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 「Webサービスのどこがそんなにすごいのか?」という質問をたまに受けることがあるが,筆者の答えは「テクノロジとして見れば,たいしたことはない」というものである。確かに,ファイアウォール・フレンドリなプロトコル,そして,XMLによる自己記述的メッセージなどの長所はあるが,革新的というほどのものではない。しかし,これは,Webサービスが取るに足らないテクノロジということではない。

 一般企業にとってWebサービスの最大のポイントは,単純なテクノロジであり,実装が容易であるということ,そして,標準化において多くのベンダーが比較的足並みをそろえていることだろう。これにより,Webサービスは,相互運用のための共通の仕組みとして安心して使いやすいテクノロジであるといえる。

 ここで,「比較的」と書いたように,今でも各ベンダーの思惑が完全に一致しているわけではない。しかし,過去に見られたDCOM[用語解説] 対CORBA[用語解説] ,J2EE[用語解説] 対.NET[用語解説] といったような拮抗(きっこう)関係はWebサービスの場合にはあまり見られない。米Microsoftと米IBMが歩調をそろえているということもあるが,今後のIT市場のパイ全体の大幅な伸びが期待できない今,標準化の無用な勢力争いを行うことは共倒れにつながりかねないことを多くのベンダーが認識しているということも大きいだろう。

◆SOAPの上位階層が充実する

 現状のWebサービスの基本テクノロジであるSOAP(Simple Object Access Protocol,用語解説),WSDL(Web Service Description Language,用語解説),UDDI(Universal Description, Discovery and Integration,用語解説)は, 単純な情報照会処理などの目的では充分であっても,シリアスなビジネスへの適用はこれだけでは難しい。

 今後数年間に,セキュリティ,トランザクション,フロー制御(ビジネス・プロセス管理)などのWebサービスの上位階層の標準が段階的に普及してくるであろう。具体的には,WS-Security,WS-Reliable Messaging,BPELなどである。結果として,2006年までには,新規アプリケーションの70%以上で何らかの形でWebサービスのテクノロジが利用されるようになると,ガートナーは予測している。

 この過程においては,前述のように,ベンダー間の意見の衝突はないことはないであろうが,OASIS[用語解説] ,WS-I,W3Cなどの標準化団体を中心に,少なくとも2006年までは,業界全体にある程度のコンセンサスが維持されていくであろうというのが,ガートナーの読みである。

◆Webサービスはサービス指向アーキテクチャを促進する

 サービス指向アーキテクチャ(SOA)については,10月31日の回でも触れたが,簡単にいえば,ソフトウエアをサービスという中粒度の部品の組み合わせとして構成する考え方である。短期的に見てWebサービスがユーザー企業に提供する最大のインパクトはSOAの推進にあるだろう。

 SOAの考え方は自社開発のアプリケーションやインフラ系のプログラムだけではなく,ビジネス・アプリケーション・パッケージにも影響を及ぼす。ガートナーは,ERPやCRMなどのビジネス・アプリケーション・パッケージ製品においても,今後SOA化が進行し,SOBA(サービス指向ビジネス・アプリケーション)と呼ぶべき新たなタイプのビジネス・アプリケーションが出現すると見ている。

 実際,既に,多くのアプリケーション・パッケージはブラック・ボックスではなく,外部に何らかの切り口を出す仕組みになっている。SOBAはこの延長線上にあるものである。ガートナーは,2006年にはビジネス・アプリケーション製品の80%以上がSOBAになると予測している。

 また,SOBAに向かう方向性は,アプリケーション・パッケージ・ベンダーのビジネス・モデルにも影響を与えるだろう。アプリケーション・パッケージは,もほや一枚岩の存在ではなく,(場合によっては他社製のサービスとも)組み合わせ可能の存在になってくる。この市場で主導権を握るために,多くのアプリケーション・パッケージ・ベンダーが,アプリケーションだけではなく,統合のためのミドルウエア分野に対するフォーカスを強めていくことになるだろう。実際,現在でも例えば独SAPにおいてこのような動きが顕著である。

◆Webサービスはソフトウエア開発生産性を向上する

 Webサービスにより,ソフトウエアのサービス指向化,つまり,部品化が促進されるとすると,次のステップはソフトウエアの再利用になる。ソフトウエアの再利用は,世にソフトウエア工学という概念が出現してから繰り返し議論されてきたテーマである。しかし,テクノロジの進化にもかかわらず,現在でもこの考え方がフルに活用されているとはいえない状況である。同一プログラム内での再利用は当たり前であるし,同一開発プロジェクト内での再利用も進んでいるが,複数のプロジェクトをまたがったソフトウエアの再利用はかなり限定的であろう。

 Webサービスの登場により,複数プロジェクトをまたがった,さらには,複数企業をまたがったソフトウエアの再利用が直ちに実現するかというと,これは難しいだろう。今まで再利用を阻害していた要因としては,テクノロジ面よりも標準化などの政治的側面が強かったからである。ただし,Webサービスが再利用促進の触媒になることは確かだろう。

 ユーザー企業としては,アプリケーション設計の当初から再利用を念頭におき,かつ,適切なガバナンスを行うことで,できる限りのソフトウエア再利用を図っていくべきである。ここで重要なのは,データの標準化よりもサービス呼び出しのインターフェースの標準化を優先すべきということである。以前にも述べたように,サービス指向=インタフェース指向だからである。ガートナーは,2008年までに,サービス指向の開発とSOBAの組み合わせにより,ソフトウエアの開発生産性を2倍以上に向上させることも可能になると見ている。