私はApple Computerを実に不思議なパソコン・メーカーだと思っている。同社パソコンのシェアは世界市場で3%を割ったと言われているが,それに見合わず(?)同社への世間の関心は相変わらず高いのである。米Dell Computerのようにパソコンのシェアがナンバーワンになるわけでなく,米MicrosoftのようにOSで世界を席巻したわけでもない。にもかかわらずApple社は一目置かれる存在なのである。

 年明け早々に発表した新型の「iMac」は米国はもちろん,日本でも大きく報じられ,CEOのSteve Jobs氏と新デザインのiMacの巨大模型が並んだ写真や映像をあちこちで目にした。Apple社は実に華々しい。

 同社には固定したファンがいる。マウスを使ったパソコンGUI(Graphical User Interface)の“元祖”としての権威もある。こうした背景を鑑みると,Apple社は今後も難なく安定したビジネスを展開できるような気もする。しかし本当にそうなのだろうか?

 そんなことが気になって今回は,USニュースからApple社に関するデータを集めてみた。Apple社については,とかく神話的に語られることが多い。もちろん私もそういう話しは大好きなのだが,今回は具体的な数値で同社を探ってみたいと思う。

グラフを作ってビックリ! 出荷台数の推移は波瀾万丈

 下のグラフは,Apple製品の出荷台数である。同社が四半期ごとの決算発表時に公開しているデータを10期分まとめた。まず「ビックリ」,というのがグラフを作ったときの感想である。Apple製品の出荷台数は“安定している”とはとても言えない,変動著しいものだったのである。

図1●Apple社製品の出荷台数

 しかもトレンドとしては大きな右肩下がりである。グラフの期間は2年半分なので,季節的要因の影響によるもの,とも考えられない。いったいこの期間Apple社には何があったのだろうか。もう少しグラフを見ながら考えてみよう。

 まず一目瞭然なのは,出荷台数が最も多いのがiMacということ。このピーク時(図1中のA)である1999年12月期は,同社が400MHz動作のiMac DVと同Special Editionを出荷した時期にあたり,同四半期のiMacの出荷台数は70万2000台と劇的な数字になっている。

 ちなみにこの頃米PC Dataが,「Apple社製品の米国小売りにおけるシェアは10.9%で,その順位は4位」とする調査報告を発表していた。Aplle社も米IDCの調査結果を引用し「米国の教育市場で30.6%シェアを獲得し,首位の座についた」と発表(発表資料)するなど,その絶好期を謳歌していた。

iMacは名実ともにアップルの大黒柱

 iMacについては,このグラフ期間以前の経緯もみてみよう。まず,iMacが発表されたのは98年5月だった。またその出荷は98年8月半ばに始まった。Apple社の当時の発表資料によれば,「iMacは出荷開始後の6週間で27万8000台を売り上げた」(発表資料)という。さらに98年12月期には51万9000台を売り上げている。

 この頃「iMacは,斬新な工業デザイン,他社製品との価格差をそれまでの600~800ドルから200ドル以下に縮め販売したことなどで,新規ユーザーの獲得に成功した」と言われていた。その後99年3月期,99年6月期,99年9月期(それぞれの出荷台数はデータを入手できず不明)を経て,前述の70万2000台に至った。

 iMacはその後もおおむね「Power Mac G4」の2倍の出荷台数を維持していった。こうしてみると,iMacはApple社製品全体のけん引車としての役割を果たし,名実ともに同社を代表する製品になっていった,と言えるだろう。

青天のへきれき,iMacが一気に半減

 しかし99年12月期の勢いはそう長くは続かず,iMacはいったん50万台を割ってしまう(図1中のB)。Apple社はその後もiMacのマイナー・チェンジを続けている。2000年7月には新たにDVD-ROMドライブを搭載した「iMac DV+」を追加,筐体色もルビー,セージ,スノーといった新色を加えた。これが功を奏し2000年9月期には盛り返しを見せていた(図1中のC)。

 しかしそれも束の間,その後突如として米国IT産業のスランプが到来した。これによりパソコン市場も低迷,2000年12月期におけるiMacの出荷台数は一気に30万8000台まで落ち込んだ(図1中のD)。前期に比べて半減したのである。

 このとき同社は3年ぶりの赤字を経験している。業績予測報告でSteve Jobs氏は,「パソコン販売が市場全体で急速に落ち込んでいる。来期は利益を上げて,持続的成長の軌道へと戻したい」と説明していた。

 iMacの出荷台数はその後2四半期横這いとなった後,緩やかに下降していった。99年12月期のレベルに復帰できないどころか,最後にはその1/3にまで減ってしまった(図1中のE)。Steve Jobs氏の願いはかなわなかったのである。

新型iMacに託された重い任務

 こうしてみてみると,今回の新型iMacはこの現状を打破するために投じられた極めて重要な“兵器”ということがわかる。マシンの性能を上げただけのマイナー・チェンジでも幾分の回復は期待できるだろう。今年2002年後半にはIT市場は回復するという予測(米IDCの調査)もあり,市場環境は改善に向かうようである。しかしそれでは長くはもたないことは,これまでの経緯から予測できる。

 そこで,Apple社はマイナー・チェンジではなく,“奇抜なデザインの新製品で賭にでる”という道をとった。シェア減少に歯止めをかけるといったレベルでなく,初代iMacのように,皆をあっと言わせ,あの時代を再現する---これが新型iMacに託された使命なのだろう。

 今回のiMacは,かねてから要望の多かった液晶ディスプレイを採用し,意表をつくデザインで登場した。「CRTディスプレイはこれで公式に“死んだ”」などというSteve Jobs氏の過激な発言(発表資料)も健在だった。

 それが功を奏したのか,新型iMacは大変人気を博しているという。米メディア(CNET News.com)によれば,当初の見込みを超える注文が殺到しており, 800MHzモデルの出荷開始時期が当初見込んでいた2~4週間後から3~5週間後にずれ込む見込みだという。

 なおApple社は今回,iMacと同時に新型のiBookも発表している。また「1月末か2月始めにも,新型PowerMacが発表される」といくつかのメディアが伝えている(米ZD Net News)。

 こうした一連の新製品で,Apple社は再び大きな波を起こせるだろうか。起こして欲しい。私も一ユーザーとして期待している。