日本テレコムでは2003年の5月からIPv6アプリケーション実験サービス「Chiervo(チェルボ)」を開始した。この実験では,P to P型のアプリケーションとしてインスタント・メッセージング(IM)とファイル共有サービスを個人向けに提供している。多分この記事が出る頃には,フリービットが推進しているIPv6実験「Feel6Farm」に参加している人も利用できる準備が整っていると思うので,このページを読むほとんどの人は利用できるようになっているだろう。ぜひ,一度試して欲しい。

 さて,Chiervoの開発に取り組もうと思ったきっかけは,IPv6に本格的に取り組むことになった2年程前までさかのぼる。

 当時,私はIPv6の接続サービスを開始すべくトンネリング・サービスやネイティブ・サービス開始のためバックボーン構築やシステム構築を推進する業務に携わっていた。その時に初めてIPv6について深く知ることになり,IPv6の現状を把握することやIPv6がもたらすであろう世界についてじっくりと勉強し考える機会を持つことができた。

 勉強していく中で,IPv6がいかに魅力的なもので,技術的にIPv4より優れている部分がたくさんあるかということを知り,知らない間にのめり込み,気づけば社内でも数少ない?IPv6推進派になっていた。

 しかし,同時にIPv6の現実も理解した。IPv6で利用できるアプリケーションがほとんどないとか,そもそもIPv6とIPv4を比較すると製品の豊富さや安定性や信頼性の面で,どうひいき目に見てもIPv4の方が優れているという事実を再認識させられた。さらに,これはすぐには埋められる差ではないとも感じた。

 そんな事を考えていくと,何かゆっくり腰を据えてIPv6に対応したアプリケーションを作ってみて,まずはIPv6の普及に貢献したいと思うようになり,その結果,ChiervoのようなP to P型のアプリケーションの開発を思い立った。

 この開発で最も重要視していたのは,IPv6のアドレス,端末に結びつく名前と,人に結びつくメール・アドレスのような名前の3つの融合を実現するプラットフォームを作りたいという点にあった。そもそもIPv6のアドレスは長いしABC表記もある。従って,書きにくい,読みにくい,間違いやすい。なので,一般利用者がアドレスなど意識しないような仕組みを開発しなくてはならないのはもとより,管理者の負荷が軽減できるようなシステムを開発しなくてはならないと思っていた。

 また,1人の人が複数の端末を異なる環境で持ち歩くなど,いろんな環境下で利用することなどが今後のユビキタス社会で想定されている。そこで,動的にIPv6アドレスが変わっても対応できるようにする事や,端末と人とをくくり付ける事ができるような仕組みを導入する必要があるとも思っていた。

 ここでは詳細については省略するが,Chiervoでは名前解決およびプレゼンス状態の把握のために,IMサービスではSIPとSIMPLEを採用し,ファイル共有サービスではダイナミックDNSを採用した。両方とも動的にIPv6アドレスと名前をくくり付け,しかもその時々の接続状態をリアルタイムにGUIで確認できる。現在は,どちらの方式が相応しいかなど,検証試験を進めているところである。

 話は変わるが,このChiervoを始めて一番感じたのは,まだまだIPv6に接続できる環境が世の中に少なすぎるということだ。実際,Chiervoの実験ホームページにアクセスしてきた95%以上がIPv4によるアクセスであった。つまり,生活環境としてIPv6を使っている人はまだまだ少ないというのが現実である。しかし,このページを見てIPv6対応にしたいと思ってくれた人が1人でもいるならば,今回の実験サービスはある意味で成功であったと思う。今後は,ぜひともIPv6へ気づかないうちに接続できる環境を増やしていこうと心に誓った次第である。

 最後に,今後ぜひ取り組んで行きたいと思っているのは,Chievoで目指す名前解決のプラットフォームの充実と,IPv6アクセス環境の整備である。Chiervoをやっていて痛感したのだが,結局IPv6になってNATがなくなってもファイヤウォールは残るため,SIPのようなプロトコルは疎通できない場合が生じ,結局利用者のルーターに特殊な設定変更を強要することになる。

 したがって,今後はぜひとも,利用者が高度な設定をせずに,自分だけの空間をセキュアに持つことができながら,しかも電話のような外部との通信もセキュリティを保ったまま行えるアクセス環境をIPv6で実現したいと思っている。


注:「Chiervo」は、あくまでIPv6アプリケーション実験サービスの名称で す。

吉井裕重
 1995年,日本テレコムに入社。1999年に日本テレコムの次世代IP網PRISMの開発に従事。その後,VoIPの開発,IPv6サービス開発に従事。現在も引き続きIPv6とVoIPのサービス開発に取り組んでいる。