顧客サポートサービスの質はサポート要員1人1人の能力と,要員配置の手厚さに比例する。NTT番号情報が行っている電話番号案内,いわゆる「104番」も電話をかけようとする顧客からのさまざまな番号問い合わせに答えるサポート・サービスだ。同社にとってサポートの質を上げ,適切な要員配置をすることが業績に直結するわけで,従業員教育もこの2つが主要課題だ。そこで,2001年3月から番号案内職場のリーダー向け教育にeラーニングを導入したところ,効果はてき面だった。

NTT番号情報のeラーニング導入状況

教育内容トラヒック・サービス管理,電話番号データベースのしくみ
対象者全国の案内センターの現場リーダー
社内研修におけるeラーニングの位置付け対面式と組み合わせて利用
eラーニング導入のねらい学習効果の向上,研修費用の削減
eラーニング導入の効果学習効果,研修費用のいずれも目に見える効果
受講者への強制力就業時間の中でeラーニングによる学習時間を確保
研修費用サーバーの利用,コンテンツ制作で初期導入費が710万円
インセンティブ特になし
コンテンツ・ベンダーNTT番号情報+NTTラーニング・システムズ
システム・ベンダーNTTラーニング・システムズ

●女性の多い職場で,数日間家を空けての集合研修が大きな負担

 NTTの電話番号案内業務が1998年にNTT番号案内株式会社として分離独立する中で,104の電話番号案内業務も都道府県単位の電話帳ベースから全国共通の電話番号データベースを検索する方式に改められた。この切り換えの中で,番号案内業務のために各都道府県に配置したコールセンタでは,現場のリーダーであるスーパーバイザー,サブスーパーバイザーに対して,電話番号データベースを使った検索の仕方,及び日別の問い合わせ発生件数の予測とその予測に応じた要員の配置の仕方を学習させた。案内業務の作業者であるコミュニケータの作業効率を上げる一方で,配置するコミュニケータの人数を最適数に絞り込まなければ収益を良くすることができないからだ。

 コールセンタは全国に63カ所,コミュニケータ7000人を抱えている。これらのコミュニケータはNTTグループの人材派遣会社NTTソルコなどからの派遣社員だ。eラーニングを導入したのは,これらの派遣社員の中でリーダーとなって,コミュニケータの業務の改善,出勤日の管理などを行っている人たちのための研修だ。

 以前はリーダーたちを東京・港区のNTT番号情報本社に集めての集合研修のみを行っていた。数日間研修会場にかん詰になり,地方からは移動のための時間的なロスもあり,受講者の負担が大きかった。特に,NTT番号情報は女性の社員が多く,家を空けて多くの日数を要する研修に参加することは大変だった。また,研修が一過性で研修効果が継続しない,受講者間で研修効果のばらつきが大きい――などの問題点があった。そこで2001年3月からリーダー研修にeラーニングを導入し,集合研修の日数を減らした。

 eラーニングの仕組みは,受講者がNTT番号情報の教材サイトにアクセスして学習する。一つの項目が終わると演習問題が出され,答えが間違っていると解説画面が出て正解になるまで繰り返し,クリアすると次の演習問題というようにして学習を進める。学習は強制的で,番号案内センターの中にリーダーたちがパソコンを使って学習できる研修室を設け,勤務時間の中でeラーニングの学習時間を設定して確実に学習させる体制を作った。会社だけでなく自宅でも学習ができ,分からない個所はmailによる質問などの機能を使いながら,ピンポイントで繰り返し学習できるなど,学習の質を向上させた。

●番号案内用データベース「ANGEL」の使い方で作業効率が決まる

 番号案内業務は,顧客からの電話番号問い合わせに対して,電話口の顧客の言葉を手がかりに目的の電話番号を探し出すことだ。顧客が詳しい住所,組織名,人名などを知っていれば容易に検索できるが,詳細な情報を持たず,漠然とした場所や対象が提供する商品名,サービス名などから対象の組織名,人名を特定することから始めて,電話番号を探し出すことを要求されることも少なくない。

 コールセンタが使っている電話番号データベースは「ANGEL」と呼ばれる。このデータベースは単に電話加入者の組織名,人名と電話番号を並べただけではない。案内センターにかかってくるさまざまな問い合わせに答えられるように,いろいろな工夫が埋め込まれている。例えば,のあるJR駅の近くの飲食店について問い合わせがあると,そのJR駅周辺で候補となる飲食店の店名,住所,電話番号をデータベースから切り出しコミュニケータのパソコン画面に表示させる仕組みだ。データベースというより番号案内業務サポートシステムだ。

