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エンターキナー,韓 芝馨

 ADSLサービス開始から5年目を迎える韓国のブロードバンド市場は,1年ほど前から市場飽和が始まっており,これ以上の成長が期待できなくなってきた。そんな中,2004年に入ってインターネット接続事業者(ISP)と,そのユーザーとの間で緊張が高まる事態が続いている。

 1つは,2003年1月下旬に発生したコンピュータ・ワーム「SQL Slammer」による混乱(韓国では「インターネット大乱」と呼んでいる)に伴う,ユーザーとISPとの訴訟合戦だ。もう1つは,ISPによる従量課金制導入の動きである。まず,今回はインターネット大乱とその訴訟合戦を見てみよう。

韓国のネット依存を露呈したインターネット大乱

 2003年1月25日土曜日の夕方,「SQL Slammer」と名付けられたコンピュータ・ワームが世界のインターネットを襲った。もっともその被害が大きかった韓国では,インターネット・ユーザーの50%以上が利用するKT(Korea Telecom)などのISPのサーバーがダウンし,ほぼすべてのユーザーが5時間ほどインターネットにアクセスできなくなってしまった。

 この障害は週末に起こったため,仕事上での影響を受けた人は少なかったが,毎晩インターネットでゲームやチャットを楽しむ人はもちろん,インターネット上のフォルダに重要なファイルを保存していた人なども,インターネットにアクセスできなくなって苦い思いをした。

 この件は韓国ではのちに「インターネット大乱」という恐ろしげな名前で呼ばれ,韓国のインターネット・ユーザーには悪夢のような記憶として残っている。

 インターネット大乱を通じて韓国のネット・ユーザーはインターネットがすでに水や空気のような存在になっていることを実感した。「インターネットにアクセスできない1日」という初めての経験を通じて,もはやインターネットがないと日常生活が難しい時代になっていることがはっきり分かったのだ。さらに,この水や空気のように必要不可欠の存在である「インターネット」が,ウイルス1つでもろくも機能不全に陥ってしまう姿は大きな衝撃だった。

 余談だが,インターネット大乱後,あるコミュニティ・サイトのお笑い掲示板に,インターネット大乱で良かったこと,悪かったことが載っていた。良かったこととしては,(1)十分な睡眠をとることができた,(2)久しぶりにテーブルで食事をした,(3)久しぶりにテレビが面白くなった。悪かったこととしては,(1)手が震える,(2)幻覚が見える,などが挙げられていた。韓国人のインターネット中毒症状が言いたかったのだろう。

ユーザーとISPが訴訟合戦に

 インターネット大乱の原因としていろいろなことが言及されているが,その1つにISP間の激しいユーザーの囲い込み競争がある。韓国のブロードバンド・サービス競争は,1999年6月KTがADSLサービスを開始してから本格化した。その後,ISPはサービスの安全よりも速度を優先するようになってしまった。ネットワーク・ゲームなど大容量のコンテンツを楽しむ多くのユーザーにとっては,ネットワークの速度だけが品質の良さだと考えたからだ。

 インターネット大乱後,主要ISPがPOPサーバーなどにファイアウオールすら設置していなかったことが明らかになり,衝撃を与えた。ISPは,ファイアウオールがあるとネットワーク速度に影響を及ぼす恐れがあるとして,設置していなかったのである。

 この事件に関連して2003年2月,23名のインターネット・ユーザーが消費者団体を通じてISPを相手に訴訟を起こした。23名の内訳はKT9名, Hanaro Telecom7名, Thurunet5名, Onse Telecom2名で,おのおの自分の使っているISPに対して訴訟を起こした。

 2003年10月,政府の通信委員会はISPに損害賠償判決を下した。賠償の内容はインターネットにアクセスできなかった5時間に対して全ユーザーに対して180ウオンを賠償せよというものだ。当時ブロードバンド加入者は1000万人を越えていたため,通信事業者の賠償額は総計20億ウオンに上る。

 ところが,2004年1月,ISPは原告23名に対して債務不存在確認のための民事訴訟を逆提訴し,今までなかった最悪の事態になってしまった。ISPは2003年1月25日のインターネット大乱は,彼らにとって不可抗力だったと主張している。通信会社が自社のユーザーに対して訴訟を起こすことは今までなかったことだし、会社のイメージに悪い影響を与える恐れがある。それにもかかわらず,このような逆提訴をした背景には,不可抗力による損害に対してISPが賠償する先例を残すことはどうしても避けたいというISP側の強固な意志がある。これに対して裁判所がどのように判決するかに注目が集まっている。

 ISP側が主張するところの“不可抗力”による損害に対してまで,ISPに責任を負わせるのは正しくないかもしれない。だが,この事態が本当に不可抗力だったのかに対しては疑問がある。また,もし再び,不可抗力による事態によってほとんどのインターネット・ユーザーが1日,あるいは数日間インターネットにアクセスできなくなったらその被害規模はどれくらいになるだろうか。それに対する責任はだれが負うのだろうか。インターネット大乱以後,韓国ではインターネットがないと生活が難しくなった韓国社会に対する不安感が大きくなっている。

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 日常生活をインターネットに大きく依存するようになった韓国のインターネット・ユーザーが不安に思っているのは,これだけではない。今年の初め,ISPが今まで定額だったインターネット接続料金を従量課金に変える案を検討していることが明らかになったのだ。これに対して韓国のインターネット・ユーザーはヒステリックな反応を見せている。彼らにとって,料金を気にしてインターネットを利用する世界はもはや考えられなくなっているからだ。次回(8月10日掲載予定)は,この議論を見てみる。

(韓 芝馨=エンターキナー)


■著者紹介:
ハン・ジヒョン。1998年,韓国インターネット・バブルが最高潮になったとき,大学を卒業してインターネット・ベンチャーで事業企画業務を始める。2000年になって当時日本で活性化されたモバイル・インターネットに興味を持ち,IT専門リサーチ会社で通信会社や端末メーカ,ITベンチャーを対象に当時モバイルインターネット先進国であった日本のモバイルインターネット産業をリサーチして提供する。2003年からエンターキナーでリサーチャーとしてIT関連リサーチ業務を続けている。エンターキナーは韓国・ソウルに本社を置くリサーチ・コンサルティング会社。韓国内外の情報通信市場・技術動向,環境分析,政策,戦略分析,ビジネス・モデルなど専門分野のレポート発行,市場調査などを行っている。