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 短いテキストをやり取りするインスタント・メッセンジャ(IM)といえば,「個人間で使うもの」というイメージが強い。しかし,マイクロソフトは,Windows XP標準搭載のIM「Windows Messenger」を企業向けにシフトさせる。Windows Messengerといえば,XP発表時に「パソコンから電話がかけられる」という触れ込みだったソフト。IMにインターネット電話機能などを加えており,リアルタイム・コミュニケーション(RTC)ソフトという位置付けである。

 今後,パソコンから加入電話に発信する機能は,マイクロソフトのもう1つのRTCソフト「MSN Messenger」に譲ることになる。こうしたシフトは,現在開発中の企業向けRTCサーバー「Greenwich」(開発コード名)が今年夏に登場することと密接に関連している。この記事では,マイクロソフトが両Messengerをどう位置付けようとしているのかみてみよう。

◆企業向けにシフトを始めていたWindows Messenger

 Windows Messengerは,2001年にWindows XPと同時に登場したXP専用ソフトである。一方のMSN Messengerは1998年からWindows 98シリーズなど向けに提供している。現在はMac OS用,Pocket PC用のMSN Messengerもある。どらちのMessengerも,インスタント・メッセージを送ったり,ファイル転送や音声によるチャット(インターネット電話)ができる。

 Windows XPの発売当初,XP用のコミュニケーション・ツールとしてはWindows Messengerしかなかった。逆にWindows MessengerはXP以外のプラットフォームでは提供されていない。このため,これまでは,Windows XP用のWindows Messenger,それ以外のOS用のMSN Messengerという位置付けだった。

 しかし,この夏に予定されている企業向けRTCサーバー「Greenwich」(開発コード)のリリースを控え,マイクロソフトは両Messengerの位置付けを変化させてきた(図1)。Windows MessengerはGreenwichのクライアント・ソフトと位置付け,個人(コンシューマ)向けのRTCソフトとしてはWindows XPでもMSN Messengerを用いる。

図1●企業向けにシフトするWindows Messenger Windows XPにはWinodws Messengerしかなかったが,MSN Messengerも提供されるようになった。Windows Messengerからは加入電話への発信機能がなくなる一方,暗号化通信機能が加わり,RTC(リアルタイム・コミュニケーション)サーバーGreenwichのクライアントとしても使われるようになる。XP用のMSN Messengerにはビデオ・チャット機能も提供される。

 こうしたシフトは,実は2002年秋から始まっていた。第1手は,Windows XP用のMSN Messengerの提供である。マイクロソフトは2002年10月24日にMSN Messenger 5.0をリリース。Windows 98/ME用,Windows NT 4.0/2000用に加えて,Windows XP用も公開したのである。これ以前のバージョン,つまり4.7以前ではビデオ・チャットができるWindows Messenger,できないMSN Messengerという違いがあった。

 3月14日から,Windows 98や2000などでも,MSN Messenger上でビデオ・チャットができるようになった。これは米Logitechが提供する「Webcam for MSN Messenger」を用いるもの。MSN Messengerに対するアドイン機能として提供される。Windows Messengerではできない,3人以上でのビデオ・チャットが可能。MSNのサイトから無料でダウンロードできる。

 しかしWindows XP版のMSN Messenger 5.0はビデオ・チャットを使えるようになった。このため,XPには似たような機能のMessengerが2つ提供されることになった。

 XP版の両Messengerには,もちろん細かい違いがある。インスタント・メッセージの同時参加者数がWindows Messengerは5人なのに対して,MSN Messengerでは15人までである。MSN MessengerのMSNトゥディのコンテンツを表示したり,スパムをブロックしたり,親によるアクセス制限をかたけりといった機能は,Windows Messengerでは提供されていない。

◆企業でのIMの利用法は?

 企業内でどのようなIMの利用を想定しているのだろうか。B to Cの分野では,例えば,Web上で金融サービスを提供している企業が,IMによって迅速な顧客サービスを提供するといった使い方がある。刻々と変わる市況を相手に金融サービスを利用している顧客にとっては,いつ回答が来るか分からないメールでの顧客サポートよりも,IMによるその場でのサポートの方が好まれる。

 企業内でのコミュニケーションも,ビジネス・スタイルの変化により,机を並べた同僚とだけ仕事をするというわけには行かなくなっている。物理的に離れた場所によるスタッフと緊密に連絡を取りながらビジネスを遂行するというスタイルが生まれてきている。こうした場合に,IMが有効だと考えられている。

 ただし,今までのIMでは記録も残らず,情報の機密性も心配である。それがためにIMの利用を全面的に禁止している企業もある。そこでログ記録,暗号化など管理可能なIMを提供して,B to Cや企業内でのコミュニケーション効率を高める狙いがある。

