今まで,TCP/IPの基礎知識として,ネットワーク上のコンピュータを特定するための3つの“識別子”を解説してきた。3つの識別子とは,コンピュータ名,IPアドレス,MACアドレスである。それぞれを調べる方法や,コンピュータ名からIPアドレスを知るための「名前解決」についても説明した。また,データ転送におけるIPアドレスやMACアドレスの変換などの仕組みや,そのために必要なネットワーク機器も紹介した。

図1
 この連載は,WindowsネットワークでプロトコルはTCP/IPを利用し,LANとしてEthernetを使用することを前提としてきたが,ここで記した基礎知識は,今後ネットワーク技術をより深く勉強したり,システムの構築・運用を担当する上で,必ず役に立ってくるはずだ。
 ネットワークの知識が重要といっても,実は,新人SEとして最低限知っていないといけないネットワークの要点は,たった4点しかない(図1[拡大表示])。(1)名前解決の仕組み,(2)データ転送におけるアドレス変換の仕組み,(3)トラフィックの把握,(4)Ethernetが共有型のネットワークであること,である。  このうち(1)と(2)はこの連載で詳しく説明してきたつもりだ。連載の最後に,(3)と(4),すなわち,(1)と(2)の次に学んでいただきたいことについて,簡単に紹介しておこう。

トラフィックの把握

 トラフィックとは,ネットワークの特定の経路上を一定時間に流れるデータ量のことである。トラフィックが多い,つまり一定時間に流れるデータ量が多くなると,アプリケーションのレスポンスが遅くなるだけでなく,ネットワークの伝送能力の限界に達してデータの損失や遅延が発生する。

図2
 システム開発で最も重要なことの一つは,レスポンス・タイム(応答時間)である。そのレスポンス・タイムは,「クライアントでの処理時間+ネットワークをデータが流れる時間+サーバーでの処理時間」の合計である(図2[拡大表示])。各時間を最小にすれば当然,レスポンス・タイムも最小になる。

 最近の企業情報システムでは,ネットワーク上を流れるデータ量が急激に増えており,ネットワークがシステム全体のボトルネックになることが多い。トラフィックの見込みが甘いなどの理由で十分な転送容量が確保できていないと,ネットワークは渋滞を起こし,ときには使い物にならなくなることもある。トラフィックの把握は,ネットワーク設計において極めて重要である。

 では,どのようにしてトラフィックについて学んでいけばよいだろうか。この連載では,pingというコマンドを使って,名前解決の仕組みやデータ転送におけるアドレス変換の仕組みを実感していただいた。トラフィックについて理解を深めるためにも,実際にツールを使ってトラフィックの測定を体験してみることをおすすめしたい。トラフィックの把握というと,複雑な作業や高価なツールが必要なのではないかと思う人もいるかもしれないが,そんなことはない。実際にサーバーとクライアントの間に,ネットワーク上のデータを見るようなツールを入れればよい。数万円のものや,UNIXやWindows NT Serverが標準で備えるコマンドやツールでも十分である。

写真1
 例えばWindows NT Server4.0には「ネットワークモニタ」というツールが付属している。これは,マイクロソフトのシステム管理ツールであるMicrosoft Systems Management Server(SMS)についているネットワークモニタの簡易版である。SMSの完全版に比べて自分あてのデータしか見ることができないなどの制限はあるが,時系列でネットワーク上のデータを監視し,統計情報を表示したり,分析したりできる(写真1[拡大表示])これらのツールを活用しながら,ネットワークのトラフィックを把握してみると,ネットワークに関する理解がいっそう深まるだろう。

Ethernetは共有型のネットワーク

 Ethernetは共有型ネットワーク,つまり,一つのネットワークをそれに接続されたマシンすべてが共有することも覚えておいたほうがよい。共有型ネットワークでは,あるシステムのトラフィックが他のシステムに影響する可能性があるからだ。

 共有型ネットワークでは,先ほど説明したネットワークモニタなどを使って自分のシステムのトラフィックを把握しようとすると,他のシステムのトラフィックも同時に見えてしまう。これでは,トラフィックの増加によるシステム障害の原因が,自分のシステムなのか,他のシステムなのかが分からなくなる。

 自分のシステムのトラフィックだけを見るには,ネットワーク上のデータを選別することが必要だ。ほとんどのツールはこの選別機能であるフィルタリング機能を備えている。ここでは詳しい説明は省略するが,このフィルタリング機能を使うためにも,このセミナーで解説してきたデータ転送におけるアドレス変換の仕組みや名前解決の知識は重要である。

連載の終わりに

 第1回でもふれたが,企業情報システムの中でネットワークが果たす役割は,日を追うごとに大きくなっている。ネットワークのことはネットワークの専門家にまかせておけばいい,という考えは,今では通用しない。複数のシステムやアプリケーション・プログラムがどのようなデータのやりとりをするかを見越した上でのネットワーク設計や,ネットワークを考慮に入れたアプリケーション開発をしなければ,効果的な企業システムは作れない。もしあなたがアプリケーション・プログラムの開発者を目指すのだとしても,ネットワークを知ることから避けては通れないだろう。

 このセミナーで解説した「名前解決の仕組み」と「データ転送におけるアドレス変換の仕組み」を基にして,ネットワークに関する知識を深めていっていただければ幸いである。

 この連載は,日経オープンシステムに連載した「新人SEのためのネットワーク入門」の内容をもとに,Webコンテンツとして再編集したものです。なお,日経オープンシステム別冊「新人SEのためのネットワーク入門」では,本記事の内容を詳しく説明するほか,実践編としてトラフィックの把握やネットワーク設計の実際などの内容もご紹介しております。内容のご確認とご購入は,http://coin.nikkeibp.co.jp/coin/nos/se/でお願いいたします。