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 先ごろ米Red Hatが新たなLinuxディストリビューションを発表した。その名は「Fedora Core 1」。Red Hat社は同時に,同社が今後カーネル2.6ベースのディストリビューション「Fedora Core 2」の開発に取り組んでいくことも明らかにした(関連記事)。

 この「Fedora」(フェドラ)という名称は,コミュニティ・プロジェクト「Fedora Linux」からとったものだ。Red Hat社は,自社のオープンソース開発プロジェクトとこのコミュニティを統合させ,新たに「Fedora Project」を立ち上げた。今回のディストリビューションはこの新設プロジェクトによってリリースされた。

 Fedora Coreはインターネットから無料でダウンロードして自由に使える。一見,これまでの無償版「Red Hat Linux」と変わりがないように思えるのだが,実は似て非なるものである。そして,ここにRed Hat社のLinux戦略の大きな変化がうかがえるのだ。今回は同社の新戦略について見てみよう。

■前身となったFedora Linux

 同社は今後もFedora Coreの提供を継続するが,その代わり,これまでのRed Hat Linuxのサポートは最長2004年の4月末までと決めた。Red Hat Linuxの開発はすでに中止しているし,小売店で販売するパッケージ版も廃止する。その一方で,昨年から展開している企業向けの有料ディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」に大きくシフトしていく。今後はより多くの顧客に同ディストリビューションに移行するよう薦めていくという。

 では,これまで無償版Red Hat Linuxを利用して,ビジネスを行ってきたユーザーはどうすればよいのだろうか。一見,Red Hat社はそうしユーザーのためにFedora Coreを用意したともとれるのだが,実はこのFedora Coreの位置付けは無償版Red Hat Linuxとは大きく異なる。

 前述の通りFedora Coreは,Red Hat社が自社の開発プロジェクトとコミュニティ・プロジェクトであるFedora Linuxを統合して立ち上げたFedora Projectによって開発されたものだ。このFedora Linuxとは,Red Hat Linux向けのサード・パーティーRPMパッケージ(Red Hat Linuxにないアプリケーションやツールのインストール/アップグレード・パッケージ:関連記事)を開発・提供していたプロジェクト。ハワイ大学でコンピュータ・サイエンスを専攻していたWarren Togami氏が2002年の12月に設立した(関連情報)。

■Fedora Coreは「実験の場」

 2003年9月にRed Hat社とFedora Linuxが,両者のプロジェクトを統合すると発表,これによりFedora Projectが誕生した。しかし,その目的は,オープンソースの開発者に「実験的な場」を提供することである。Red Hat社は同プロジェクトのスポンサであり,管理面でも支援をしている。ここで開発された技術はやがて,Red Hat社の企業版ディストリビューションにも採り入れていくという。

 つまり,Fedora Projectはそのためのテストベッドという位置付けなのだ。米InfoWorldの記事によると,同社マーケティング部門副社長のJohn Young氏は,Fedoraでは安定性ではなく,最新の技術のみを追求すると語っている。アップデートの周期も2~3カ月と短く,企業向け製品のような厳密なテストを受けることなく頻繁にリリースされる。もちろんRed Hat社は正式なサポートは行わない(米InfoWorldの関連記事

■主力製品はあくまで「RHEL」

 これに対し,企業向けRed Hat Enterprise Linux(RHEL)は,安定,信頼性,充実したサポートなどを「ウリ」にした製品である。企業における安定性と導入のしやすさを主眼においているため,バージョンアップは12~18カ月間隔。ハードウエア・メーカーやISV(Independent Software Vendor)による動作検証も行われ,業界標準ベンチマークも提供する。Red Hat社からは,24時間365日体制のサポートが受けられ,もちろんパッチ/セキュリティ管理の配布機能も付く。

 製品は主に,(1)個人企業のワークステーション(デスクトップ/クライアント)向けの「WS」,(2)中小企業(中小規模ネットワーク)向けの「ES」,(3)大企業(ハイエンド/ミッション・クリティカル)向けの「AS」で構成する。

