IPv6普及・高度化推進協議会が主催する「IPv6アプリコンテスト2003」において,インプリ部門グランプリを筆者が開発した「IPv6マルチキャストを利用した着目点の遠隔共有ツール: FocusShare」でいただいた。

 FocusShareは多地点ビデオ会議ツールなのだが,ユニークな特徴を持つ。ビデオ映像を単に伝送できるだけではなく,話者が着目して欲しい点を示せ,参加者が自分の着目している点をフィードバックできるように,複数のポインタをオーバーレイ表示したり,着目点の画質を高めたり,拡大したりすることができるのだ。

 例として,着目点の拡大を説明すると,拡大する場所をマウスによって指示することによって受信者側に大きく表示する。通常のズームインでは,着目点以外の映像は切り捨てて,着目点だけの映像を送るイメージだろう。ところがFocusShareでは,着目点の周辺の映像も圧縮した形で送る。全体は写っているのだが,着目点のところだけ拡大されて,その周りがゆがんで表示されるというイメージである。これを「非線形ズーミング」と呼んでいる。なかなかIPv6が出てこないが,複数の端末に映像を送る際にIPv6のマルチキャストを用いている。

 私とIPv6とのかかわりであるが,知識としては以前からあったものの実際に使う機会がないまま過ごしていた。2000年頃,仮想3次元空間中のオブジェクトを人間が操作するためのツールキット・ライブラリを開発した。ここでIPv6マルチキャストを利用しようとしたが,その時点ではJavaからのIPv6利用がSolaris上でしかサポートされていなかったため,ライブラリには採用しないで終わった。

 マルチキャストによって,手にはめて握ったり,つまんだりといった手の動作を検出するグローブや,音声認識装置などの複数の入出力装置と複数のアプリケーションがサーバーを介さずに直接通信できる。しかし,上述のようにIPv6のマルチキャストは使えず,IPv4のマルチキャストを採用した。

 しばらくして,Windowsで映像や音声をマルチキャストでやり取りするためのDirectShowのモジュール(DirectShowでの呼び方では「フィルタ」)を開発した。この時もIPv6の利用を考えたのだが,実行環境がWindows 2000であったために結果的に利用しなかった。ちなみに,この時点では開発したDirectShowフィルタは「GraphEdit」というマイクロソフトのDirectShow用開発ツールから利用しており,独自の映像・音声伝送のユーザー・インタフェースを作っていなかった。

 今年度になって職場のソフトウエア・サービス関係の研究開発成果を公開するWebサイト構築の計画が持ち上がり,私も何か提供する必要が出てきた。DirectShowフィルタの提供だけでは使える人が限られることから,開発したフィルタを組み合わせて着目点の共有を可能とする遠隔ビデオ会議ツールを開発することにした。Windows XP でIPv6が正式サポートされたこともあり,通信にもIPv6を実際に利用するようにしてできたものが冒頭で述べたFocusShareである。

 このように自分のIPv6とのかかわりを考えてみると,新しい技術があっても開発環境や利用環境が整っていないとなかなか実際のソフトウエア開発に利用するところまでいかないという感じがしている。ソフトウエアを容易に作成するためのライブラリ,ツール,開発環境そして実際に運用する環境が現在以上に整備されることによって,IPv6ソフトウエアのより一層の充実が期待できると思っている。

 ところで,筆者が職場のWebサイトの構築担当となり,サイト公開後にはそれなりに効果があったことを示す必要に迫られた。アクセス数が多ければ公開の効果があったと言ってよかろうと考えていた時に,IPv6アプリコンテストでは応募してソフトウエアを公開すればコンテストのWebサイトからリンクしてもらえるようだということを知った。

 このように書くとお気づきだろう。実は筆者は,IPv6の活用そのものというよりも,Webアクセス増に役立てたいという不純な動機で応募したのだった。このような事情ながらグランプリをいただけたことは望外の喜びであり,また,大変光栄なことであると思っている。

 今後,FocusShareを実時間型(同期型)の遠隔会議・遠隔教育ツールとして役立てられるように機能拡張する予定である。IPマルチキャストを利用した遠隔操作機能の追加を行っており,その後,遠隔操作機能と多地点の映像の一覧表示インタフェースによって参加者からの映像・音声・着目点情報を制御する議長機能,映像上にマウスを使って線画をオーバーレイ描画できるホワイトボード機能も追加することを予定している。さらに,IPv6のアドレス空間の広さを活かしてセッションごとに利用するマルチキャストIPアドレスをサーバーなしで自動割当てする機能も実装する計画である。

 最後になったが,前述の筆者が構築している職場のサイトにアクセスしていただければありがたい。本稿執筆時点では,まだプレオープン状態であるが,グランド・オープン後はそこからFocusShareや他のソフトウエアをダウンロードできるようになるはずである。また,http://www.nime.ac.jp/~osawa/focusShare/にFocusShareの資料があるので,FocusShareの機能やIPマルチキャストの利用にご興味をお持ちの方はアクセスしていただければ幸いである。

大澤範高
 大学院修了後,小さな会社でOSを中心にソフトウエアの研究開発をしていたが,大学に転職し並列処理関連のソフトウエアを研究。その後,メディア教育開発センターに移り,遠隔コミュニケーション・システムおよび人工現実感技術を利用したユーザー・インタフェースと可視化の研究開発をしている。