■新しいマーケティングの考え方

 マーケティングの研究も進みました。その成果の一つが,新規顧客獲得のために非常に多くのコストがかかっていることが判明し,問題視するようになった点です。自動車メーカーの計算では,新規顧客の獲得に80万円くらいかかっているとの報告があります。なんと小型車が買える金額です。新規顧客獲得をしなければならない理由は,顧客はいつまでも顧客でいてくれるわけではなく,その中の一部はいなくなる,つまり顧客の喪失がありますから,喪失分を埋めなければならないからです。新規顧客を獲得しなければなりませんが,そのために高いコストが掛かるのであれば,新規顧客を獲得するよりは,顧客の喪失を最小限に押さよう,という考え方になったのです。これが新しいマーケティングのテーマになります。それは,より積極的には,継続的な顧客(リピーターと言います)作りを目指すことになります。

 買った商品の返品を何時でも受けるサービスをする通信販売会社や,メーカー以上に長い期間の品質保証を行う販売店があります。それは,安心して顧客なってもらう,新規顧客獲得などの目的もありますが,そのサービスによって長期間顧客になってもらい,その顧客にリピーターになってもらうことも目的です。そしてそのためにコストが掛かっても,新規顧客コストより小さいと考えているのです。このようにマーケティングのテーマは新規顧客の獲得から顧客維持になったのです(表1)。

 したがって,経営目標も市場シェア拡大志向=売上げ志向から,顧客をキチンと維持し,適正な利益をキチンと確保する利益志向に変ってきています。最近ではよく「ナンバーワン企業からオンリーワン企業へ」と言われます。オンリーワン企業とは,市場シェアでナンバーワンでなくとも,一定の市場シェアやニッチな市場でも特色のある存在になることを意味し,いたずらに競争をするのではなく,その企業を大事に思ってくれる顧客との信頼関係を重視する企業のこととも言えます。これも顧客維持の発想の1つではないでしょうか。

表1●CRMとマス・マーケティングの違い
CRM マス・マーケティング
経済成長 低成長 高成長
経営目標 利益志向 売り上げの拡大
目的 顧客の維持 新規顧客の開拓

■CRMとは

 このような新しいマーケティング考え方,つまりリレーショナル・マーケティングを別の言い方で表すと,CRMとなります。CRMはCustomer Relationship Marketing(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)の略称で,“顧客との関係を重視したマーケティング”のことです。そのテーマは顧客シェアの獲得です。「顧客シェア」? 耳慣れない言葉でしょうが,その意味は簡単です。顧客シェアとは,その人が生涯のうちに,ある商品を何回か買うとしたら,そのうち自社製品を何回買ってもらえたか,その割合のことです。あるお客が生涯で自動車を10回買い換えるとして,そのうち自社の自動車を5回しか買って貰えなければ,顧客シェア50%となります。目標は顧客シェアの100%獲得,つまりその10回すべて自社の自動車を買ってもらえることを目標にすることです。

 そのためにどうするかですが,その方法のひとつに,ポイントカードの制度があります。ポイント・カードを発行し,リピーターを優待する割引や特典制度を作るのです。お店を出るときにカードを渡され,スタンプを押し,10個押したら1回タダになる。皆さんもよく経験をしていると思います。