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 6月25日に粉飾決算が発覚した米WorldComのニュースが連日報じられている。この問題を引き金にしてWorldCom社は現在,資金調達が困難な状況に直面している。場合によってはチャプター11(米連邦破産法11条:日本の会社更生法に相当)の適用申請に追い込まれるのではないかとも言われている。

 WorldCom社の総資産は1038億ドルで,昨年末破綻した米Enronの628億ドルをはるかに上回る。WorldCom社が仮にチャプター11を申請すれば,米国市場最大の倒産になる。

 WorldCom社についてはこれまでUS NEWS FLASHの記事でも数多く取り上げてきた。しかし同社の実態についてはあまり多く触れてこなかったように思う。そこで今回はこれまでの記事や米メディアの報道,各種の資料などから主要な出来事を拾って,同社の実像に迫ってみたいと思う。

■世界の通信インフラを支える米国第2位の長距離事業者

 WorldCom社は,米国で「IXC(inter-exchange carrier)」と呼ばれる長距離通信事業者に分類される企業である。WorldCom社の事業内容は,長距離電話サービスをはじめ,企業向けデータ通信,無線通信,地域電話サービスなど広範に及んでいる。また傘下には,大手ISP(Internet Service Prvider)のUUNETを抱えており,世界の65カ国で事業を展開している。

 IXCにはWorldCom社のほか,米AT&T,米Sprint,米Qwest Communications,米Level 3 Communicationsなどがある。これらがWorldCom社のライバル企業なのだが,WorldCom社はこのなかでAT&T社に次ぐ第2位のIXCとして世界の通信インフラを支えてきた。

 WorldCom社は2000年前半まで「MCI WorldCom」と名乗っていた。しかし1998年前半までは現在と同じ社名「WorldCom」を使っている。その一方で同社には今も「MCI」という事業部門が存在する。また日本法人の名前は「MCIワールドコム・ジャパン」である。少し混乱してしまうところだが,これは同社の成り立ちが他の企業に比べ複雑だったことを物語っている。

■ミシシッピーの小さな再販事業者がM&Aで拡大

 WorldCom社の前身は,今年4月までCEO兼社長だったBernard J. Ebbers氏が1983年に設立したLDDS Communications社である。Ebbers氏はその自由奔放な言動から「カウボーイ」と呼ばれたカリスマ的経営者である。LDDS Communications社は当初ミシシッピー州の小さな長距離再販事業者に過ぎなかったが,Ebbers氏の精力的な合併・買収(M&A)により,同社は現在のWorldCom社へと発展していった(掲載記事)。

 同社が約20年間にわたり行ってきたM&Aは合計75件にも及ぶ。その中で同社を飛躍的に拡大させた買収が二件ある。一つは97年の米UUNet Technologies,もう一つは98年の米MCI Communicationsの買収である。

 UUNet Technologies社は87年設立のISP。94年に米Microsoftと提携し,Microsoft社のISP事業,MSNの構築・運用を手がけたことで一気にその名を広めた。UUNet Technologies社は96年に地域通信事業者の米MFS Communicationsに買収されたが,翌97年にWorldCom社がそのMFS Communications社を買収し,WorldCom社の傘下に入った。

 一方のMCI Communications社は長距離通信,インターネット・バックボーン,ISP事業を手がけていた会社である。実はこのMCI Communications社に対しては,英BT(British Telecommunications)や米GTEが先に買収提案を行っていたが,WorldCom社がそれに横やりを入れる形で登場し,2社を上回る条件を提示した。WorldCom社はこうしてMCI Communications社を勝ち取ったのである(注1)

注1:GTE社は2000年に地域通信大手の米Verizon Communicationsに買収された長距離通信事業者。GTE社は280億ドルの現金による買収を提示していた。これに対しWorldCom社は370億ドル相当の株式交換による買収を提示した。

 この買収により年商300億ドルの巨大通信企業が誕生した。また同社はこれと同時に社名を「MCI WorldCom」に変えた(発表資料)。なお,日本法人のMCIワールドコム・ジャパンを設立したのもこの年である。MCIワールドコム・ジャパンは外資系企業として初めて第一種電気通信事業者の認可を取得し,98年11月に東京でサービスを開始した(発表資料)。こうして生まれ変わったMCI WorldComは,長距離/地域,データ通信,インターネット・サービスでの世界有数の企業へと変貌を遂げ,AT&Tに対抗できる強大な勢力となっていった。

■業界第2位と第3位が合併へ,既存通信事業者からの脱却

 通信バブルによる株高を生かしたM&Aで絶好調をおう歌していた同社が,その最盛期を迎えるのは99年のこと。MCI WorldCom社は同年10月に米長距離通信第3位のSprint社との合併を表明,時価総額2900億ドル,年商500億ドル超という巨大企業が誕生する,と発表した。(発表資料

 このころの同社は「generation d」と呼ぶe-businessの取り組みを発表し,“ネットワーク資産,資源,ノウハウ,7万7000人の社員を用いて,エンド・ツー・エンドの広範なサービスを手がける”という構想を描いていた。当時のEbbers氏は「既存の音声/データ通信事業者から脱却し,e-businessサービス・プロバイダとなるべく会社を再生させる」と豪語していたことが今も記憶に新しい(発表資料)。

