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 日本では大型連休中の5月4日,米Red Hatが「クライアント戦略」を発表した。その第1弾となるのがデスクトップ用Linuxディストリビューション「Red Hat Desktop」という。Red Hat社の動向に注意を払っている方なら,この報道を見て「おや?」と思われたことだろう。

 同社は,昨年「Red Hat Linux」の開発を中止する一方で「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」を前面に押し出し,企業向けサーバー市場に主軸を移しているはずだ(関連記事)。その同社が,再びデスクトップ製品を提供するというのだから疑問に思って当然だろう。Red Hat社の戦略は方向転換したのだろうか。今回はRed Hat Desktopを中心とした同社の戦略を探る。

■3種類のサブスクリプション形式を用意

 Red Hat社によれば,このRed Hat Desktopは5月半ば過ぎに利用可能になる。つまり現時点ではまだリリースされていない。そこで今回は,同社のWebサイトを見ながらレポートする。

 Red Hat Desktopは,合計3つの製品を用意する。「Proxy Starter Pack」「Satellite Starter Pack」「Extension Pack」だ。RHEL同様,いずれも年間サブスクリプション(購読料)形式で提供する。Proxy Starter Packは10ユーザーで2500ドル/年,Satellite Starter Packは50ユーザーで1万3500ドル/年,Extension Packは50ユーザーで3500ドル/年となる。

 クライアント・ソフトに加えて,Proxy Starter Pack,Satellite Starter Packには「RHEL AS」のPremium版と,それぞれに「Proxy Server」「Satellite Server」が付く。Extension Packは直訳すると「拡張パック」で一見,Proxy Starter Pack/Satellite Starter Packに追加する形でしか購入できないとも思えるのだが,Webサイトをよく見てみると,「Proxy ServerまたはSatellite Serverをすでに導入済み,あるいは必要としないお客様向け」とある。つまり,クライアント・ソフトだけを大量に購入する場合はExtension Packを用いる。

 そしてこの場合価格は最も安くなり,1ユーザー当たり年間70ドルとなる。Red Hat社CEOのMatthew Szulik氏の言葉を借りれば,「マシン1台当たり月額約5ドルで,Microsoft社の製品に比べ,管理コストが安く,より安全」(同氏)となる(米Washingtonpost.comに掲載の記事)。

■オフィス・スイートも標準添付

 Red Hat Desktopはいずれも,メール・クライアントの「Evolution」,オフィス・スイートの「OpenOffice.org 1.1」,Webブラウザ「Mozilla」,インスタント・メッセージャ「GAIM」などが付く。また,Red Hat社は,米Adobe Systems,米Macromedia,米Real Networksとの提携も明らかにしており,これにより,「Acrobat Reader」「Flash」のプラグインや「RealPlayer」なども提供される。

 形態が年間サブスクリプションということ,対象を10ユーザーや50ユーザーとしていることを考えると,Red Hat社の狙いが明確に分かる。同社はコンシューマ向けのデスクトップLinux市場に戻ってきたわけではないということだ。つまり,企業市場向けという位置づけはRHELのそれとまったく同じである。

 またWebブラウザやメール・ソフトに加え,オフィス・スイート製品も提供するところも見ると,米Sun Microsystemsの「Java Desktop System」と同じような手法ということが分かる。ちなみにSun社のJava Desktop Systemは「SUSE Linux」をベースとしたディストリビューションで,年間サブスクリプション料金は100ドル(シングル・ユーザー料金)。6月2日まではキャンペーン価格で同50ドルで提供している(関連記事)。

■セキュリティ/管理機能が“ウリ”

 Red Hat Desktopの発表時に,Red Hat社が強調していたのが安全性である。Red Hat Desktopのセキュリティ機能の中核をなすのが,前述のProxy ServerとSatellite Serverである。これは同社の「Red Hat Network(RHN)」を利用する際に,セキュリティ機能や管理機能を向上させるサーバー製品。