 かつて,番号案内が都道府県別の電話帳ベースで行われていたころは,番号案内のベテランは顧客からの問い合わせに対して,棚の上にずらっと並んだ電話帳から該当する情報の載っている簿冊を瞬時に抜きだし,さらに該当するページも覚えていてすぐにページを開くという技を身に付けている人がたくさんいたという。これが全国共通の電話番号データベースに置き換えられ,センターでの作業は一変した。電話帳に収録されたデータを覚える代わりにデータベースの構造を覚え,あいまいな情報からでもすばやく目的の電話番号を検索できるようになるには,新たなスキルを身に付けなければならず,このための教育研修が必要になった。

 電話帳時代には案内業務の担当者1人あたりの平均処理件数は1時間あたり30~40人だったのがANGELに切り換える中で,同100人まで上がってきた。教育研修なくしてはこのような高能率は実現できなかったに違いない。

 もっとも,案内業務は必ずしもeラーニングが効果的とは限らない。顧客から必要な情報をどうやって引き出すか,あいまいな情報をどうやって検索に使える情報にするか――これらは経験を通して身に付く。NTT番号情報の研修担当者も「eラーニングがすべてというわけではない。対面型と組み合わせることで研修効果があがると考えている」という。

●コール発生予測に従い全国65カ所のコールセンタの人員配置

 現場のコミュニケータの処理能力向上とセットで考えなければならないのが,コミュニケータの配置だ。発生する問い合わせ件数に対して,コミュニケータの人数が少なければ「104」はかかりにくいサービスの悪い状態になる。逆にコミュニケータを過剰に配置したのでは人件費コストがかかり収支が悪化する。そこで,サービスの質を落とさずにコミュニケータの数を絞り込む適正な人員配置が求められる。

 人員配置計画を立て実行するのは,現場のリーダーたちだ。そこで,リーダーたちに日別時間帯別の問い合わせ件数の予測と,この予測に基づく配置人員の数の出し方を身に付けさせることが必要になる。これが「トラヒックサービス管理」の学習だ。

 トラヒック・サービス管理のためにNTT番号情報はCAST(Communication Allocation Support System)をいうシステムを使っている。このシステムには,これまでの番号案内センターにかかってきた問い合わせの日別時間帯別のトラヒック数が15分単位でまとめたデータが入っており,さらに祝日や天候などの要素を加味して,さらにコミュニケータが10分単位で交代に休憩時間をとることなどを計算に入れて現場ごとに日別時間帯別の要員配置計画を立てる。病気による欠勤者が出た時の人の手当てと人員配置計画の変更なども現場で処理する。

●学習効果はてき面,受講者の平均レベルが50点台から80点台へ

 研修の効果はてき面であった。東京の本社での集合研修のみを受講した人と,本社の集合研修を受ける前にeラーニングで学習した人に分けて,集合研修の後の理解度テストの点数を集計したところ,「データベースの仕組み」は集合研修のみの人は平均で58.8点だったのに対してeラーニングと組み合わせて学習した人の平均は81.0点だった。「トラヒックサービス管理」では集合研修のみの人が同58.7点に対して組み合わせ学習の人が同85.2点で,平均で30ポイント近い差がついた。

 集合研修の日数を減らしたこともeラーニング導入の効果だった。約1000人のリーダーのためのeラーニング研修を集合研修に置き換えると研修費用と宿泊費などの諸経費を合わせて1億1000万円にものぼる。この分が節減されたことになる。一方,eラーニング導入のためのコストはサーバーの構築やコンテンツ制作,サポートなどの初期費用が1500万円かかっただけだった。

 NTT番号情報のリーダー向け研修に関するかぎり,eラーニング導入の効果は疑いの余地がなかった。eラーニング化によって,全国の電話番号案内センターのリーダーたちは東京の本社に出かけなくともすむようになった。しかも学習の質は向上し,結果的にはNTT番号情報の収益向上に大いに貢献した。

 NTT番号情報の研修担当者らは,次のステップとして新入社員研修のeラーニング化を検討している。さらに,他社のコールセンターのオペレータに必要なスキルを身につけるための教育研修,及びコンサルティング業務も始めた。eラーニングの導入は業績向上だけでなく,新たな事業展開のきっかけにもなった。

松本庸史=編集委員室主席編集委員