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 前回は,「次回は,Linuxがエンタープライズの世界で成功していくための最大の課題と考えられる,ある要素について述べていこう」と,思わせぶりな一文で筆を置いた。今回はその“ある要素”についてである。結論からいうと,その要素とは「上位ソフトウエアの品揃え」である。

プラスの循環に乗れるか?

 OSやハードウエアなどのプラットフォーム製品の市場での成功を決定する最も重要な要因は,テクノロジとしての優秀性ではなく,そのプラットフォーム上でサポートされるアプリケーション・パッケージなどの上位ソフトウエア製品の品揃えであるとガートナーは考えている。

 一般企業は,自社の業務に役立つアプリケーションを稼働させるためにOSやハードウエアを購買するのであって,優秀なテクノロジを入手するために購買するのではないからである(もちろん,あまりにも品質が低いテクノロジであれば,購買対象にはならないだろうが)。上位ソフトウエアの品揃えが充実したプラットフォーム製品は,当然ながら売り上げを伸ばしていく可能性が高くなる。

 一方,独立系ソフトウエア・ベンダー(ISV)の立場から見ると,苦労して自社のアプリケーションを移植する以上は,できるだけ売れ筋のプラットフォームにフォーカスしたいという事情がある。ソフトウエア・ビジネスのコスト構造はできるだけ多くのライセンスを販売することで開発コストを回収し,かつ多くのサポート収益を得ようというものだからである。そして,ISVが力を入れたプラットフォーム製品は,上位ソフトウエアの品揃えが充実し,ますます一般企業の人気を高めていくというプラスの循環を生み出していく可能性が高くなる。

 逆に,ソフトの品揃え不足→一般企業に受け入れられない→ISVの製品移植対象としての魅力減少→ソフトの品揃えがますます不足,という悪循環に入ったプラットフォーム製品は,テクノロジ的に見てどれほど優れていても市場で成功することは難しくなる。

 ソフトウエアを自社で一から開発するのではなく,できるだけ既存パッケージを購買するという,いわゆる“buy before build”の考え方がますます一般化する中で,ソフトの品揃えの重要性は高まっていくだろう(既に,米国においては,新規アプリケーション案件の75%以上でアプリケーション・パッケージ製品が利用されている)。

 これは当たり前のことに思えるが,IT市場の未来予測においてしばしば見逃されてきたポイントだ。例えば,1993年ころの話だが,ガートナーを含む多くのIT調査会社が「最終的にOS/2はWindowsに勝つ」という誤った予測を行ってしまった。

 確かにテクノロジとしてみれば,(当時の)WindowsはOS/2に劣っていたかもしれない。しかし,それは市場での成功にはあまり関係がなかった。OS/2が成功できなかった最大の要因はネイティブなアプリケーションが不足していたことにあったといってよいだろう。

 そうしたことから,ガートナーはISVのプラットフォームのサポート状況を定期的にモニターしているが,最近の顕著な傾向は,主要ISVが自社製品のサポート対象を売れ筋のプラットフォームに絞り始めているということだ。ビジネス向けソフトウエアのISVの場合には,まず第一にWindows,そして,Solaris,次にAIXおよびHP-UXというランキングになっていることが多い(SolarisとAIX,HP-UX間の格差は最近になりかなり縮小してきてているようだ)。

Linux用エンタープライズ・アプリの充実は時間がかかる

 では,Linuxはどうだろうか? Webサーバーを中心としたインターネット・インフラとしての活用であれば,アプリケーション・ソフトの不足はさほど大きな課題とはならない。Apacheを始めとするオープン・ソース系の上位ソフトは十分そろっており,サポートも積極的に行われている。また,商用のWebインフラ系ベンダー(例えば,BEA Systemsなど)もLinuxに力を入れているとガートナーは見ている。

 では,エンタープライズ・アプリケーション分野ではどうだろうか? すべての主要ISVが全面的にLinuxにコミットしているとはいえないだろう。ERP系のベンダーを例にとれば,SAPは比較的Linuxのサポートに熱心なようである。オラクルはデータベース・サーバー,特にクラスタ構成のデータベース・サーバーにおけるWindowsの代替案としてのLinuxに力を入れているが,E-Business Suite向けプラットフォームとしては積極的とはいえない。他のERPベンダーもLinuxに対する強いコミットメントを行っているのは小規模事業者にフォーカスした一部のベンダーに限られるようだ。

 エンタープライズ系のISVがLinuxに対して全面的にコミットしにくい理由としては,第一にスケーラビリティ上の問題が挙げられるだろう。しかし,これは比較的解決容易な課題と思われる。オラクルのRACのようにクラスタ構成でOLTPスケーラビリティを実現する製品も登場しているし,オープン・ソース・コミュニティもLinuxカーネルのSMPスケーラビリティの向上にフォーカスし始めている。困難な開発案件ではあるが,決して前人未到の領域というわけではない。

 より重大な問題点は,Linuxのディストリビューションが多種多様であり過ぎ,かつ,リリースアップの頻度も高すぎることだ。何よりも安定したサポートが重要なエンタープライズの世界では,これは望ましくない状況である。おそらく,United Linuxの登場により,この状況は多少緩和されることになるだろう。

 これらの問題点が解決され,エンタープライズ・アプリケーションの世界でのLinuxサポートの良循環が回り出すまでには今しばらくの時間を要するだろう。ガートナーとしては,遅くとも2008年までにはLinuxのエンタープライズ系アプリケーションのサポートが,Windowsや主流Unixと同等レベルになると見ている。Linuxが当面はインターネット・インフラOSと成長していくとガートナーが予測しているのは,上記のような分析によるのである。

 次回は新年第1回ということで,2003年のトレンドを占いたい。Linuxについては,さらに次の回で主流ベンダーのLinux戦略について述べる予定である。