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 米国時間の7月14日,米Yahoo!による米Overture Servicesの買収が決まった(関連記事)。買収されるOverture社とは,本コラムでも紹介したことがある検索広告の大手企業。記事では,Yahoo!社もこのOverture社も同じように,検索技術/サービスの最大手である米Googleの勢力に脅威を抱いており,いずれもその対抗策に乗り出している,と述べた。その2社が今回合併することになり,今後Google社への対抗を強めていくというわけだ。

 しかし,この買収,単にYahoo!社とOverture社が1つになってGoogle社に挑むというだけには留まらない話でもある。そこには,オンライン・サービスMSNを運営する米MicrosoftとAOL(America Online)を運営する米AOL Time Warnerの存在がある。いずれもYahoo!社のライバルであり,Overture社とは取引実績がある。とりわけMicrosoft社とOverture社は現在も取引を継続しており,今月にその契約期間を延長したばかり(関連記事)。今後Overture社はYahoo!社の子会社となるが,それによってMicrosoft社がYahoo!社に敵対的姿勢を示すのではないかと言われている。

 ここには,インターネット検索の技術/サービス/広告分野で圧倒的なシェアを持つGoogle社,それに対抗できうる力をつけはじめたYahoo!社,そうした2強体制を放置しておくはずがないMicrosoft社という構図が見える。

■Googleに次ぐ検索企業が誕生へ

 Yahoo!社がOverture社を買収することでどのような状況が生まれるのだろうか。もう少し詳しく見てみよう。SilliconValley.comに掲載されている米comScoreの調査結果によると,米国におけるネット検索サービスの利用者の32%がGoogle社のサービスを利用しており,25%がYahoo!社のサービスを利用しているという。また検索広告では,Google社とそのパートナー企業が52%を,Overture社が45%を占めている(掲載記事)。Yahoo!社がOverture社を買収することで,Google社に次ぐ巨大な検索企業が誕生することが分かる。

 また,Yahoo!社は昨年12月に検索技術/サービス大手の米Inktomiを買収している。Overture社も米AltaVista(関連記事)とノルウェーFast Search & TransferのWeb検索事業(発表資料)を買収している。Yahoo!社はOverture社を手に入れることで,多くの検索技術と顧客を集めることになる。

 検索広告市場の将来も明るいようである。オンライン広告の業界団体である米IAB(Interactive Advertising Bureau)によると,検索広告の売上高は今やオンライン広告全体の15.4%を占めるまでになり,2002年における売上高は約10億ドル(前年比200%増以上)だったという。米Salomon Smith Barneyでは今年の市場規模を14億ドルと予想しており,これが今後毎年35%ずつ増加し,2008年には50億ドルの規模にまで成長するとみている(掲載記事)。

■Overtureの事業に懸念材料あり

 2001年には業績低迷に泣き,この2年間,広告収入依存型からの脱却を図るべく,サービスの有料化戦略を推し進めてきたYahoo!社だが,ここにきて好業績が続いている。Overture社の買収発表の直前に発表した2003年第2四半期決算では,売上高が3億2140万ドルとなり四半期ベースで過去最高を記録,有料サービスの売上は7000万ドルとなり,前年同期に比べ43%増えた(関連記事)。

 広告収入についても,オンライン広告業界の中でいち早く回復しているようだ。同社の第2四半期の広告収入は2億1900万ドルとなり,前年同期から44%伸びている(Overture社との取引分を除く)。また,Yahoo!社は今後,Overture社の既存顧客に対して,既存のオンライン広告を積極的に販売できるようになる。こうしたことから,Overture社の買収はYahoo!社本体の広告事業にも恩恵をもたらすと言われている。

 ところが,Overture社の今後の業績についは懸念材料がある。それは,Microsoft社の今後の出方にかかわってくる。上述した通り,Overture社とMicrosoft社は取引関係にあるのだが,実はOverture社の最大の顧客はMSNであり,MSNがその売上高の1/3をもたらしている。年間の金額にして3億5000万ドルである。米メディアの報道によると,Microsoft社とOverture社との契約には,「もしYahoo!社がOverture社を買収することになった場合,Microsoft社は契約を無効にできる権利を持つ」という条項が盛り込まれているという。またその際,Overture社はMicrosoft社に対し5000万ドルを支払うという罰則規定も設けられているという(掲載記事)。

