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エンターキナー,韓 芝馨

 では,LGテレコムの会員獲得に貢献したモバイル決済サービス「バンクオン」の特徴を見てきた。LGテレコムの純増数が増えたのはバンクオンのサービス内容だけではない。提携先の各国のトップ銀行である国民銀行と組んだマーケティング戦略も功を奏している。その前に,モバイル決済サービスを巡る韓国の状況を説明しておこう。

金融事業への進出を企てたSKテレコム

 SKテレコムはモネタを始めるにあたって提携クレジットカード会社が加盟店から徴収する手数料(平均約3%)のうち1.2%を要求した。クレジットカード会社はSKテレコムの要求に対して不満を持ちながらも,それを受け入れないと携帯電話を使ったクレジット決済の潮流に乗り遅れると思い,SKテレコムの要求を受け入れた。

 ところがSKテレコムはそこからさらに一歩進んで,自ら金融サービスを手がけようという構想を持っていた。同社は2002年に地方のクレジットカード会社を買収しようとしたのである。この買収は,金融監督委員会による大手企業の金融事業進出規制によって実現しなかった。また,同じ年にインターネット銀行の設立も試みたが,また失敗に終わった。

 このように金融サービスにまで手を広げようとしているSKテレコムに対して,金融機関は穏やかではいられない。韓国のトップ銀行である国民銀行が加入者の一番多いSKテレコムではなくてLGテレコムと手を組んだ背景にはこのような事情があるのだ。

 こうしてみると,モバイル決済サービスの競争は,SKテレコムとLGテレコムの競争というよりも,SKテレコムと国民銀行の競争という構図が見えてくる。モネタの不振,そしてバンクオンの成功は,SKテレコムに対する国民銀行の勝利だったといえる。さらに一般化するとモバイル決済において,キャリア主導に対して,銀行主導のサービスが勝利したというわけである。

国民銀行の店頭で対応携帯電話を販売

 国民銀行がLGテレコムと手を組んだ理由には,番号ポータビリティ開始を目前にしたLGテレコムが利益よりも会員数を増やすことを優先したという事情もある。

 LGテレコムは,前述のようにバンクオンサービスの利用料をデータ通信料込みの月額800ウォン(約80円)と低価格に設定した。さらにサービス開始日から2004年5月末までは全部無料でバンクオン・サービスを利用できるようにした。国民銀行に対しては,銀行サービス関連の手数料はすべて国民銀行の収入とした。

 LGテレコムは一方的に国民銀行に便宜を図ったわけでもない。全国で575店舗の国民銀行の本支店をLGテレコムの販売代理店として,銀行の店頭でバンクオン対応携帯電話の販売を始めたのである。積極的な営業活動を行っていたので,国民銀行を訪れた人はだれでも1回は勧誘されたのではないだろうか。こうした両社の提携の結果,前述のようにLGテレコムは数カ月以上続いてきた純減から抜け出すことができたのである。

第2ラウンドを迎えたSKテレコムと国民銀行の競争

 バンクオンの成功をSKテレコムとKTFはだまって見ていたわけではない。どちらも2004年3月2日から,それぞれ「mバンク」と「Kバンク」というバンクオンと同様のサービスを始めた。両社はバンクオンを意識して9月末までデータ通信料や振り込み手数料などを無料にしている。それ以後はバンクオンと同じ月額利用料800ウォンでサービスを利用できる。

 mバンクとKバンクでは,バンクオンが持たない機能も使える。モネタ,K-mmerceを引き継いだクレジットカード機能である。前述の約50万台のドングルが新サービスでも使える。なお,バンクオンではクレジットカード機能は今後提供する予定だ。

 SKテレコムのmバンクは4月に14万7000人の加入者を集め,1カ月間の加入者数ではバンクオンを抜いた。ユーザー数を今後とも増やし続けるには,各社とも提携銀行を増やすことが重要と考えている。ユーザーは自分の携帯電話会社が提携している銀行しか利用することができないからだ。モバイルバンキング対応端末を購入したユーザーはその携帯電話会社と提携している銀行の中から利用する銀行を選び,その銀行のICチップが支給される。

 国民銀行はLGテレコムに加えて,KTFとも提携した。一方,国民銀行と対立するSKテレコムは国民銀行以外の大手銀行4行と提携した。KTFはさらに別の2行とも提携している。2004年5月17日には地方銀行がLGテレコムで使えるようになった。

 こうしたグループ化を後押しするのが,国民銀行とSKテレコムで互換性のないセキュリティ方式を採用した点である。国民銀行はIPsecなどでも使われている3DES方式を,SKテレコムは韓国独自のSEED方式を使うのである。

IC交通カード機能はこれらの暗号化とは関係がなく,3社とも共通に使える。

 SKテレコムは,SEED方式は今後一つのICチップに複数の銀行の口座情報を保存することができるようにする,としている。SKテレコムはモバイル決済サービスの主導権を握るためには同社が提供するICチップですべての金融機関のサービスが提供できる方式が必要だと考えているわけだ。

 これに対して国民銀行は,モバイル決済サービスの主導権をSKテレコムに奪われないためには,今のように1つのICチップで1銀行のサービスしか利用できない方式が望ましいと考えている。

 国民銀行以外の大手4行の立場は微妙である。4行ともSKテレコムと組んだわけだが,1つのICチップですべての銀行のサービスを利用できるようにするというSKテレコムの計画には反対しているのだ。KTFと組んだ残り2行は大手ではなく,国民銀行の3DES方式を採用した。

 モバイル決済サービスをめぐる本格的な戦いはこれからであろう。韓国の携帯ユーザーは今やっとモバイル決済サービスの便利さに目覚めたからだ。

 モバイル決済をめぐる第1ラウンドでは,SKテレコムが金融サービス進出やクレジットカード会社との手数料問題などに熱中しているあいだに,国民銀行とLGテレコムが魅力的なサービスでユーザー獲得に成功した。しかし,現状を見てみると,今度は国民銀行がユーザーの利便より自行の利益にこだわりすぎているように思える。第2ラウンドではユーザーはSKテレコムを選択するかもしれない。将来的には1つのICチップで各種の決済ができるようになるだろうから。

(韓 芝馨=エンターキナー)


■著者紹介:
ハン・ジヒョン。1998年,韓国インターネット・バブルが最高潮になったとき,大学を卒業してインターネット・ベンチャーで事業企画業務を始める。2000年になって当時日本で活性化されたモバイル・インターネットに興味を持ち,IT専門リサーチ会社で通信会社や端末メーカ,ITベンチャーを対象に当時モバイルインターネット先進国であった日本のモバイルインターネット産業をリサーチして提供する。2003年からエンターキナーでリサーチャーとしてIT関連リサーチ業務を続けている。エンターキナーは韓国・ソウルに本社を置くリサーチ・コンサルティング会社。韓国内外の情報通信市場・技術動向,環境分析,政策,戦略分析,ビジネス・モデルなど専門分野のレポート発行,市場調査などを行っている。