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 日本がお盆休みだった先週一週間,米メディアを連日賑わしていた企業がある。米AOL Time Warnerである。会計処理問題,責任者の退任,経営幹部の人事異動と同社にまつわる話題は尽きない。今週に入ってからは,販売した商品を同じ条件で買い戻す「往復取引」(round-tripping transaction)の疑惑も浮上している。これら一連の報道は,折しも決算の正確性を証明する宣誓書の提出時期と重なった。

 昨年1月に巨大合併を実現した同社だが,その後は巨額の損失を計上するなど“合併後遺症”に悩んでいた(関連記事)。今年は,経営改革,顧客満足度向上策など,さまざまな施策を講じ,それが功を奏したのか,第2四半期決算では黒字回復を報告していた(関連記事)。

 ところが皮肉なことに,今,その会計処理を巡って疑惑が広がっている。今回はAOL Time Warner社に関するこうした一連の報道を拾いながら,同社の現状についてレポートしたいと思う。

■「不正はなかった」と説明するが・・・

 AOL Time Warner社,とりわけAOL社の事業を巡っては,この1カ月ほどの短い期間に実に多くのことが起こっている。まず,それら断片的な情報を時系列で整理してみたい。

 ことは7月18日にWashington Post紙が,「AOL社の会計処理が適切に行われていない」と報じたことに端を発している。記事は「AOL社が2000年~2001年のオンライン広告/販売の売上高を水増ししていた」という内容だった(Washington Post紙の記事)。そして,米証券取引委員会(SEC)が実際に調査を始めたのである。

 当事者からの発表は翌週を待たねばならなかった。7月24日,AOL Time Warner社は同日行った第2四半期決算発表の直後に「証券取引委員会から調査開始の通告を受けた」と発表したのである。

 この時のAOL Time Warner社の説明は次のようなものだった。「監査を依頼している米Ernst & Youngが再調査した結果,不正はなかった。すべての取引と公開情報は会計基準に則している」(AOL Time Warner社)――

 さらに次の週の7月30日,Washington Post紙が新たな報道を行った。それは「AOL社業務(business affairs)部門を担当していたDavid M. Colburn氏(AOL Time Warner社上級副社長)が日常業務から退いた」というものだった。同氏はAOL社の大口取引の交渉を担当する部門で,オンライン広告や販売取引に関わっていた人物である(Washington Post紙の記事)。

 このWashington Post紙の報道は,まもなくして,ガセネタではなかったことが証明されることになる。AOL Time Warner社は2週間後の8月14日になって,同氏が8月9日付けで退任していたことを明らかにしたのである。

 この8月14日とは,同社が決算内容の正確性を証明する宣誓書を証券取引委員会に提出する期限だった。そして,同社はこの日の夕方,期限ぎりぎりになって宣誓書を提出したのだが,その直後にさらに重大な発表を行った。

■一転して疑いを認めたAOL Time Warner社

 その発表はこれまでの主張を覆し,「AOL社の会計処理の正確性に疑いがあることが判明した」というものだった。同社は「AOL社の過去の3つの取引において,サード・パーティから受け取った報酬を“不適切に”広告・販売収入として計上していた可能性がある」と説明したのである(関連記事)。

 さらに同社は,疑惑のある取引は過去1年半の間に行われたものであること,その取引額は4900万ドルと少額であること,を付け加え,同社がすでに社内調査を始めていること,今後これ以外の取引についても調査を進めていくこと,その調査は第3四半期末までに完了する予定であること,などを明らかにした。

 この原稿を執筆している8月22日現在,同社はこの3つの取引の詳細や退任したColburn氏との関連性については何も明らかにしていない。そしてこのことが,さまざまな憶測の要因ともなっているのである。なかでも多いのが,「こうした“告白”や決算正確性証明だけでは疑惑は晴れない」とするものである。

 ちなみに,8月16日付けの米Wall Street Journal紙と英Financial Times紙(いずれもオンライン版)は「AOL社は多数の取引をでっちあげていた。当局は今その件で調査している」と報じていた(関連記事)。

