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 米国時間で10月23日,RFID(Radio Frequency Identification)チップ,別名ICタグの普及を後押しするニュースが舞い込んだ。米国防総省が受注業者に対し,「2005年までに,納入する製品にICタグを埋め込むこと」を義務付けることである(米国防総省のニュース・リリース)。

 民間では既に,国内外を問わず様々な実証実験が開始されている(記事末の関連記事一覧を参照)。今回の国防総省の発表も,ICタグ普及に弾みをつけることになるだろう。ただし,一般の消費者に関係する流通,販売の分野での普及に向けては,まだ課題が残っている。最大の課題は後述する「プライバシ侵害問題」である。

期待も大きいがプライバシ保護への懸念も

 ICタグは,ゴマ粒ほどのチップに64ビットの識別データを蓄える。これをフル活用すると約18京個の製品に別々のIDを与えることができる。事実上の無限大である。これまではデータ長による制限から,同じ種類の製品あるいは商品には同一のバーコードがつけられていたが,RFIDを導入すれば,一個一個の製品・商品に別々のIDをつけることができる。つまり個別の製品・商品の流れを,業者は完全にフォローできるようになる。

 また従来のバーコードのように,バーコード・リーダーをすぐそばまで近づけてスキャンする必要もない。2,3メートル離れたところからでも,十分に読み取ることができる上,いくつものIDを同時に処理できる。

 これを小売業に応用すれば,例えばスーパー・マーケットのレジなどで,買い物カゴ一杯に入った商品を瞬時に会計できるようになる。いや,レジなど要らなくなるという説さえある。客は店内で欲しい物を手にして,そのまま出口に向かう。そこで自動的に,自分の持っているRFID内臓クレジット・カードに課金する,という仕組みにすればいい,というわけだ(誰もがこのようなカードを持っている,というのが前提だが)。

 もちろん良いことばかりではない。一個一個の商品にIDがつくということは,それを買った消費者にIDがつけられるのと同じである(買った商品を人にあげたりすることもあるから,厳密にはそうとは言い切れないのだが,そういう状態にかなり近くなる)。だから,ICタグがついた洋服などを着て出かけた日には大変である。街のあちこちに設置されているタグ・リーダーによって,この人がどこで何を買ったか,どんなサービスを受けたかなどが,業者に筒抜けになる恐れがある(関連記事)。

消費者への誠意――良識に基づいた導入計画を示すこと――が必要に

 このため米国をはじめ世界中のプライバシ擁護団体が,ICタグの導入に反対している。欧米諸国では,ICタグの導入を発表した小売業者に対し,消費者団体が不買運動で圧力をかけている。イタリアのBenettonのように,一度は決めたICタグの導入を撤回する業者も出てきた。米Wal-Martも米Gillette Companyと共同で行う予定だった実験を中止した(関連記事)。

 こうしたことから,ICタグに暗号化の機能を入れるなどの技術面での対策(関連記事)や,プライバシ侵害の防止に向けてガイドラインを作成するなどの動き(関連記事)も出ている。

 ICタグを利用する業界側も,ICタグに対する消費者の懸念を振り払うためには,現段階から良識に基づいた導入計画を示す必要がある。最もシンプルで受け入れやすいのは,消費者が商品を購入した時点で,ICタグを無効にしてしまうことだ。つまり商品を買った後は,そのIDを読めなくするのである。

 業者側から見た場合,これによって消費者を追跡調査できなくなるから,ICタグの魅力は半減するかもしれない。しかしICタグを導入すれば,製品の製造から流通,販売に至るサプライ・チェーンの水準が格段に上がるから,それだけでも十分に意味がある。まず消費者に誠意を示すことが,ICタグ普及への近道となるだろう。