◆Windows MessengerとMSN Messengerの差異化を図る

 4カ月間ほど同じように見えたWindows XP版の両Messengerに違いが表れる。米Microsoftは,2003年2月26日,Windows Messenger上からの加入電話への発信サービスの利用登録を停止したのである。両Messengerでは,パソコンにマイクとヘッドフォンなどを付けて,加入電話に電話をかける機能を持つ。国内ではイー・アクセスがサービスを提供している。月額基本料なしで3分20円,または月額基本料400円で3分10円の通話料で国内どこにでもかけられる。ところが,2月26日をもって,Microsoft社がWindows Messengerで登録機能を隠して,イー・アクセスのサービスの新規登録ができなくなったというわけである。

 Windows XPユーザーで新たに,加入電話への発信サービスを利用したいと思った人は,MSN Messengerを入手して用いる必要がある。すでにWindows Messengerで加入電話への発信サービスを利用している人は,2月26日以降もサービスを利用できる。

 だが,すでにサービスを利用しているWindows Messengerユーザーは,今後もWindows Messengerで加入電話にかけられるかというと,そうもいかない。Windows Messengerの次のアップデートでは,加入電話への発信機能は取り去られるのだ。

 ユーザーは,アップデートしないでWindows Messengerを使い続けるか,新たにMSN Messenger 5.0をインストールするかという選択を迫られる。もっとも既存ユーザーは,MSN Messengerにソフトを換えるだけで,今まで通りのID,パスワードでサービスを使えるということなので,“究極の選択”を迫られるというわけではない。なお,当初,マイクロソフトは次のWindows Messengerのアップデート時期を3月中旬としていたが,現在は時期未定としている。

 こうした変化は,加入電話への発信はコンシューマが家庭などで使うものであり,企業では必要ないという考えに立ったものである。企業向けでは,構内電話システムとの統合も視野に入れている。それは次のメジャー・バージョンアップではっきりする。

◆この夏にはGreenwich対応の5.0へ

 Windows Messengerは,Greenwichと同時期にメジャー・バージョンアップを予定している。「今のところ5.0と呼んでいる」(マイクロソフト,MSN事業部マーケティンググループの坂元淳一プロダクトマネージャー)次期版Windows Messengerでは,メッセージを暗号化して送ることができるようになり,企業の機密情報なども安心してやりとりできるようになるという。

 企業内通信の安全性確保だけでなく,企業内のRTCソフト・ユーザーが外部とメッセージ交換するにあたって,ゲートウエイを経由させることにより,メッセージのログを保存したり,機密情報を外部に漏らしていないか監視したりできるようにする。電子メールでは実現している監視機能をRTCの分野でも実現しようというわけである。

 また,APIを公開し,「インスタント・メッセージングのプロトコルを意識しないで,RTCのアプリケーションを作れるようになる」(マイクロソフト,製品マーケティング本部Windowsサーバー製品部の内野彰氏)。このような企業ニーズに応じたRTCソフトの作り込みは,SDKがないMSN Messengerではできない。この点が,今後の両Messengerの最大の違いとなる。

◆プッシュ型サービスのクライアントに

 両Messengerに対する重要なサービスとして「.NET Alerts」が2003年3月19日から始まった(関連記事)。これはサーバー側からクライアント(Messenger)に対して情報を送り込むプッシュ型のサービスである。国内ではJTBと東京三菱銀行がサービスを提供する。

 こうした.NET Alerts対応サービスはJTBや東京三菱銀行といった情報提供会社が自らサーバーを持ち,サービスを提供する。ただし.NET Passportの個人情報はマイクロソフトが持ち,管理する。

 マイクロソフトが運営するポータル・サイト「MSN」においては,マイクロソフトが同様のサービスを提供する。これは「MSN Alerts」と呼ぶ。このサービスはWindows Messengerでは利用できず,MSN Messengerを用いる。

◆MSN Messengerの今後

 さて,個人向けとして再定義されたMSN Messengerは,今後どのように展開するのだろうか。MSN Messengerはマイクロソフトが提供するポータル・サービスMSNのクライアントとして,今後もXPをはじめ各種OSで提供されていく。MSNでは「チャンネル」としてニュースや天気予報,スポーツ情報などを提供しているが,これをMSN Messenger上で表示するようにする。このため画面を切り替えるタブを増やして,コンテンツを提供する。

 2003年3月下旬からは,Mac OS X用の「MSN Messenger 3.5 for Mac」のダウンロードが開始になった。同ソフトでは,Mac OS XのAquaやQuartzといった新機能に対応して,Mac OS Xらしいルック&フィールを実現するとともに,Windows版でもまだ備えていない,チャットのログ保存機能が加わる。

(和田 英一=IT Pro)