 価格は年間サブスクリプション形式で,WS Basic Edition(x86,Itanium,AMD64向け)の179ドル/年から,AS Premium Edition(IBM zSeries,S/390向け)の1万8000ドル/年まで,となっている(Red Hat社の資料)。

 これまで無償でRed Hat Linuxを使ってきたユーザーの唯一の救いは,RHEL WSの小売り向け廉価版「Red Hat Professional Workstation」かもしれない(米Amazon.comで89.99ドルで販売されている)。こちらは,非サブスクリプション製品で,1年間のサポートは付くが,それ以降の更新は不可。各種のサポート・オプションも提供されないため,Red Hat社ではなるべく通常のRHELを購入するよう薦めている。あくまでも同社の主力商品は企業向けのRHELというわけだ。

■RHEL戦略が奏功して業績向上

 同社がRHELを発表したのは2002年。これが奏功し,その後同社の業績は向上した。2002年9月~11月期の売上高は2430万ドルで,このとき同社は黒字転換を果たしている(関連記事)。その後の売上高は,2590万ドル(2002年12月~2003年2月期),2720万ドル(2003年3月~5月期),2880万ドル(2003年6~8月期)と着実に伸びている。

 米C.E. Unterberg, Towbinのアナリストによると,これはひとえにRHELの年間サブスクリプション収入によるものという。今後Red Hat社は,米IBMや米Dell,米HP(Hewlett-Packard)といったパートナー企業を通じてさらに売上げを伸ばしていくと同氏は予測している(米CNET.News.Comの掲載記事)。

 またRed Hat社は,「OSA(Open Source Architecture)」と呼ぶアーキテクチャを発表している(関連記事)。これはRHELを中心として,ソフトウエア部品などを階層的に組み合わせられるようにするというもの。米MicrosoftのようにすべてをOSに統合していくのではなく,例えばファイル・クラスタリングやアプリケーション・サーバーといったソフトウエアをレイヤー型モジュラ構造で追加できるようにする。

 Red Hat社は1994年10月からRed Hat Linuxを提供してきたが,同社がこれまで掲げてきた使命は,「世界中の人々にオープンソース・コミュニティの成果物を広めていく」ことだった。しかしここにきてその対象となる「人々」を大きく絞ったというわけだ。ずばり,企業市場である。

■コンシューマ向け製品が店頭から消える?

 11月10日,米NovellがドイツSuSE Linuxを2億1000万ドルの現金で買収すると発表した(関連記事)。このことで,SuSE Linuxのコンシューマ向けディストリビューションも店頭から消えてしまうのではないかと危惧されている。米メディアによると,これまでCompUSAやBest Buyといった小売店で探せたディストリビューションは,Red HatとSuSEくらい。Red Hatが棚から消えてしまった今,残っているのはSuSEだけ。今度はそれさえもなくなってしまうのではないかという懸念が広がっているという(掲載記事)。

 「一連の動きは,Linuxが企業分野に十分に浸透してきたことの表れと見ることができる。しかし,人気の高いディストリビューションにこうした異変が起きている今,(Linuxディストリビューションの)コンシューマ市場は今後成長が鈍化していくのではないか」と同記事は述べている。

 このことは,案外当たっているのかもしれない。とりわけ業界最大手のRed Hat社が企業市場を「選択」し,それに「集中」したことの影響は大きい。Linuxディストリビューションの業界はここにきて大きな岐路に立っているのかもしれない。

 なお,Red Hat社とSuSE Linux社は,企業向けにフォーカスするとはいえ,学生や教育機関に向けたアプローチを怠っていない。Red Hat社は学生向けディストリビューション「Red Hat Academic Desktop」を25ドルで,教育機関向けの「Red Hat Academic Server」を50ドルで提供する予定という。SuSE Linux社はすでに,学生や教育機関などに向け40%以上を割り引くディスカウント販売を始めたという(掲載記事)。しかしこうした取り組みはあくまでも新戦略の一環に過ぎない。今日の学生は,明日の重要な企業顧客だからである。

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