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 Javaを巡って,米Sun Microsystemsと米IBMがつば競り合いを続けている。その1つの争点として最近,注目されているのがオープンソースのソフト開発ツール「Eclipse」だ。EclipseはJavaの統合開発環境(IDE)として最も普及している。もともとはIBM社が開発していたが,2001年に同社がそのコア部分をオープン・ソース化し,そのとき立ち上げたのが同名のプロジェクトだった。

 そのEclipseのカンファレンスが2月の始めにカリフォルニア州アナハイムで開催され,Eclipseの開発コミュニティが非営利団体として独立することが発表された(関連記事)。かねてからIBM社はSun社にEclipseに加わるようにラブコールを送っていたが,カンファレンス開催の数日前,Sun社はEclipseに書簡を送り,Eclipseに加わらないことを正式に告げた。

 Sun社にもIDEのオープン・ソース・プロジェクト「NetBeans」があり,Eclipseに参加することはそれと矛盾するという(米CNET News.comの記事)。またSun社は,今年1月にJava開発ツールの業界団体「Java Tools Community(JTC)」を結成している(関連記事)。

 このJTCの参加企業は,米BEA Systems、米Oracle,米Compuware,ドイツSAP、米SAS Institute(SAS)などで,IBM社や米Borlandは入っていない。一方,Eclipseの参加・協力企業にはBorland社,米HP(Hewlett-Packard),米Intel,米MontaVista Softwareなどがある。

 どうやらJavaのソフトウエア開発ツールを巡って,IBM陣営とSun陣営という構図が生まれ,両者が競っているようである。今回は両者の争点について考えてみたい。

■根っこはWebSphere Studioと同じ

 まず,Eclipseについて簡単におさらいをしておきたい。Eclipseは,もともとはIBM社が自社のアプリケーション・サーバー用に開発したIDEだった。現在IBM社には,「WebSphere Studio」という有償のIDE製品があるが,IBM社はこのIDEのコア部分(正確にはワーク・ベンチ部分)を開放した。これをもとに同プロジェクトが開発を続け,発展してきたのが,現在のEclipseである。

 Eclipseの最大の特徴は,各種の機能拡張がプラグインによって実現されるということ。すでに500近いプラグインが公開され,Eclipseの開発環境としての優位性を示している。Eclipseは,JavaのIDEとして使われることが最も多いが,Java以外の言語でプログラミングしたい場合は,その言語のプラグインを導入すればよい。また標準ではGUI構築ツールが備わっていないが,これもプラグインで提供されている。

 つまり,EclipseとWebSphere Studioの基盤は同じ。IBM社はこの基盤をオープン・ソース・プロジェクトに開放し,ツール開発を促進している。IBM社はこれに各種のプラグインを加えたものを,有償製品のWebSphere Studioとして提供しているというわけだ(関連記事)。

■独り立ちさせたIBMの親心

 今回IBM社が,Eclipseを非営利団体として独立させたのは,IBM色を弱めたかったからだと言われている。Infoworld誌の記事の中で,調査会社Red Monk社のアナリストStephen O'Grady氏は「EclipseはIBM社の支配力が強いゆえに,興味を持ちながらも敬遠している企業が多くある」と述べている(掲載記事)。

 それもそのはず,IBM社はこれまで,Eclipseの筆頭資金提供者でもあったからだ。しかし,この独立を機に今後は,同社資金の割合を全体の8分の1以下にまで減らす。その代わり,参加メンバーの各社からそれぞれ年間5000ドル~25万ドルの資金を集める。そうした企業からこれまで以上に開発資源を提供してもらうようにするという。またこれまで,エグゼクティブ・ディレクタを務めていたIBM社のSkip McGaughey氏は退く。

 これらの施策によって,多くの企業に参加してもらう(IBM社に競合する企業も含めて)。それが今回の独立の狙いである。そうした企業の中にはSun社も入っている。IBM社は米InfoWorld誌の質問に答えて,「Sun社をEclipseに迎え入れることを歓迎する」とラブコールを送ったという(掲載記事)。「Eclipseのプラグイン開発という形でSun社はEclipseに貢献できる」と述べたという報道もある(掲載記事)。

■「EclipseこそJavaコミュニティに入るべき」

 そのSun社はというと,これまでEclipseへの参加をほのめかしていたものの,さまざまな条件面でまだ折り合いが付いていない。同社は,これまでEclipseとIBM社の緊密な関係を懸念していた。今回のEclipseの独立でそうしたことが払しょくされる可能性もあるが,実はSun社にはもっと大きな懸念がある。

 Sun社は,Eclipse参加拒否の意志を示した書簡の中で,Java開発ツール業界における「統一」を呼びかけている。この統一の対象となるものの1つが,Eclipseの特徴の1つであるプラグインである。EclipseのプラグインとNetBeansなど他のJava IDEのプラグインには互換性がない。「1つのJava」を目指すSun社としては,Javaで作られたIDEのプラグイン仕様も1つにしたい。

 そのため,Sun社がEclipseに参加するのではなく,むしろEclipseがJCP(Java Community Process)やJTCに参加すべきと考えている。Eclipseがプラグインの互換性に貢献すべきと主張しているのだ。もっとも,Sun社の本音はEclipseの500近いプラグインをNetBeansで使えるようになることだろう。

 Sun社にとっては,Eclipseのもう1つの特徴である「SWT」もやっかいものである。SWTとは,Eclipseで使われているGUIコンポーネント。「Sun ONE Studio」や「JBuilder」といったJava対応IDEの多くは「Swing」と呼ぶ共通のGUIコンポーネントを使っている。このSwingにより,各プログラムは異なるOS上で実行されても,共通の外観(ルック&フィール)を保てる。

 これに対して,EclipseのSWTではプログラムが実行される,それぞれのOSのGUI機能を利用する。Eclipseで開発したプログラムは,実行時のOSによってルック&フィールが違ってくるのだ。OSのGUI機能を使うためSwingよりも高速に描画でき,これがEclipseを使う開発者を増やす大きな要因になった。しかし,こうしたEclipseのアプローチは,Sun社の「Java標準」あるいは「1つのJava」の思想とは相容れない。

 Sun社はEclipseへあてた書簡の中で次のように述べている。「“互換性”という言葉を独自の解釈で定義せず,業界の主要企業と協調し,力を統合し,真の互換性を追求すべきだ」(掲載記事

■「MS独自の世界よりはまし」とSun

 Eclipseは今,その認知度が高まり,利用する開発者の数も増えている。団体も大きな組織再編を行った。これがうまく成功すれば求心力も増していくことだろう。Sun社としては,そんな状況だからこそ,Java標準を守らなければならない,ということなのだろう。

 そうした状況のSun社だが,米Microsoftを引き合いに出しながら,やや楽観的な表情も見せている。Javaの世界は米Microsoftの世界よりも健全と主張しているのだ。

 Sun社のJava tools and development部門CTOのJames Gosling氏はInfoWorld誌の記事の中で次のように述べている。「Javaではこれから標準化に向けた統合が必要。しかし各ベンダーがそれぞれの技術を開発して,後に互換性について協議する方が,1つのベンダーがすべて自分でやってしまうより良い。Javaの世界では最終的に,より良い技術による,より良い標準が生まれる」(掲載記事)――

 「1つのベンダー」とはMicrosoft社を指すのは明らかだ。その技術とは「.NET Framework」のことを言っている。Windows以外のOSでも.NET Frameworkを実装すれば,共通のプログラムが動くようになる。これはまさにJavaのライバル。こちらこそSun社の驚異になるのだろう。

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