ここ数回は,このコラムのタイトルにふさわしく,ガートナーによるここ数年間における基盤関連テクノロジ予測のさわりをご紹介していきたい。分析の大部分を省略して,いきなり結論部分を紹介しているが,これらの結論はユーザーやベンダーに対する地道な調査から得られたものであることはもちろんである。
◆急速に普及するLinux
第1回は,Linuxに関する予測である。Linuxについては,2002年11月から2003年2月にかけてもこのコラムで述べてきた(同連載第1回)が,その時点から比べても,米国におけるLinuxの普及のペースは加速しているようである。ネットワーク・エッジや計算クラスタでの採用は当たり前,今後はいかに基幹のビジネス・ロジックに応用していくかという段階に来ているといえるだろう。
一方,日本の普及状況はというと,進展はしているのだが,もう1つといったところだ。ガートナージャパンの最新の調査では,国内企業の約32%がLinuxを展開中,ないし,展開済み(昨年度の調査では27%だったのでやや上昇)であるが,3年以内に展開予定としている企業は2%(昨年度の調査では5%だったので下降)とちょっと寂しい状況になっている。米国の動向にすべて追随する必要はないが,インフラの領域ではワールド・スタンダードと異なる動きを採ることはあまり適切とはいえないだろう。
いうまでもなく,Linuxの普及を推進しているのは,ITの基盤テクノロジの急速なコモディティ化である。コモディティ化とは,テクノロジが成熟し,共通化が進むことで,製品間の差異化要素がほとんどなくなり,価格も安くなってくるということである。
「ITは電気のような存在である。不可欠ではあるが,もはや差異化要素ではない。」とは,Harvard Business Review誌2003年5月号の記事“IT Doesn’t Matter”(「ITなんて関係ないよ」)という記事における主張である。IT全体を十把ひとからげにして電気と同じようなものと主張する同記事の論旨には到底賛成できないが,少なくともインフラ部分については,急速なコモディティ化が進展していることは確かであろう。
◆機能的にも急速に進化するLinux
そもそも,過去とは異なりOS自身がベンダーの収益源になるということはほとんどなくなっている。それならば,自社で多大な開発コストをかけて無理やりに差異化要素を作り出すよりは,安価で“good enough”な機能を持つ共通テクノロジを使おうというのは自然な流れである。
そして,Linuxは“good enough”な機能を急速に備えつつある。既に,8ウエイ以下の環境では,6月20日の本コラムでも述べたように,LinuxはWindowsと同等以上の性能を発揮している。「2006年までに,Linuxの採用においてパフォーマンスは重大な考慮点にはならなくなる」というのが,ガートナーの予測である。
多くのプログラマがノウハウを結集できるオープンソース開発プロセスは,少なくともコモディティ化しつつあるOSの開発においては効果的であることは実証されたと思う(依然としてベンダーの差異化要素であるDBMSなどの上位ソフトウエアにおいてどうかは今後見守っていく必要があると思うが)。結果的に「2006年までにLinuxはUnixの機能のおよそ70%を備えることになる」とガートナーは見ている。
◆アプリケーションの品揃えの問題も急速に解消
OSの性能や機能面での格差が小さくなると,最後に残された差異化要素は,アプリケーションの品揃えになる。現時点では,Windowsおよび主流Unix(Solaris, AIX, HP-UX)がアプリケーション品揃えの面で明らかに有利な立場にあるが,この面でもLinuxは将来有望である。
ISV(独立系ソフトウェア・ベンダー)にとって重要なのは,自社の製品のライセンス数を増やすことであり,その点でも,安価で数が出やすいLinuxは有利だからである。実際,多くのISV(特に,インターネット系のISV)がLinuxを戦略の中心に据えている。ガートナーは「2010年までにISVが自社製品のUnix版をアップグレードしなくなる可能性もある」と見ている。
◆Linuxによりダメージを受けているのはWindowsではなくUnix
メディアの報道などからは,Linux対Windowsという図式が今最も注目すべきポイントであるかのように見える。しかし,実際には,今,Linuxにより最もリプレースされているOSはWindowsではなくUnixである。これは,LinuxもUnixの1バリエーションであり,アプリケーション・インタフェースの点でも,管理スキルの点でも移行が比較的容易であることを考えれば十分納得がいく。ガートナーは「2008年までの間,LinuxによりリプレースされるOSの50~60%がUnixであり,10~20%がWindowsである」と予測している。
もちろん,LinuxによりUnixが完全に市場から淘汰(とうた)されるわけではない。ハイエンドの領域においては,Unixはテクノロジ的な差異化要素を有しているし,既存顧客の資産のリプレースは,一般に緩やかなペースで進んでいくからである。これは,メインフレームが消滅すると長年にわたっていわれてきたにもかかわらず,依然として多くの企業の最重要アプリケーションを稼働させていることを見ても明らかだろう。実際,日米問わず,ハイエンド・メインフレームへの投資を継続しようとしている企業は少なくないのである。
◆日本企業は何をなすべきか
LinuxそしてIntelへの移行はIT基盤のコモディティ化という抗し難い流れに沿った動きである。とはいえ,適切に稼働している既存システムをあわててLinuxに移行する必要はない。インフラのLinuxへのシフトを5年以上のレンジの長期的案件と考え,新規システムの展開や問題を抱えた既存システムの置き換えにおいて,Linuxを適用できるかどうかを検討していくことが重要だろう。