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 エレクトロニクス,通信から基本ソフトまで様々な分野の技術開発で,業界を牽引してきた世界的企業Lucent Technologiesが,創業以来の危機に直面している。今月18日,同社は低迷する株価を回復させるために,reverse stock split(株式連結)を実行する計画を発表した。

 もし,これに失敗すると同社はNYSE(ニューヨーク証券取引所)の売買リストから外され,長年かけて培った「超一流企業」のブランドを喪失する。それによって信用を失うばかりか,「最悪の場合,倒産も」という声すら,業界ではささやかれるようになった。

 この発表に先立ってLucentは,新たに従業員1万人をレイオフする計画も明らかにしている。最盛期の同社は15万3000人の従業員を抱えていたが,このレイオフによって3万5000人になり,事業規模は当時の4分の1にまで縮小される。先日発表された第3四半期の決算では,32億ドルの損失を計上。これで9四半期連続して,15億ドル以上の損失を出したことになる。まさしく危機的状況である。

苦肉の策として打ち出した「株式連結」だが,悪夢のシナリオもあり得る

 1999年12月に84ドルの最高値を記録したLucentの株価は,バブル崩壊を経た後も下げ止まることを知らず,今年の9月17日にはついに1ドルを切った。NYSEのルールでは,上場企業の株価が30日連続して1ドル未満を付けた場合,その企業が「何らかの株価回復策」を打ち出さない限り,取引リストから除外されることになっている。

 Lucentの株価は結局,1カ月経っても1ドルのラインを回復できず,同社首脳陣はその対策としてreverse stock splitを打ち出さざるをえなくなった。つまり苦肉の策なのだ。

 Reverse stock split(株式連結)とは文字通り,stock split(株式分割)の逆。複数の発行済み株式を寄せ集めて,「一つの株式」にする。簡単な話,先週末時点で68セントをつけたLucentの株も,30株を1株にまとめてしまえば,株価は約20ドルという計算になる。もちろん,これによって事態が本質的に変わるわけではない。「株価が20ドルになった」としても,それは上昇したわけではないからだ。株主たちが所有する株式数は逆に30分の1になるのだから,手持ちの株式総額は同じなのだ。

 Lucentの経営陣は,来年2月の株主総会でreverse stock splitの承認を求める予定だが,承認されることは間違いない。これによってNYSEでの取引リストに残ることはできるが,危機を回避したわけではない。

 同社は恐らく30~40株を一つに連結させて,快適な株価水準である20~30ドルを目指してくる。しかし株価がこのレンジに入れば,逆に「下げる余地ができた」として,さらに売り込まれる可能性がある。そして再び,「1ドルを割り込む」」という,悪夢のようなシナリオが浮上する。実際,過去にreverse stock splitを実行した企業では,こうした悪循環に陥って,最終的に退場を迫られるケースが目立つ。

ネット・バブル崩壊で,まさに銀行の不良債権と同じ構図に陥る

 Lucentには手持ちの現金資産が44億ドルあり,さらに銀行団から5億ドルを借りることができそうだ。今日,明日中に倒産するということはあり得ないが,現在のペースで赤字を垂れ流した場合,帳簿上の計算では,あと1年と持たない。

 もちろん,そうした事態を回避するために,レイオフを実施したり,いろいろな資産を売り払って,急場を凌いでいるわけだ。しかし仮に赤字のペースを抑えたとしても,生き残れるかどうかは,今後1~2年以内に通信業界の需要が持ち直すかどうかにかかっている。

 Lucentが転落の道をたどり始めたのは,インターネット・バブルが弾けて間もなくのころだ。バブル全盛期に数多くの新興ネット企業に対し,「後払いでいいから」と説得して,通信機器をどんどん納入した。しかしネット企業がそろって倒産すると,これらが貸し倒れ状態になり,金が戻ってこなくなった。ちょうど銀行の不良債権と同じである。

 今から振り返れば新興インターネット産業の市場規模は,通信産業全体のそれと比較すれば,それほど大きな比率ではなかった。だからLucentもネット企業に対する「貸し倒れ」は,何とか償却できたと思われる。しかしその後,バブル崩壊がIT産業全体に波及し,やがてLucentの「親戚」とも言えるAT&TやVerizonからの受注が急減すると,業績の悪化は壊滅的なレベルに達した。

どうなる,“米国の宝”ベル研

 1996年に旧AT&Tが分社して生まれたLucent Technologiesは,米IT業界の中で最も「潰れてはいけない会社」である。その基幹業務は各種通信機器の販売だが,IT業界全体から見て,もっと重要な位置づけにあるのは,同社の研究開発部門「Bell Laboratories(ベル研)」だ。

 ベル研の起源は,電信・電話が米国社会に普及し始めた1870年代にまで遡る。当時,Alexander Graham Bellと電話の発明特許を争って敗れた,Elisha Grayらが創立したWestern Electric社がそれである。これが1907年,後発のAT&Tに買収され,やがて同社の研究開発部門「Bell Telephone Laboratories(後のベル研)」になる。つまりAT&T本体より先に,研究開発部門が存在したのである。

 その後,AT&Tが米国内市場を一手に掌握する過程で,ベル研はむしろ「世界の」研究開発をリードした。これまでに11人のノーベル賞受賞者を輩出し,「トランジスタ」「レーザー」「自動電話交換機」「UNIX」「パケット交換機」など,現在のIT産業の根幹をなす技術を次々と生み出した。

 古くまでさかのぼると,ベル研最初のノーベル賞受賞者Clinton Davidsonは,「電子の波動性」という量子物理学の基本法則を立証する実験で受賞している。とにかく驚くべき業績を積み上げてきた,「電子・情報科学の殿堂」とも言える研究所なのだ。

 Lucent Technologiesが経営危機にあえぐ中,同社の一部であるベル研もぐらついている。人材流出が起きるのはほぼ間違いないし,以前に本コラムの記事「ノーベル賞候補の論文はでっち上げ――ベル研の歴史を汚した『世紀の実験』の真相 」で紹介したように,研究所内のモラルも低下しているようだ。

 仮にLucentが倒産の危機に瀕した場合,“米国の宝”ともいえるベル研は一体どうなるのだろうか。ひょっとしたら連邦政府が介入して,何らかの救援策を打ち出すかもしれない。それほど重要な研究所なのである。