日本初の偵察衛星が3月28日,無事に周回軌道に乗った。既に新聞各紙で報道されているが,日本政府が国産衛星の開発に踏み切ったのは,98年の北朝鮮によるテポドン発射事件を直接の契機としている。それまで日本政府は米国の軍事偵察衛星の撮影した映像に頼っていたが,テポドンが発射された時には米国から日本政府にその情報が伝えられるまで,何時間もの遅れがあった。

 また,それ以前の1993年,北朝鮮の核開発が国際危機を招いた時には,日本政府は米国が撮影した衛星写真を見せてもらうことができなかった。こうしたいくつかのトラブルによって,自前で偵察衛星を持つことの必要性を痛感したのだ。

 日本が偵察衛星を持つことには,軍事行動を禁止する憲法上の制約に基づく批判も聞かれるが,もっと切実な問題は「膨大な開発運営費」だろう。28日に光学衛星とレーダー衛星を打ち上げ,8月に打ち上げる2機とあわせて4機が,地表から約500キロ離れた宇宙空間を,1日15周くらいの速度で回るという。この開発,打ち上げ,さらに運営に必要とされる費用が総額2500億円くらいだ。と言われても何だかピンと来ないが,実はこの額はほとんど初期費用みたいなもの。本格的に活用するためには,これからドンドン追加投資しなければならない。

 打ち上げたばかりの現時点でさえ,防衛庁によれば「北朝鮮を常時監視するには4機では足りなくて,16機以上が必要だ」という。これだけでも単純計算でコストは1兆円近くまで膨れ上がってしまう。

 さらに日本が打ち上げた偵察衛星は,「衛星写真を撮る」という必要最小限の機能に限定して開発されている。これに米国の軍事衛星が持っているような,赤外線探知機能などを加えようとすれば,コストはさらに跳ね上がってしまう(赤外線はミサイルのロケット噴射と共に放出されるので,これを探知する機能は,自衛用の衛星,という観点ではどうしても必要になる)。万全を期そうとすれば,とにかくものすごいお金がかかるのだ。

米国ではそろそろ開発競争に息切れ感

 実は衛星技術で先頭を走る米国も,そろそろ開発競争に息切れし始めている。現在,彼らが使っている偵察衛星KH-12(名称の由来はKey-Hole(鍵穴)の略)の予定寿命は約5年。前回,打ち上げたのは1996年だから,既に寿命を通り越している。それなのになぜ,使い続けているかというと,次世代機の開発が難航しているからだ。

 軍事情報のwww.janes.comによれば,次世代偵察衛星の開発を受注したのはBoeing社だが,ペンタゴン(米国防総省)からの受注競争にしのぎを削ったせいで,あまりにも低価格で請け負ったしまった。このため,今になって予算上の制約から開発が滞っているのだ。それでもペンタゴンと契約した際の受注額は,190億ドル(2兆3000億円)に達したと見られている。今後,Boeingが開発を続ければ,実際のコストはこれをはるかに超えることになる。

 結局,米政府は今どうしているかというと,古くなったKH-12をごまかし,ごまかし使い続けている。KH-12の解像度は「最高10センチくらい」で,これは日本の偵察衛星の10倍くらい優れている。しかし使い古されて痛んでいるため,性能は全盛時より20%くらい落ちてしまった。だから米国政府はなるべくKH-12の使用を節約して,普段は民間商用衛星の提供する画像に頼っている。しかし,どんなに大事に使っても,耐用年数には限界がある。現在のKH-12はいつ壊れて,使えなくなっても不思議ではない状態だという。

 1980年代まで,米国と偵察衛星の開発を競い合ったロシア(当時のソ連)も,90年代以降は完全に競争から脱落してしまった。2001年5月に最後の偵察衛星を回収して以降,しばらくの間,ロシアは偵察衛星を持たない時期があった。2002年の7月に2機の偵察衛星を打ち上げたが,もはや米国と競争した当時の勢いは無い。かつて70~80年代にかけては,年間30回以上も打ち上げていたのに,今や1回か2回しか打ち上げられない。ロシアが脱落した理由は,やはり膨大な開発コストを負担しきれないからである。

 以上のように,日本が初の偵察衛星を打ち上げる一方で,世界的には軍事衛星の開発が限界に近づいているようだ。偵察衛星とは別の諜報活動も強化すべきだとの意見が出ている。実際,米国では,あまりにも衛星に依存しすぎたために,CIAなどによるスパイ活動の能力が低下してしまった。「9・11のテロを防げなかったのは,このためである」という批判も聞かれる。一つの手段に頼り切るのではなく,全体的にバランスの取れた諜報活動に方向転換しつつあるという。

 一方,見方を変えれば,軍事衛星の開発が限界に近づいたということは,日本にとっては追い付くチャンスが残されているとも言える。もっとも日本政府の財政状態が,そうしたぜいたくを許すかどうかは疑問だが。