Mobile IPv6の主役となる移動ノード

 ホーム・エージェントのIPアドレスを知るもう一つのしくみとしては,動的ホーム・エージェント・アドレス探索というものがある。ホーム・エージェントはMobile IPv6ホーム・エージェント・エニーキャスト・アドレスと呼ばれるアドレスを持っている。モバイル・ノードはこのエニーキャスト・アドレスあてにホーム・エージェント・アドレス探索要求と呼ばれるパケットを投げるのである。このパケットを受信したホーム・エージェントはホーム・エージェント・リストを含んだホーム・エージェント・アドレス探索返答と呼ばれるパケットを返信する。

 ホーム・エージェントのアドレスを知ったモバイル・ノードは,ホーム・エージェントにバインディング・アップデートを送信する。ホーム・エージェント上にバインディング・キャッシュができると,ホーム・アドレスあてのパケットはホーム・エージェントからIPv6トンネルを利用して転送される。

 一方,コレスポンデント・ノードにバインディング・アップデートを送信して,コレスポンデント・ノード上にバインディング・キャッシュができると,コレスポンデント・ノードはルーティング・ヘッダーを利用して,モバイル・ノードの移動後のアドレスを経由してホーム・アドレスへパケットを送信する。

 このようにモバイル・ノードは,コレスポンデント・ノードとホーム・エージェントの力を借りて,初めてネットワークを移動できるのである。

(秋定征世▼横河電機 IT事業部 ITプロダクト事業センター)


 Mobile IPv6は,ノードの移動をサポートするプロトコルであるが,この移動するノードをモバイル・ノード(Mobile Node)と呼ぶ。Mobile IPv6の世界では,モバイル・ノードが主役となる。ただし,あるノードが特別なプロトコルを実装すればモバイル・ノードとして移動できるようになるわけではない。モバイル・ノードがネットワーク間を移動するには,モバイル・ノードの通信相手であるコレスポンデント・ノードと,モバイル・ノードの移動前のネットワーク上に設置されたホーム・エージェントに対して,それぞれ移動したことを通知する手続きが必要になる。

 モバイル・ノードが移動したら,まず移動したことを通知する役割を持つバインディング・アップデートと呼ばれるパケットをホーム・エージェントに送信する。そのためには,ホーム・エージェントのIPアドレスを知る必要がある。

 ホーム・エージェントのIPアドレスを知るためのしくみの一つとして,ホームリンク上でホーム・エージェントが送信しているRAから取得する方法がある。ホーム・エージェントは通常のルーターとは異なるRAを送信している。RAにはプレフィクスを通知するためのプレフィクス情報オプションというオプションを加えることができる。通常のルーターが送信するRAは,ステートレスアドレス自動設定で使われるIPv6アドレスの上位ビット,つまりネットワークの識別子であるプレフィクスそのものを通知している。しかし,ホーム・エージェントの送信するRAのプレフィックス情報オプションには,プレフィックスではなく,ホームエージェントのグローバル・アドレスの128ビットすべてが含まれている。このRAを受信したモバイル・ノードは,ホーム・エージェントのアドレスを知ることができる。そして,そのRAの送り主であるホーム・エージェントを自分のホーム・エージェント・リストに加える。