 RHNとは,Red Hat社が提供するシステム管理用のネットワーク・サービスである。ファイアウオールを介してRHNサーバーにアクセスすることで,ソフトのアップデートや管理などが行える。これには次の3つの手法がある。

 まず,「Hosted」と呼ばれる通常の手法がある。これは各マシンが個々にインターネットを経由してRHNサーバーにアクセスし,同サーバーにある登録情報に従ってダウンロードを行うというもの。一番安価なExtension Packがこれを利用する。

 次はProxy Serverパックでとる方法。これはプロキシ・サーバーがRHNサーバーからアップデート用コンポーネントをダウンロードし,各マシンに配布するというもの。つまり,各マシンが個々に直接インターネットを経由してRHNにアクセスしない。またWeb用のプロキシ・サーバーのようにコンテンツをキャッシュしているので,ネットワーク帯域を節約できるというメリットもある。

 3つ目は,Satellite Serverパックでとる方法。これは,アップデート用コンポーネントのほかに,システム情報などを管理するデータベースもローカルに構築できるというもの。大規模にRHELを配備していて,すべてのシステム・データをローカルに置きたいなど,セキュリティ・ポリシーを厳しくしたい場合に向いている(Red Hat社の資料)。

 このProxy ServerとSatellite Serverはいずれも,RHELとは別売りで提供している商品である。価格は米国サイトには出ていなかったが,日本法人サイトの情報では,前者が年間150万円,後者が同300万円と明記されている(レッドハットの資料)。

 なお,米CRNに掲載の記事によると,Red Hat Desktopは,RHEL 3のWS版のコードをもとに開発されたという。そしてRed Hat Desktopのバージョン番号はRHELと同じになる。今回リリースするのは「Red Hat Desktop 3」で,2005年初めには「RHEL 4」とともに「Red Hat Desktop 4」がリリースされると見込まれている。

 そして,Red Hat社はこのRHEL 4と,まもなくリリースする「Fedora Core 2」でSELinux(Security Enhanced Linux)への対応を表明している。また同社は,RHEL 3ですでに各種のセキュリティ認定を取得したことも明らかにしている。企業向け製品としてセキュリティに対する積極的な取り組みをアピールしているというわけだ(関連記事

■クライアント戦略はRHEL戦略の一環

 Red Hat社は,米Wind Riverとの提携も明らかにしている。Wind River社は組み込み機器向けソフトウエアの統合開発プラットフォームを手がける会社。Red Hat社は同社との提携により,シン・クライアント環境の分野に進出しようとしているという。これは,コール・センター向けのクライアント機器や,携帯端末から企業のRHELサーバーにアクセスできるようにするというもの。そのためのソフトウエア開発環境をWind River社と協力して提供しようというわけだ(Red Hat社の発表資料)。

 実はこれもRed Hat社のクライアント戦略という。そして,やはりその中心にあるのはRHELに変わりはない。こうしてみると,Red Hat社のクライアント戦略とは何かが見えてくる。つまり,Red Hat社はRHELを核にして,その市場を広げようとしているのだ。その一環としてRed Hat Desktopがあり,シン・クライアント環境がある。RHELを中心に,これまで成功したビジネス手法をさらに推し進めていくというのが同社の考えのようである。

 ただし,今回のRed Hat Desktopについては,今後の交渉力が鍵となりそうだ。その理由は,Red Hat社がまだパソコン・メーカーと正式な契約を結んでいないということにある(CNET.News.comの掲載記事)。

 例えば,Novell社は米HP(Hewlett-Packard)とSUSE Linuxのプリ・インストールに関して提携している。LinuxディストリビューションではトップのRed Hat社だが,企業向けデスクトップ分野では後発である。今後こうした契約を取り付けない限り,ライバルをしのぐのは難しいというのが大方の見方のようだ。しかし,同記事の中でCEOのMatthew Szulik氏は楽観的である。「トップPCメーカーとの契約は実現する」(同氏)という。こればかりは何とも言えない。これからリリースされるRed Hat Desktopを市場がどう評価するか次第だろう。

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