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エンターキナー,韓 芝馨

 2005年,韓国では携帯電話や携帯端末でデジタル放送を受信できるサービスが開始される。一つは移動体向けの衛星放送「衛星DMB」,もう一つは移動体向け地上波デジタル放送の「地上波DMB」である。衛星DMBは通信事業者が,一方,地上波DMBについては放送事業者が推進していて,両者のつば迫り合いが激しい。また,無料で提供される予定だった地上波DMBを有料化する問題に関して論争が起きている。本稿では,韓国で盛り上がっている話題の一つである衛星DMBや地上波DMBの現状と今後を解説する。

4年間論争が続いた地上波DMB

 DMBとは「Digital Multimedia Broadcasting」の略。情報通信部や韓国放送委員会は2003年1月,「高品質の音声や映像,データを,いつでもどこでも受けられる,固定および移動体向けのデジタル方式のマルチメディア放送」をDMBと定義して推進し始めた。

 2種類のDMBのうち,まずは地上波DMBに説明しよう。韓国で地上波デジタル放送の伝送方式の標準が決まったのは1997年11月のこと。ところが,実際に地上波デジタル放送が開始されたのは2004年7月になってからである。「先進技術の採用に積極的」と言われることが多い韓国人としては,ずいぶん時間がかかったように思える。その理由は,地上波デジタル放送の伝送方式について,論争が繰り広げられたためだ。2000年7月から2004年7月までの4年間は,伝送方式の論争に費やされた。

 1997年,情報通信部は,地上波デジタル放送の伝送方式として,ATSC(Advanced Television Systems Committee)が標準化した8VSB(8Vestigial Side Band)という規格(「ATSC-8VSB」と呼ばれる)を採用した。韓国では,ATSCは米国で設立された組織であるため,ATSC-8VSBを「米国方式」と呼んでいる。実際,米国のデジタル放送はATSC-8VSBが標準である。

 ところがATSC-8VSBには問題あった。ATSC-8VSBは,限られた周波数帯(韓国は6MHz)に多くの信号を一度に送れるというメリットがあるものの,基地局から送信された電波が建物や地形などの障害によって反射/回折しやすい。このため,複数の経路から同じ電波を受信してしまう多重波伝送路(multi-path)によって「ゴースト現象(映像がぶれる現象)」が発生する。これは移動受信時に顕著であるため,移動体(携帯電話)向け放送の伝送方式としては,ATSC-8VSBは最適とはいえないといわれている。

「米国方式」への不満

 そのころ放送業界は,移動体向けの地上波デジタル放送が今後必要になると考えていた。そこで2000年7月,別の伝送方式を標準にするよう主張した。欧州の標準化団体であるDVB(Digital Video Broadcasting)が提案したCOFDM(Coded Orthogonal Frequency Multiplexing)と呼ばれる方式に変更するよう主張し始めた。

 COFDMは,受信端末が移動している場合に限らず,固定されている場合でも,ATSC-8VSBよりも性能面で優れているというのが放送業界の主張であった。COFDMを提案したDVBが英国で発足したことから,韓国では,COFDMは「欧州方式」と呼ばれている。

 放送業界が欧州方式への変更を要求すると,市民団体も米国方式に疑問を持ち始めた。そして,伝送標準を再検討するよう要求し始めた。米国方式の採用は,情報通信部の独断だったと伝えられる。このため,性能だけではなく,その決定過程についても疑問の声が上がった。

 放送業界や市民団体の主張に対して,政府は「既に多くの企業が米国方式の地上波デジタル放送製品を開発している」ことを理由に,「伝送方式の標準を変更することはできない」と答えるだけだった。

 以後,放送業界および市民団体と政府の論争は4年間続いた。その間,地上波デジタル放送は実用化されないままだった。そして2004年7月,やっと両者は妥結した。結局,「地上波デジタル放送の伝送標準は変更しない。ただし,現方式で難しい移動体向け放送は,別の方式にする」ということで落ち着いた。具体的には,携帯端末の地上波デジタル放送には地上波DMBが採用された。

 地上波DMBは,欧州のデジタル放送で使われているDAB(Digital Audio Broadcasting)から派生した方式である。DABに関する研究が始まったのは1987年。欧州各国は「Eureka-147プロジェクト・グループ」と呼ばれるグループを結成して研究を開始した。そして1995年1月,欧州各国は,Eureka-147をデジタル放送の伝送方式の国家標準として採択した。

 その後,1995年9月に英国BBC(英国放送協会)が地上波DABを開始して以来,スウェーデン(1995年),フランス(1997年),ドイツ(1999年)などの欧州各国が相次いでDABによるサービスを開始した。しかし欧州のDABは音声サービスが中心であり,マルチメディアを対象としたDMBとは異なる。

民間主導の衛星DMB

 衛星DMBを推進するのはSKテレコム。SKテレコムは,日本で移動体向け衛星放送を開始している「モバイル放送サービス」に出資している(関連記事)。

 SKテレコムは,衛星DMBを次世代の主力サービスにする計画を立て,2001年9月,情報通信部からサービス提供の許可を受けている。衛星DMBは,米国のSMSR社やSIRIUS社が衛星を使って提供しているデジタル・オーディオ・サービスを,マルチメディア・サービスに発展させたサービスだと言われている。

 SKテレコムは2003年12月,衛星DMBを推進するために「TU Media」という新しい会社を設立した。TU Mediaには,SKテレコムの競争相手であるKTFやLGテレコムのほか,韓国の主要放送局や端末メーカーなども出資している。

 地上波DMBが国家主導のプロジェクトであるのに対して,衛星DMBは民間企業が主導している新規の放送サービスである。サービス料金はTU Mediaが自由に設定できる。衛星DMBのサービス開始は2005年5月を予定している。サービス料金は,月額1万3000ウオンの定額制を予定しているという。なお,KTFやLGテレコムが衛星DMBを使ってサービスを提供する場合,料金の75%をTU Mediaに支払う必要がある。

 TU Mediaは,将来的には衛星放送とインターネットを連携させたサービスをキラー・コンテンツにするつもりだ。例えば,リアルタイムの映像データは衛星DMBで,オンデマンドのコンテンツはインターネット(通信網)経由で配信するようなサービスが考えられる。

 とはいえ,これは将来的な計画であり,当面は,地上波放送の再放送がキラー・コンテンツになると予想していた。ところが,地上波DMBを推進している放送業界は猛反発。2004年10月,放送委員会は,衛星DMBを使った地上波放送の再放送を許可しないと発表した。