松健作
1997年NTTに入社し,ブロードバンド映像配信系システムの研究業務に従事する。2000年NTT東日本に異動し,主にフレッツ・ スクウェアの開発・設計を担当。昨年,BフレッツでのHDTV品質映像配信デモに携わり,入社時からの目標だった「きれいな映像を,この手で,エンドユーザサービス網で流したい」を達成できた。現在,「IPv6を利用したストリーミングコンテンツの配信実験」を担当。