■始めに

 皆さんは,様々なコンピュータショウや広告で,「CRMソフトウエア」という用語を一度は目にしたことがあると思います。コンピュータ業界では,新しいシステムが登場するときに,その時々の経営やビジネス上のテーマになっている流行語をセール・スポイントにしてきました。今は何と言っても「IT~」あるいは「e~」でしょう。でもこれらの言葉は,インターネットに対応していることは表していますが,意味が漠然としています。

 コンピュータを使った機能や手法を表す言葉としては,古くはMIS,SIS,ダウンサイジング,ネオダマ,BPR,TCO,最近のものではデータ・ウエアハウス,データ・マイニングなどがあります。皆さんはいくつくらいご存知でしょうか。このような用語は,特に知らなくても良いのですが,周囲で頻繁に使われると,それを知らないと遅れているかのような強迫観念に陥ります。

 コンピュータ業界は造語や他の分野から借用した言葉を使い,先進的なイメージを作るのが上手です。しかし,多くの人がそれらの言葉をキチンと分かっているかといえば,意外と表面的にしか理解していない場合が多いのです。これらの言葉の氾濫がこの業界をとっつきにくくしている悪弊だと私は思うのですが,中には大事な提案を意味している場合もあります。今はその代表が,CRM(Customer Relationship Management)と言えるでしょう。本来CRMは,低成長や成熟市場でのマーケティングの手法のことであり,どの企業にとっても重要な今日のテーマなのです。

図1●インターネットによって多数の個人や企業が繋がる

■今なぜCRM対応ソフトウエアなのか

 インターネットの発展以前のアプリケーションは,その大半がクローズな一企業のための内部システムでした。しかし,インターネットのアプリケーションの特色はオープン性にあります。それは非常に多数の個人や企業が繋がる点です(図1[拡大表示])。従って,それまでのクローズなアプリケーションでは不可能だった機能が実現できます。それは、企業と顧客の間で情報提供,閲覧など双方向のコミュニケーションを各段に容易にした点や,受注や予約が出来るようになった点です。この点に着目し,コンピュータ業界が,IT対応のアプリケーションのコンセプトとしてCRMを強調しているのです。

 メインフレーマーのプライベート・フェアに行くと,必ずと言っていいほどCRM対応アプリケーションの文字が多く目に入ることになります。今回は,CRMが本来どんな背景から登場し,どんな意味を持つのか,インターネットとCRMとの関係を,5回にわたって整理してみることにしましょう。

■CRMの登場理由

 CRMは,マーケティングを勉強している人にとってはおなじみの言葉だと思います。1980年代まで,経済は高度成長が基調でしたから,マーケティングのテーマは積極的で,市場シェアの向上でした。具体的には,新規顧客獲得のためのマーケティングでした。そこでは,顧客は同じような買い物の行動をする単純なものと考えられ,広く投網を打つように広告宣伝をし,売上げの向上を目指します。市場シェアでナンバー1になることが最高の経営目標でした。今では,そのようなマーケティングは一つの方法であったとして,マス・マーケティングと呼び,定義しています。

 しかし,欧米や日本のような先進国では市場が成熟し,経済は低成長になります。簡単に市場シェアは拡大できません。そこで,マス(大量顧客相手の)なマーケティングではなく,ターゲット・マーケティング(顧客を絞るマーケティング),リレーショナル・マーケティング(顧客との関係性重視のマーケティング)が登場してきます。市場シェアの拡大努力を止めたわけではありませんが,それまでの市場の成長性からくる楽観的な考え方から,もっと堅実に,慎重に市場や顧客をとらえるようになったのです。