「通信は分かりにくい」---。よく言われることであるが,最近,これを象徴するような話をいくつか見かけた。

 まず,8月31日に東西NTT地域会社が発表した「県内市外通話料金の値下げについて」(NTT東日本の発表資料へ)である。NTT地域会社の業務範囲である県内の通話について,距離区分にもよるが最大の値下げ率が67%,100kmを超える深夜・早朝(23時~翌朝8時)の県内通話なら現行の3分60円が同20円まで下がる。ちなみに県間の長距離通話の値下げに言及されていないのは,長距離・国際を担当するNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の業務であるためだ。

 値下げするという話なので,ユーザーとしては素直に歓迎すれば良いのだろう。しかし,「なぜこの時期に,この値下げ幅で?」に対する説明は,NTTの発表資料には「本年10月1日より適用開始されるプライスキャップ制に対応するものです。」という一文があるだけだ。発表資料だけを見ている限り,「プライスキャップとは何なのか?」,「それに対応するとなぜこの値下げ幅になるのか?」といった疑問は解決されない。

 「プライスキャップ」は上限価格とも呼ばれ,郵政省が決める上限価格を下回る料金を設定しなければならない,という料金規制である。東西NTT地域会社の電話と専用線の料金に10月1日から新たに適用されることになっている。上限価格は,郵政省の諮問機関である電気通信審議会の答申を受ける形で6月に発表されており,電話については2000年度は現行を100として97.8,つまり2.2%の値下げが求められている(郵政省の発表資料へ)。

 実際には,「2.2%の値下げ」は「2.2%の減収」と読み替えられている。つまり,東西NTT地域会社の電話収入の構造から考えて,どの距離区分をどれだけ値下げすると全体の収入が2.2%以上減るか,というシミュレーションの結果が,8月31日に発表された値下げ幅なのである。具体的な値下げのしかたは事業者に任せられているので,2.2%の値下げを求められてはいても,3分10円の市内通話料金がそれだけ下がるということにはならないのである。県内市外の電話市場には,日本テレコムなどの競争相手がいる。その分野には追随せざるを得ない料金を設定し,一部を除いて競争相手のいない市内通話には手を付けなかったという見方もできるだろう。

 もう一つの例が,ユーザーが利用する電話会社をあらかじめ指定しておく「優先接続」である。優先接続はマイラインと呼ばれ,2001年5月から始まる。通話の際に,いちいち事業者を指定する番号(例えば,日本テレコムなら0088,東京通信ネットワークなら0081などの番号)をダイヤルする手間が不要になる。電話会社にとって見れば,電話につなぐアダプタなどが不要になるうえ,ユーザーの囲い込みとしてはこれ以上ないものである。「電話会社にとっての総選挙」と言う人もいる。

 優先接続には,「一般優先接続」と「固定優先接続」の2種類がある。一般優先接続は,登録した事業者を利用する場合は事業者識別番号のダイヤルが不要となるが,通話ごとに登録した事業者以外の識別番号をダイヤルすれば指定した事業者につながる。一方の固定優先接続は,登録した事業者以外の識別番号をダイヤルしても,登録した事業者に接続する。ただし,通話ごとに「122」をダイヤルすれば,希望の事業者に接続できる。

 と,ここまではまだ分かる。しかし,問題はこの先だ。優先接続を設定する通話区分が4種類あるのだ。(1)市内通話,(2)県内市外通話,(3)県間市外通話,(4)国際通話---である。関東なら,市内はTTNet,県内はNTT東日本,県間は日本テレコム,国際はKDDIという指定が可能なのである。指定しない場合は,市内と県内は東西NTT地域会社,県間はNTTコム,国際はこれまでどおり通話ごと指定が必要,ということになる。通話区分を理解し,明確な意思を持って電話会社を指定するユーザーがどれほどいるのだろうか。

 以上,二つの例を挙げてみた。分かりにくいのは事実としても,これが競争である,という見方をするべきではないだろうか。もちろん,通信事業者にしても郵政省にしても,もっと分かりやすい情報提供の仕方を工夫する余地はまだまだある。また,表面的な発表内容からその中身を分かりやすく伝えるのが私たちマスコミの使命でもある。しかし,ユーザーが内容を理解した上で,自分の意思をはっきりさせないとどうなるか。優先接続を例にするならば,「総選挙ではあっても棄権と白票が多く,NTTのひとり勝ち」ということになってしまうだろう。携帯電話,インターネット接続サービス,各種の割引サービス,バンドル(抱き合わせ)サービスなど,サービスを比較検討する際の要素の多さは,競争の反映である。「選べない」状況よりも「選ぶのが難しい」という方がはるかにマシである。

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(田邊 俊雅=IT Pro副編集長)