扇子 忠 オニックス・ソフトウェア取締役副社長

 今回は,eCRMシステムを導入する際に求められる要件を解説します。顧客との関係維持を重視するeCRMシステムの中核になるのは,もちろん「顧客」に関するデータベースです。経理,生産,在庫,販売,購買などの各業務を強化支援することを目的とした基幹系のデータベースとは違い,eCRMのデータベースはあくまで「顧客を知るため」の組織横断的な営業体制の強化を目的にしたものでなければなりません。企業によっては,すでにコールセンターのデータベースや,SFA(Sales Force Automation)のデータベース,あるいは電子商取引のデータベースを備えている企業もあるかもしれません。これらのデータベースを個々に運用するのではなく,すべてのデータベースを一元化し,また基幹系のシステムまで統合してこそ,顧客を多面的な角度から分析することが可能になり,社内の各部門が連携して顧客の対応に当たることができるのです。では,eCRMを実現するためのシステム導入上の要件を順に見ていきましょう。

ポイント1:
まずは顧客を選別すること

 eCRMは,顧客を知ることから始まります。そして「顧客を知って何をするか」ということが重要になります。顧客満足を目的とする従来のカスタマ・サービス活動は,ややもすれば「顧客との仲良しごっこ」でしかありませんでした。顧客を等しく扱うことを前提とするからです。これでは明らかに「利益の追求」と矛盾します。

 CRMでなすべきは「顧客の選別」です。大切なのは,すべての顧客の要望にいかに応えるか,ではなく,それぞれの顧客の要望に,応える価値があるかどうかを見極めることなのです。乱暴な言い方と思われるかもしれませんが「儲かる顧客を選別する」ことです。よって「顧客」の定義を明確にし,顧客の要望にどう応えるかというコンセプトを持ち,儲けさせてくれる顧客の選抜基準を持たなければなりません。「顧客の不満を解消すれば満足度が上がる」あるいは「満足度が上がれば,もっと商品を買ってくれる」というのは錯覚です。

 顧客を選別するとはいうものの,やはり多数の顧客のニーズ,ウォンツを知り,より大勢の顧客を獲得することも重要です。例えば,ワン・シーズンに3千万枚のTシャツや800万枚のフリースを売り切るという「UNIQLO」ブランドのように,「顧客は何を求めているのか」という視点に立って顧客を知る仕組みも必要なのです。

ポイント2:
ビジネス・モデルの構想と,それに基づいた設計

 eCRMは,単にインターネットを利用したCRMということではありません。言うなれば「市場の環境変化に対応する顧客中心ビジネスを遂行するためのビジネス・モデルの転換」なのです。ビジネス・モデルとは,事業戦略を実行可能にする業務プロセスや仕組み・仕掛けのことです。また,事業戦略とは,差別化(競合優位性)に基づく新しい収益源の確保と,その維持のことです。

 よって,eCRMの導入の際には,まず従来の業務プロセスの見直しから始めなければなりません。eCRMを導入しようとしている企業の話を聞くと,「同業他社のCRMやeCRMの導入状況を知りたい,見学したい」とよく言われます。しかし,システムの導入に際しては,他社のモノマネであってはならないのです。同業企業であっても,それぞれに抱えている問題は千差万別であり,ソリューションの目的や方法は当然ながら異なるからです。

ポイント3:
組織能力のレベルアップ

 eCRMを導入し成功するためには,それを活用してどんな価値が創造できるのかという問題意識を社員一人ひとりが認識していなければなりません。営業担当者が「顧客との面談で忙しい」という理由で,せっかく入手した顧客情報をeCRMシステムに入力してくれなければ,eCRMの本来の目的は達成できないのです。eCRMを成功させるためには,社員に参画意識を持たせたり,何らかの報奨を与えることも考えておく必要があります。これは「企業文化の改革」でもあり,企業のトップ層が先頭に立って旗振りをしなくては成し得ないと言っても過言ではないでしょう。

ポイント4:
システムのユーザー・インタフェースも重要

 さらに付け加えると,他のシステムとの,あるいは利用者との「親和性」に富むeCRMパッケージ・ソフトを選ぶことが重要です。せっかくのeCRMシステムも,バックエンドの基幹システムとの連携がとれないようでは効果は半減してしまいます。また,パソコンをあまり使ったことのない人でも自由自在に使いこなせるように,操作性や画面まわりに配慮したユーザー・インタフェースを持ったシステムにすることも必要です。

ポイント5:
何よりもスピード重視

 以上,eCRM導入の要件を説明しましたが,もう1つ,大切な用件があります。それは「スピード」です。今やスピードの時代と言われています。企業が,eCRM導入の決断を迅速に下せるかどうかがビジネスの明暗を分けのです。eCRMの検討や導入に手間取ってはならないのです。収益や市場シェアの拡大のためにどんなビジネス・モデルを構築するのか,何が最善策なのか,どんな情報が必要なのか,そういったいわゆる“上流”部分については大いに時間をかけて議論しなければなりませんが,システムの導入自体は短時間に済ませることが肝心です。最初から完璧なシステム構築やデータ収集を期待せずに,何よりもまずシステムの運用を開始するのです。運用を開始すると,必ずといっていいほど使用する現場からの修正依頼が上がってくるでしょう。要は,その際にいかにシステムの内容を適宜に変更できるかが,そのシステムを生かせるかどうかの重大なカギなのです。次回は,顧客情報の活用と管理の方法を見ていきましょう。