 今週に入ると,収入水増しの具体的な手法に関する報道が流れた。19日付けのWall Street Journal紙オンライン版が「当局はAOL社のスワップ取引を調査中」と伝えたのである(掲載記事)。

 ここでいうスワップ取引とは商品や資産の“買い戻し取引”のことである。ある資産の販売に伴い,その販売した資産そのもの,あるいは販売相手の同様の資産を,ほぼ同額で買い戻すことを意味する。これには,販売と買い戻しをほぼ同時に行う「往復取引」(round-tripping transaction)」と,時期を多少ずらす「連続取引」(back-to-back transaction)がある。これらを悪用すれば,双方の収入を意図的に水増しすることできるというわけである。

■Colburn氏が刑事捜査の対象に

 ここ1カ月の出来事をざっと見てきたのだが,実はこのほかにも,重要と考えられる出来事が2つほどある。これらはいずれも,AOL Time Warner社の今回の発表に大変大きな影響を及ぼしたのではないかと考えられている。

 1つは,7月31日に,証券取引委員会に続き,米司法省も調査を始めたこと。こちらは同社の不正会計を追求するための刑事捜査である。これついては米メディアによって「司法省は今,疑問視されている一連の取引を指揮していたColburn氏を重点において捜査を進めている」といった報道がなされている。

 もう1つは,AOL Time Warner社の大規模な組織変更(人事異動)である。これはちょうど,Washington Post紙が第一報を報じた7月18日に発表された。この組織変更により,AOL Time Warner社のナンバー2であったRobert W. Pittman氏が同社を去っている。同氏は,合併前のAOL社で社長を務めていた人物である。退任直前はAOL Time Warner社のCOO(最高業務執行責任者)とAOL社の暫定CEOを務めていた。

 なお,AOL社の正式なCEO職は今年4月にBarry Schuler氏が辞任して以来,空席状態が続いていた。そのためこのPittman氏が暫定CEOを務めていたのだが,この8月6日,元USA Interactive社幹部のJonathan F. Miller氏が(AOL社の)正式なCEOに就任している(発表資料)。

■「合併承認のため株価維持が必要だった」という疑惑

 米New York Timesオンライン版によれば,投資家の間では今,「2000年はじめに起こったITバブルの崩壊が,一連の不正会計を生んだのではないか」という憶測が流れているという(掲載記事)。「2000年6月の旧AOL社と旧Time Warner社の臨時株主総会で,株主からの合併承認を取り付けるため,不正会計を行う必要があったのはないか」という疑いである。このころ,ドットコム企業の株価は下がり始めていたが,AOL社のそれはまだ上昇を続けていた。下がり始めたのは株主による合併承認が無事終わった後だったのである。

 最後に株価の推移について少し詳しく見てみよう。

 2000年1月の合併発表前の株価は,AOL社が73ドル,Time Warner社は64ドルをつけていた。合併発表翌月の2月時点では,AOL社株が58ドルに下がったものの,Time Warner社株は81ドルにまで上がった。その後AOL社株は60ドルに回復(2000年4月),株主による合併承認が終わった7月でも61ドルを維持していた。しかし同社の株価はその後じりじりと下がり,10月には43ドルにまで下がってしまった。

 2001年1月に合併作業を完了し,新生AOL Time Warner社となった後の株価はしばらく39~45ドルで推移していた。ところが9月の同時多発テロで一気に34ドルにまで下がってしまったのである。その後回復には至らないまま,同社は今年1月,決算発表で赤字額の拡大を明らかにする(関連記事)。これにより株価は26ドルにまで下がる。さらに今年4月,542億ドルという巨額の損失を発表(関連記事)したため,とうとう20ドルを切ってしまった。株価はその後もさらに下がり続け,一連の報道があった先週は10~13ドルで推移していた。

 前述のナンバー2,Pittman氏の退任は,株価の下落と広告収入の低迷を食い止められなかったことに対する引責だった,とも伝えられている(Washington Post紙の記事)。

 不正操作をしてまで実現した巨大合併企業も,ここまで堕ちては株主たちはだまっていまい。AOL Time Warner社の不透明な経営を巡るニュースは今後も続くのだろうか。

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