■気になるMicrosoftの動き

 Microsoft社がこの権利を行使するかどうかは定かではないが,長期的には,Microsoft社がこのまま黙ってはいないだろうというのが大方の見方である。New York Timesオンライン版の記事に掲載されたアナリストらの意見によると,「今回の買収による敗者はMicrosoft社」なのだという。なぜなら今後MSNはその第1のライバルであるYahoo!社から検索広告のサービスを受けなければならないし,Yahoo!社は,MSN上で行われるユーザーの検索動向を通じて,MSNのビジネスについて情報を得ることができるからだ(掲載記事:閲覧には無料の登録が必要)。

 Microsoft社の今後の動きについては,同社がGoogle社買収に動き出すのではないか,また,Yahoo!社に敵対的買収を仕掛けるのではないかという憶測が流れてもいるが,同記事でMSNのグループ・プロダクト・マネージャであるLisa Gurry氏の具体的なコメントが載っている。それによると,「まず,MSNはYahoo!社とOverture社と話し合いを持ち,今後の選択肢について評価する。当面は現状を維持する」(Lisa Gurry氏)という。しかし,U.S. Bancorp Piper JaffrayのアナリストSafa Rashtchy氏は,1年もすれば,Microsoft社は新たな取引相手を見つけるか,自前のサービスに乗り換えると予測している。Microsoft社がGoogle社とパートナーシップを組むという可能性については,「ありえない」とする考えが多いという。Google社はMicrosoft社にとってYahoo!社以上に脅威というのがその理由である。

■業界変動はまだまだ続く

 Yahoo!社のCEOであるTerry Semel氏は今回の買収について「さまざまな局面において我が社を助けることになる」というコメントを出している。「Overture社やGoogle社に対抗すべくYahoo!社が自前サービスを開発すべきか否かという問題があったが,これが解決した」(同氏)という。また,「2社が一緒になることで,ブランディング,検索広告,画像広告,テキスト広告,文脈型広告,マルチメディア広告など,全世界で競争力の高い,多様な統合ソリューションを提供できるようになる」とも説明している(発表資料)。2社の資産を統合することで,成長するネット広告市場で世界ナンバー・ワンのプレイヤーになるというのがYahoo!社の構想である。

 しかし,そんなYahoo!社の思いとは裏腹に,今回の買収で得をするのはほかならぬGoogle社であるという見方がある。今後OvertureのサービスにYahoo!色が濃くなれば,Overtureを敬遠する企業が増えるというわけだ。そうでなくてもGoogleのユーザー数はダントツ。ユーザー数の多いGoogle社の方に魅力を感じる広告主は多い。つまりGoogle社には成長の要因が多いが,Yahoo!社にはそれが少ないというわけだ。

 Google社は1998年に、スタンフォード大学の2人の学生によって設立された若い企業で,まだ上場していない。そんな同社は現在,検索サービスを世界30カ国,120社以上の企業に提供し,1日2億件以上の検索を処理している。今やその存在を知らないユーザーであっても何らかの形で恩恵を受けており,たとえポータル最大手のYahoo!社と検索広告第2位のOverture社が一緒になってもかなわないまでに成長している。まさに「あっぱれ」としか言いようがないのだ。

 しかし,今回の買収によってGoogle社には安閑とはしていられない状況が迫ってきているとも言える。それは,Microsoft社の存在である。上述した通りYahoo!社の行動を受けて,Microsoft社もいずれ動き出す。AOL Time Warner社の存在も忘れてはならない。AOL Time Warner社は5月末にMicrosoft社と和解しており,AOLとMSNはもはやかつてのライバルではない(関連記事)。この2社の今後の出方次第で,業界の構造は簡単に変わってしまうのだ。

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