 またMCI WorldCom-Sprint合併後の新会社の名称は「WorldCom」に決まっていたので,同社は,株主総会で合併承認が得られた2000年4月28日を境に社名を変更し,再びWorldComとして営業を始めた。

 ところがEbbers氏の思惑は予定通りにはいかなかった。この買収計画は結果的に失敗に終わることになる。

■司法当局に阻まれる行く手。そしてネット・バブル崩壊

 WorldCom社とSprint社は当初,米司法省やFCC(連邦通信委員会)などの認可を経て2000年後半にも合併作業を完了できる,という見込みを立てていた。しかし,米司法省はこれを認めなかった。両社の合併は独禁法違反の疑いがあるとして差し止め訴訟を起こしたのである。

 結局この訴訟は翌年の2001年にまで長引くことが分かったため,両社は2000年7月に「(訴訟が長引くことで)株主や顧客,従業員に対する利益が損なわれる」と理由を付け,合併断念を発表した。かくして総額1290億ドルの壮大な合併計画は夢と消えてしまったのである(発表資料)。

 折しもこのころネット・バブルが崩壊した。WorldCom社の株価はじりじりと下がり始めていた。同社はこうした局面を打開すべく,2000年9月に企業向けデータ通信などを手掛ける通信事業者,米Intermedia Communicationsを買収すると発表,また11月には,家庭向け通信事業などを切り離し,同社を,「MCI」と「WorldCom」に2分割するという大規模な組織再編に着手している。

■株価の下落をなんとか食い止めたい

 この事業拡大と組織再編の目的は株価を元に戻すことにあった。Ebbers氏も現に組織再編の記者発表で「(この組織再編で)株主・投資家に対して投資の対象を明確する」と率直に語っている。このとき同社の株価は7月にSprint社の買収が破談となったときの5割程度の水準にまで下落していたのである。

 同社が粉飾決算に手を染め始めたのは翌年の2001年始めである。自社株を通貨のように使う株式交換でM&Aを繰り返してきた同社にとって,株価の下落は成長が止まることを意味した。

 同社がとった手法は,EBITDA(earnings before interest, taxes, depreciation and amortization:利子,税金,減価償却費控除前利益)と呼ぶ業績評価指標の操作である。通信事業者は設備投資などで巨額の負債が生じるが,設備投資は減価償却されるため,このEBITDAに含まれない。EBITDAは,「通信事業者という特殊な事情の企業とそうでない企業の違いを除いて収益力を評価できる」ということで通信事業者によく使われる指標である。そしてWorldCom社は,巨額の営業費用を減価償却に付け替えることでこのEBITDAを水増ししていたのである。

■信用回復に取り組む新CEO

 この粉飾決算を指揮したとされるのは,同社が38億ドルに上る粉飾決算を明らかにした6月25日に解雇されたScott Sullivan前CFO(最高財務責任者)である。Sullivan氏はEbbers氏が信頼を寄せていたとされる人物。そのEbbers氏は4月30日に,3億6600万ドルに及ぶWorldCom社からの不明朗な個人融資が発覚したことなどを理由に辞任に追い込まれている(掲載記事)。

 そしてEbbers氏に代わって社長兼CEOに就任したのは,UUNet Technologies社の創設者でWorldCom社の副会長だったJohn Sidgmore氏である。Sidgmore氏は現在,投資家や債権者の信用のつなぎとめるべく,できる限りの手を尽くしているところである。6月28日にはGeorge W. Bush米大統領に書簡を送り,捜査当局に協力していくこと,すでにCFOを解雇したこと,監査役の辞任も決定していることなどを告げている。

■米大統領やSEC会長は事件関与者個人を批判するが・・・

 一方のBush大統領は,事件発覚の翌朝,サミットが行われていたカナダのカナナキスで声明を発表し,事件に関わった経営者を批判している。同大統領は7月1日にも改めて,会計不正に関与した人物に対する厳しい制裁措置の方針を示している。また同日には,SEC(米証券取引委員会)のHarvey Pitt会長もBush大統領と同様の批判を行ったと伝えられている。

 Enron事件で表面化した米企業への会計不信は,とうとう米国の代表的な通信企業にまで及んでしまった。また6月28日には米Xeroxの64億ドルの売り上げ水増しが報告され,7月2日にはフランスVivendi Universal(VU)の粉飾決算疑惑も浮上(関連記事)するなど,一連の事件は世界経済に動揺を与えている。

 こうなってくると,問題の本質はBush大統領の言う「不正会計に関与した人物を厳罰に処する」ということでは解決できないだろう。IT Pro掲載の小林雅一氏の記事が指摘するように,今は,かつて世界の手本とされていた米国流の経営・会計モデルに対する疑問が広がっているときなのである。その見直しが求められているこのときに,個人への制裁を前面に押し出した政策を掲げるのは見当違いだろう。