扇子 忠 オニックス・ソフトウェア取締役副社長
今回はeCRMの導入手順を解説していきましょう。eCRMシステムは企業内の従業員,顧客,協業パートナなど,広範囲のユーザーを対象としたシステムです。よって,マーケティング,セールス,サービス,サポート,その他の部門から,それぞれの事情によって,使い勝手や活用方法を変えてほしいという要求が必ず上がってくるはずです。それらのニーズに合わせて,システムの内容自体を変更する必要が多々発生するのです。eCRMの導入では,フェ―ズを分けてトライ&エラーで自社にあった形を模索していくことが賢明です。
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図1●eCRMのユーザー別アプリケーションの導入フェーズ |
eCRMの導入は従来のCRMと同じように,まず社内で顧客情報を一元化し,共有することから始めます。次に,顧客や協業パートナが使用できるアプリケーションに拡張します(
図1[
拡大表示])。ここで注意する点は,顧客向けアプリケーションでは,基幹系システムとの連携が切り離せない,ということです。特に,受注処理に関してどのような仕組みを用意するのか,既存のシステムとも合わせて考慮する必要があります。また,協業パートナ向けのアプリケーションを付け加えるときには,自社の顧客情報をどこまで開示するのか,うまくコミュニケーションをとるためにはどんな仕組みが必要なのか,などが課題になります。また,協業パートナ以外の第3者が顧客情報にアクセスできないように,セキュリティも考慮する必要があります。
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図2●社内従業員用のeCRM導入フェーズ |
最初に導入すべき社内従業員用のアプリケーションでは,自社で使えると判断できるパッケージ・ソフトを慎重に選び,カスタマイズを最小限にとどめ,試験的に特定の部門(例えば,営業)のある事業所(例えば,本社営業本部や支店営業部)で使用を開始するとよいでしょう。そこでひと月ほど使用すれば,設計段階では考えられなかった要求や問題点が提起されてくるものです。それに対応して,順次必要なカスタマイズをし,使用範囲を広げていくのです(
図2[
拡大表示])。そうすれば,今後発生するかもしれないシステムの問題の極大化を防ぐことができ,またサポート要員も最小化できるのです。
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図3●第1次(初期)導入フェーズ |
図3[
拡大表示]は,図2で示した第1次導入のフェーズをさらに詳しく説明したものです。eCRMの導入に際しては,プロジェクト・チームが編成され,導入のための計画が立案されるでしょう。それに基づき,市販パッケージ・ソフトを選定します。ここで,eCRMシステムを自社で開発するという選択肢もありますが,お勧めはできません。なぜなら,システムを一から開発すると費用と時間が膨大にかかるためです。連載第2回で述べたように,eCRMシステムの導入はスピード重視ですから,市販パッケージ・ソフトを使用した方が素早く運用を開始できます。すでに市販されているパッケージ・ソフトは,そのアプリケーションにそれぞれの特徴がありますが,eCRMを熟知したプロ集団で開発されているだけあって,その完成度は高いものです。
パッケージ・ソフトが選定できれば,そのベンダーとの緊密な打ち合わせが必要です。自社の現状把握や分析,要件定義や設定などを行った上で,パッケージ・ソフトのカスタマイズ作業に移行することです。その作業と同時に,顧客情報データベースの構築も開始しなければなりません。それらが首尾よく終了すれば,あとは従来の基幹系のシステムを運用してきたのと同じように,テスト稼働をし,ユーザー用のマシンを用意し,ユーザー向けトレーニングを順次行っていけばよいのです。