PR

 IT業界でよく聞くが,今まで当たったことがない予測の1つに「メインフレームは死に絶える」があるだろう。過去に聞いたこのような予測が当たっていれば,とっくにメインフレームはなくなっているはずだが,実際は,現在でもほとんどの大規模企業が自社の基幹業務をメインフレーム上で稼動している。

 「メインフレームを使い続けているのは日本だけ」という観測も正しいとは言えない。本当にハイエンドのIBMメインフレームが売れているのは実は米国だからである。実際,2001年度ではメインフレーム・ハードウエア市場は,前年比金額ベースで成長したが,これは,米国でのメインフレームの販売が好調であったことが大きかった。

◆テクノロジ的な優位性を持つIBMメインフレーム

 純粋にテクノロジとして見ても,メインフレームが時代遅れというのは全く正しくない。例年発表されているガートナーのサーバー評価において,テクノロジ分野で常にトップの評価を得ているのはIBMメインフレームである。これは,決して特別な考え方ではない。

 例えば,スケーラビリティについて見てみよう。TPC-Cなどの標準性能ベンチマークでは,UnixとWindowsが首位の座を争っている(関連記事)。おそらく,最強のIBMメインフレームでもこれを上回る性能を出すことは困難だろう。しかし,ベンチマークという実験室的な数字の話を別にして現実世界に目を向けると,真に大規模な処理を実行しているのはIBMメインフレームである。実際に2万同時並行ユーザーをサポートしているオンライン・トランザクション処理の事例もある。これは,まだまだ,UnixやWindowsでは達成できていない領域である。

 可用性をとってみてもメインフレームは優位性を維持している。現実の環境で99.99%以上のアップタイムを提供するのは普通になっている。たとえば,日本の金融機関などでは5年間以上も事実上無停止で稼働することも珍しくない。ハイエンドのUnixサーバーでは,クラスタ構成を採用してやっと単独のメインフレームと同等レベルの可用性を実現可能というのが,ガートナーの観測である。

 これには,ハードウエアそのものの信頼性もあるが,それをサポートするOSや上位ソフトウエアの障害回復機能が充実し,かつ,長年の使用により枯れてきている点が重要である。あるUnixサーバー・ベンダーのトップ・エンジニアの方が,「ハードウエアの多重化は簡単にできる。問題はそれをサポートし無停止で稼動できるソフトウエアの方だ」と語ってくれたことがある。

 さらに,ワークロード管理機能(関連記事),仮想化(関連記事)などの機能においても,UnixやWindowsが(さらに,最近ではLinuxも)メインフレームの後追いをしているというのが現状である。

◆もちろん多くの課題は存在する

 もちろん,IBMメインフレーム環境にも課題はある。当然ながら,コストは大きな課題である。しかし,ハードウエア・コスト的にはかつて言われたほど高価というわけではない。メインフレームも他のサーバーも採用している基本テクノロジは共通化してきているからである。

 問題はソフトウエア・コストの方だ。メインフレーム・ユーザーの方ならおわかりだろうが,メインフレーム系のソフトウエアには法外とでも思えるような価格が付いていることが多い(ハードとソフトの価格がほぼ同じになってしまうこともある)。これは,ある意味,メインフレームの宿命である。ソフトウエアのビジネス・モデルの基本は,大量販売することで,膨大な開発費を回収することにある。いったん作ってしまえば,その後の複製にはほとんどコストはかからないからである。メインフレーム環境では,導入ユーザー数の数が少ない(Windowsと比較すれば4桁違うだろう)ことにより,ソフトウエア価格を大幅に低下させるのは困難である。

 結果的にソフトウエアの品揃えも主流UnixやWindowsに大きく見劣りがする。新規アプリケーションにおいて自社開発よりパッケージを購買するパターンが増えていることを考えると,これはメインフレームの最大の課題と言ってよいだろう。

 スキルの老齢化も大きな問題である。メインフレームを熟知している世代が高齢化し,第一線を離れてしまうことは大きな問題だ。日本においても,2007年問題として語られることが多い(関連記事)。

◆メインフレームにコミットするIBM

 IBMメインフレームがハイエンド・サーバーとしてのテクノロジ的な優位性とユーザーへの価値を提供している以上,IBMが将来的にメインフレームに対して強力にコミットしているのは当然のことである。IBMメインフレームに対しては,今後とも継続的な機能強化と価格性能比の改善が行われていくだろう。結果として,IBMメインフレームは,少なくとも今後10年間,多くの大規模企業に対して価値を提供し続けるというのがガートナーの予測である。

◆IBM以外のメインフレームはどうか

 今までの議論は「IBM」メインフレームと書いてきたように,IBMのメインフレーム,すなわち,zSeriesに関するものである。それ以外のベンダーのメインフレームについてはどうだろうか?

 これらのメインフレームもハイエンドの領域において枯れた機能ゆえに安定性などの価値を提供しているのは確かである。しかし,ベンダーのコミットメントという点ではIBMに見劣りがする。結果的に,これらのメインフレームのリプレースは今後加速していくことになるだろう。特に,あえてメインフレームを使うまでもないローエンドの領域では,ユーザーは,積極的にメインフレームからの移行を検討すべきだ。

 ここで気をつけなければならないのは,メインフレームからの移行は単純にプログラムを書き換えれば終了するというものではないことだ。長い間使われてきたメインフレーム・アプリケーションには,それに関連する運用手順,業務手順,ノウハウなどが蓄積されている。これらも含めて新しい環境に移行することは,予想以上の負荷がかかることが多い。

 メインフレーム→悪→移行すべきという単純な考え方は適切ではない。メインフレームを使用することでどのような問題が生じているのかを把握し,他システムへの移行により,その問題が解決され,投資に見合う効果が実現されるのかを冷静に分析しなくてはならないのは当然のことである。既存のアプリケーションが有効に機能しているのであれば,インフラだけを取り替えことはせず,アプリケーション更改のタイミングと合わせてインフラも見直すという現実的な考え方が有効なことも多いだろう。