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 9月27日,NTTドコモは米アメリカ・オンライン(AOL)との提携を正式発表した。その内容は,移動通信網と固定通信網の融合による新しいインターネット・サービス「FMC(Fixed Mobile Convergence)」を共同開発し,それをグローバルに展開していくというものだ。だが,NTTドコモが踏み出したこの一歩は,「危険な賭け」と言わざるを得ない,実に厄介な側面をもっている。

 NTTドコモの業績は,既に1200万加入を誇るiモードを中心に,相変わらず好調だ。今年12月初旬にはJava対応サービスに踏み切り,来年5月からは次世代携帯電話のIMT-2000サービスをスタートさせる。だが,その一方でモバイルを軸とした海外通信事業者の合従連衡はすさまじい勢いで進んでおり,NTTドコモは否応なしにその渦に巻き込まれている。

 今年2月には英ボーダフォン・エアタッチが,独携帯電話大手のマンネスマンを買収。さらに同社は5月,英携帯電話会社大手のオレンジ買収した。7月にはドイツテレコムが米携帯電話大手のボイスストリーム・ワイヤレス買収で合意するなど,世界規模でのM&Aが相次いだ。NTTドコモも欧州進出の基盤を築くため,7月にオランダのKPNモバイルに15%,香港のハチソン・ワンポア・グループの英ハチソン3Gホールディングスに20%出資した。

 だが,その一方でNTTドコモの海外戦略に疑問符の声が上がっているのも事実だ。今年5月にオレンジ買収に失敗したのに続き,米国進出の足がかりとして買収交渉を進めていた米ボイスストリーム・ワイヤレスを,今年7月にギリギリの段階でドイツテレコムにさらわれてしまった。

 またKPNを通じたドイツ市場への参入では,携帯電話の免許を落札したKPNを含む六つの企業グループが,総額5兆円という巨費を投じた。しかしその翌日,ハチソン・ワンポアは落札額の大きさからKPNグループを脱退した。NTTドコモ-ハチソン・ポア-KPNで形成したグループの一角が崩れてしまったのだ。そのKPNも1-6月期の連結決算は赤字に転落した。

 このようにNTTドコモの海外戦略は必ずしもスムーズには進んでいない。そこで,こうした海外での提携・買収交渉を優位に進めるための切札として選んだのが,AOLとの提携という選択だった。

 AOLとの提携では,両社による戦略運営委員会と共同投資委員会の設置が大きな柱となっている。戦略運営委員会では新サービスの開発や海外の事業展開を検討し,共同投資委員会では全世界的な規模でベンチャー企業などへの共同投資を検討するという。まさにNTTドコモは,AOLと二人三脚の体制を組むことで世界戦略の巻き返しを図ろうというわけだ。

 さらにAOLとの提携によって,NTTドコモはコンテンツという資産を手にすることが可能になる。AOLはインターネット・サービス・プロバイダーだが,その一方で豊富なコンテンツを武器に米国で最大の加入者を誇るポータル・サイトでもある。またその背後には,AOLが年内にも吸収・合併するメディア大手の米タイム・ワーナーの豊富なブロードバンド・コンテンツも控えている。ブロードバンド・コンテンツがカギを握ることになる次世代の携帯電話サービスでは,その資産は大きな魅力と言える。

 しかし,その一方でNTTドコモは大きな「負の遺産」を抱えたことになる。それはAOLジャパンへの資本参加である。ただここで言う「負の遺産」の意味は,全世界で2400万人以上の加入者を誇るAOLにあって,わずか45万人程度の加入者しかいないAOLジャパンに,最大で約57億円を投資して筆頭株主として加わったということではない。何よりも問題なのは,特定のインターネット・サービス・プロバイダーと排他的な契約を結び,インフラ事業から,インターネット接続サービス,果てはポータル,コンテンツの囲い込みまでを垂直統合的に展開しようという「独占の思想」を体現してしまったことだ。

 記者会見の席上,「コンテンツ・プロバイダー事業への参入表明か」との質問に対して,NTTドコモの立川敬二社長は「そうではない。AOLはインターネット・サービス・プロバイダーである。ただしAOLは豊富なコンテンツを持つポータル・サイトを運営している」と回答。さらにタイム・ワーナーのブロードバンド・コンテンツに言及した際には,「次世代携帯電話では高速・広帯域コンテンツは役立つ」と述べ,垂直統合への意思を明確に示した。しかも次世代の移動網と固定網を統合的に結ぶ「FMC」サービスを利用するには,「iモードとAOLへの加入が条件となる」と言明した。

 NTTドコモは年末以降,iモード版の「AOLインスタントメッセンジャー」や「AOLアカウントの無料電子メール・サービス」を提供する。さらに来年には,iモードとパソコンを連携させた電子メール・サービスを展開していくという。もちろんユーザーにとってサービスが向上することは歓迎されるべきだ。しかしパソコンのインターネットで「@nifty」や「BIGLOBE」の接続サービスを既に便利に使っているユーザーは,こうしたサービスを利用できない。そして,その上に位置するコンテンツはNTTドコモのポータル戦略の名の元に囲い込まれていく。

 ユーザーは1つの無線インフラを選択した途端,多くの選択権を放棄することになる。かつてこのコラムで掲載したコンテンツ事業者にとっての制約も同じ「独占の思想」から生まれたものだ。しかし,今回の決断はユーザーにとって“より見える形”であるという点で決定的だ。

 独占の思想の是非は,現在ユーザーがマイクロソフトに対して抱いている「距離感」を考えれば理解して頂けるだろう。世界市場という「見えない相手」に手を差し伸べた瞬間に,NTTドコモがこれまで日本国内で勝ち得てきたユーザーの信頼を失うという危険性をはらむ結果になったとは言えないだろうか。

(中田 靖=日経ネットビジネス副編集長)