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 インターネット時代の著作権保護を考えるうえで重要な判決が,また一つ下った。DVD(Digital Versatile Disc)の暗号を解くソフトウエアを,インターネットで流通させていたホーム・ページに対し,ニューヨークの連邦地裁が違法判決を下したのだ。

 事件の発端は99年秋にさかのぼる。当時15歳のノルウェーの少年Jon Johansen君が,「DeCSS」と呼ぶソフトウエアを開発した。DeCSSは,DVDの著作権を保護するためにかけられた暗号「CSS(Contents Scramble System)」を解いて,誰でもコピーできるようにしてしまうソフトだ。

 少年は自分の作ったDeCSSをインターネットで宣伝した。このソフトウエアはあっと言う間に世界中に広まった。ハリウッドを中心とする米国の映像コンテンツ業界は危機感を募らせ,業界団体のMotion Pictures Association of America(MPAA)は訴訟に打って出た。99年12月に,DeCSSをインターネットで流通させていた4人の米国人に対し,サービスの停止を訴える裁判を起こしたのだ。このうちの3人は和解に応じ,WWWにDeCSSを掲載することを止めた。しかし,残りのEric Corley氏は最後まで戦う構えを見せた。

 Corley氏は自ら運営する「2600: The Hacker Quarterly」と呼ぶWWWサイトに,DeCSSを掲載し,アクセスした人が勝手にダウンロードできるようにしていた。MPAAの起訴状を受理した連邦地裁のLewis Kaplan判事は早速Corley氏に対し,DeCSSの掲載停止を命ずる事前差し止め命令を出した。

 Corley氏はこれに応じ,自分のサイトからDeCSSを外した。しかし,その代わりにDeCSSを掲載している他サイトを探し出して,そこへのリンクを自サイトに掲載した。このやり方に対し,MPAAは「体の良い法律破りだ」と怒りを露にした。両者の関係が悪化した格好で,7月末の本裁判の開始となった。

 裁判の審理でMPAAは,1998年に改定された米国の著作権法「Digital Millennium Copyrights Act(DMCA)」を盾に,法廷戦術を展開した。

 DMCAには,「DVDをはじめとしたディジタル・メディアにかけられた暗号を,故意に解読するツールを流通させることを禁ずる」という項目がある。MPAAは「少年が開発したDeCSSは,この暗号外しツールに相当する」として,Corley氏のサイトに対して今後ともDeCSSの掲載を禁じるように訴えた。またDeCSSを掲載している他サイトにリンクを張ることも,「それが意図的に暗号外しを狙ったものなら,同罪である」として,これも禁止するように主張した。

 これに対し被告Corley氏の弁護士は,米国憲法修正第1条の「表現の自由」を盾に対抗した。

 被告側の主張はこうだ。確かにDeCSSは暗号を外すツールだが,これはソフトウエアを使った一種の自己表現である。これを違法とするのは,表現の自由を侵害することになる。さらに,「そもそもDeCSSはDVDの違法コピーを目的に書かれたのではなく,LinuxでDVDソフトを使えるようにするために開発された」という点を強調した。

 ややこしい話だが,簡単に説明するとこうだ。映画などを記録したDVDビデオは,専用のDVDプレーヤ,あるいはCSS機能を搭載したWindowsパソコンかMacintoshで再生して楽しむことができる。ところがOSとしてLinuxを搭載したパソコンでは,DVDビデオの再生ができない。ここでDVDを再生させるには暗号を外すしかない,というわけだ。

 両者の言い分を聞いたKaplan判事は,全面的に原告MPAA側の主張を支持する判決をわずか2週間後に下した。最初から「腹を決めていた」とさえ言われるほどだ。

 「仮に百歩譲って,被告側の『DeCSSはDVDの不法コピーではなく,Linuxでの再生を目的としている』という主張を認めたとしても,やはりDeCSSはDMCAに違反する。なぜならDMCAは『その目的にかかわらず』,ディジタル著作物の暗号を外すことを禁止しているからだ」というのが判決の趣旨である。ソフトウエアは「表現の自由」の一つという主張は,完全に退けられた。判決はさらに,他サイトへのリンクも禁じた。

 映像コンテンツ業界を代表するMPAAは一審勝訴に胸をなで下ろしている。というのは,現在インターネットでも猛威をふるっている音楽ファイル交換サービス「Napster」の映画版が,徐々に普及しつつあるからだ。たとえば「Swapoo」と呼ばれるサービスは既に3万人以上のユーザーを抱え,映画のファイルを交換している。

 音楽ファイルに比べ,映画など映像ファイルの交換がそれほど広がらなかったのは,まず映像ファイルのデータ量が大きすぎて,伝送に時間がかかり過ぎたことが理由の一つだった。これに加え,コピー・プロテクションのかかっていない音楽CDに比べて,暗号化されているDVDから海賊版を作るのが難しかったからだ。もし今回の裁判でDeCSSに合法判決が下されれば,映画の海賊版がインターネットに一気に蔓延する可能性があった。

 しかしCorley氏は上級審への控訴を表明しており,戦いは今後も続く。たとえ違法判決が下っても,DeCSSはアンダーグラウンドで蔓延しており,これを阻止することは事実上不可能だ。インターネット時代の著作権問題の根は深い。容易に解決の糸口は見えそうにない。今回の騒動も,これを裏書きする格好となった。

(小林雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net