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 前回,米Sun Microsystemsの今日の課題の種はSPARC/Solarisが成功しすぎたことにあると述べた。戦略の鋭さで知られるSun社も落とし穴にはまってしまった。IT業界において企業が継続して成功していくためには,どれほど成功していたとしても,常に新しい競合に目を光らせ,やり過ぎと思えるくらいの対応策を練る必要があるだろう。

◆“超心配性企業”Microsoft社

 米Intelのアンディ・グローブ氏はかつて「偏執狂でなければ生き残れない」と語ったが,「心配性でなければ生き残れない」と付け加えても良いのではないだろうか。

 この観点からいえば,最も優秀な企業の1つが米Microsoftだろう。過去においてNetscape,Java,AOLなど同社の競合の脅威への対応のスピードは極めて迅速かつフォーカスが定まったものだった。

 容赦なくライバルを叩き落とすMicrosot社の企業としてのイメージは,必ずしも好意的なものだけではないだろうが,同社の競合分析能力とその対応の迅速性については学ぶべきところがあるだろう。

◆今そこにあるLinuxの脅威

 Linuxが未だ一部のエンジニアの興味の対象でなかった時点から,当然ながら,Microsoft社は真剣にLinuxに対応してきた。ただし,今,Microsoft社が「オープン・ソースはソフトウエア産業にとって有害」「WindowsのTCOはLinuxより低い」などと声高に主張することがかえってLinuxへの世間の注目度を高める結果になっているのは皮肉なことかもしれない。

 このMicrosoft社をさらに心配させるであろうレポートを,ガートナーは1月20日にクライアント向けに公開した。ガートナーが例年12月に米国で行っているデータセンター・コンファレンスの来場者に対するアンケート調査の結果である。

 「仮に,Linuxの上位ソフトウエア(オープン・ソースとは限らない)の品揃えがWindowsと同等になったとしたら,Windowsの代替としてLinuxを採用しますか?」という質問に「はい」と答えた来場者の数は,2001年度では53%であった。これだけでも,Microsoft社がLinuxを真の脅威と考えるに十分であっただろうが,2002年度にはその割合は77%まで上昇した。

 このコンファレンスの来場者は米国の大企業の情報システム部門の意思決定者が中心である。明らかに,この1年間で,米国のエンタープライズ・カスタマのLinuxに対する見方はさらに好意的になっているのである。

 以前,エンタープライズにおけるLinuxの最大の課題は,上位ソフトウエアの品揃えであると述べた(掲載記事)が,この課題さえクリアーされれば,Linuxが(少なくともローエンド分野では)Windowsを急速に置き換えていく可能性が出てきている。

 そして,ソフトウエア・ベンダーのLinuxサポートも勢いがついている。昨年の12月26日付けの記事では,OracleがE-Business Suite(EBS)のLinuxサポートにあまり積極的ではないようだと書いてしまった(実際,その時点では同社から何の意図も表明されていなかった)が,先週開催されたOracle AppsWorldでは,データベースのみならず,EBSのアプリケーション・サーバーとしてもLinuxが全面的に推進される戦略転換が発表されたようだ(関連記事)。インフラ系だけではなく,エンタープライズ・アプリケーション系のLinuxサポートの急拡大も十分予測できる。

◆Microsoft社はどう対応していくのか?

 LinuxはMicrosoft社が今まで戦ってきた競合の中でも最大の強敵だろう。Microsoft社は,Linuxという製品と戦うのではなく,オープン・ソースというプロセスと戦わなければならないからである。ブラウザで典型的に見られたように,製品機能をバンドルすることによって,ユーザーにとって製品を実質無償で提供するという戦略は当然ながらLinuxには通用しない。同社がとり得る戦略には以下のものがあるだろう。

1.自社製品をオープン・ソース化する

 この流れで最も最近の動きは,1月14日に発表されたGSP(Government Security Program)である(関連記事)。これは,政府系の顧客に対してソース・コードへのアクセスを提供する契約体系である。ソースが公開されていない製品はセキュリティ面で安心して使用できないという,特に公共系のユーザーにおいて聞かれる最近の論調へ対応したものである。

 もちろん,ソース・コードの改変や再配布は許されていないので,真のオープン・ソースとは言えないし,そもそも,提供されたソース・コードが実際に稼働しているWindowsのバイナリと同じであるという保証もないことから,ソースを公開したからWindowsセキュリティが向上したとは単純にはいえない。

 Microsoft社の「オープン・ソース」とは,今後とも,特別な契約の元にソースを参照用に有償で公開するという形式に限定されたものとなるだろう。意味がないとまではいえないが,Linuxの脅威に対抗するには全く十分ではない。

2.Linuxの上位商用ソフトウエア・ビジネスに参入する

 OSの収益を捨てて,上位ソフトの収益増でリカバーするという戦略である。これは,Macintosh向けにInternet ExplorerやOfficeを提供したことにたとえられる。当時,世の中を驚かせたこの決断は,Mac向けにソフトを提供することによる競合の増大と,上位ソフトウエアの収益拡大とブラウザ市場における米Netscape Communications社の脅威の減少をバランスさせて見れば,Macをサポートした方が得であると判断したからに過ぎない。

 しかし,LinuxのWindowsユーザー・ベースに対する脅威はMacと比較してはるかに大きい。Microsoft社にとってみれば,あまりにリスクが大きい捨て身の戦略である。ガートナーは,今後,Microsoft社がLinux向けアプリケーションを提供する可能性はゼロではないが,かなり低いと見ている。

3.Webサービス・プロバイダへの変革を進める

 Microsoft社(というよりも,ほとんどのソフトウエア・ベンダー)の長期的な戦略は,“software as a service”,つまり,ソフトウエア全体をパッケージとして販売するのではなく,ソフトウエア部品をネットワーク経由で提供し,従量制で課金を行うというビジネス・モデルへの移行である。このような世界ではOSは何でも良くなってしまうし,OSを無償で提供してもビジネスとしては成り立つ。

 しかし,当然ながら,このような戦略は超長期的なものであり,今後数年間でこのようなモデルが実現することはない。Microsoft社は,当面の間,収益の3分の1と利益の大部分を稼ぎ出すデスクトップOSのビジネスを守ることを最優先とするだろう。

4.最高品質の製品を提供する

 短期的にMicrosoft社が取ることができる最善の戦略は,価格に見合うだけの品質とサービスを提供することだ(戦略というほどでもなく,当たり前のことだが)。

 適切な競合があれば,価格は下がり,品質は向上し,顧客はメリットを得られる。WindowsをLinuxで置き換えて常にメリットを得られるわけではない。しかし,代替案があるということを示すことで,Microsoft社との交渉を有利に進められるケースが今後とも増えてくるだろう。

 さて,エンタープライズLinuxについては今回で終了し,次回以降はまた別のテーマで書いていきたい。何にするかは現在考え中である。