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 サンフランシスコで開幕したMACWORLD EXPOで,米Apple Computerが各種新製品を発表した。ハードウエアにソフトウエアといろいろあるが,中でも注目を集めているのが,小型のデスクトップ・パソコン「Mac mini」と,フラッシュメモリ版iPodの「iPod shuffle」。価格は,前者が499ドルから,後者は99ドルからと,これまでの同社製品で最も安く設定した(関連記事)。

 Apple社の製品といえば,デザインはよいが,割高感のある高級ブランド・イメージ。その同社がこうした廉価製品を初めて市場投入する。その狙いはどこにあるのだろうか。今回は同社の新たな製品戦略について考えてみる。

■狙いはWindowsユーザー

 新製品については米メディアでもさっそく取り上げている。多く見られる論調は,「Apple,低価格PC市場にシフト」「Windowsに席巻されたパソコン市場に初の殴り込み」(New York Timesの記事)というもの。Apple社は以前からWindowsからの移行を促すキャンペーンを展開しているので,こうした報道が多いのもうなずける。しかし今回の新製品を詳しく見ると,これまでとは少し違ったアプローチが見えてくる。

 それを表しているのが,Mac miniにディスプレイ/キーボード/マウスが付属しないということ(注1)。代わりにWindows用キーボードを使えるようにし,マウスもWindows用のホイール付き2ボタン・マウスをUSBポートに差し込むだけと容易にした。またKVMスイッチの利用も可能となる。Apple社のWebページを見ると,「PCワークステーション用のディスプレイ/キーボード/マウスをKVMスイッチを使ってMac miniと共用し,切り替えて使ってください」と説明している(Apple社のWebページ)。周辺機器はすでにあるものを使ってもらって,その分価格を抑える。Windowsユーザーに対しては,いくら乗り換えキャンペーンを行っても効果が上がらない。ここは,Mac導入の垣根を低くし,まずは2台目のパソコンとして使ってもらおう。そんな戦略がうかがえる。

注1:Steve Jobs氏の説明によれば,Mac miniは「BYODKM」のパソコンなのだという。これは「Bring your own display, keyboard and mouse」の頭文字(Economist.comの記事)。

 筐体を小さくしたことも新戦略に一役買っている。プログラマに向けた同社の説明によれば,Mac miniをPCワークステーションの上に載せれば場所をとらないし,Mac OS Xには,Mac, UNIX,Java用の無料の開発ツールが付いてくる。Mac miniは自作のMac版アプリケーションのテスト環境として最適という(Apple社のWebページ)。

 プログラマ以外の人にも訴求力はある。例えば筆者の周りには自宅サーバーとして使うつもりという人が多い。サーバー用途であれば,ディスプレイ/キーボード/マウスの付属しない安価な製品が都合がよい。またApple社が勧めるようにエンターテインメントPCとしても利用できるだろう。小さいので居間にあってもよい。テレビとはS-Videoアダプタでつないでもよいが,昨今の薄型テレビはPC入力が付いている。DVI端子でないテレビでも付属のDVI-VGAアダプタを使って接続できる。こうしてiPhotoにある写真を大きな画面で映すのもよいし,オンラインで映画やテレビドラマのストリーミングを楽しむのもよいだろう。すでに多くの人が同じことを考えているようで,同社のオンライン・ストアは盛況のようだ(CNET News.comの記事)。

■iPod shuffleはツーカーSになれるか?

 iPod shuffleの方は,Mac mini以上に驚く価格設定だ。512Mバイトのモデルが99ドル,1Gバイトのモデルは149ドルで,日本ではそれぞれ,1万980円と1万6980円で販売される。現在のフラッシュメモリ型音楽プレーヤの市場価格をみると,例えば日本では128MB品が1万円,512MBでは2万円,1GBでは3万7000円くらいが相場となっている。つまり,iPod shuffleは,市場価格の半値以下ということになる。もちろん液晶画面の有無など条件が異なるから単純には比べられないし,USBメモリとして考えれば安くもないという意見もある(注2)

注2:12日夜のNHKのニュースではiPod shuffleを,USBメモリの1種というとらえ方で報じていてた。「USBメモリで音楽が聴けるようになった」という報道である。筆者にはこうした発想がなかったので大変興味深かった。

 その一方で,米メディアを見ると好意的な見解が少なくない。例えばWall Street Journalの記事では,「曲目を表示する画面はないものの,小さいながら音質は良く,この価格帯なら子供などの新規顧客を獲得できるだろう」と報じている(Wall Street Journalの記事)。

 実はこの記事を見て思うことがある。ツーカーグループが昨年発売し,今ヒットしている携帯端末「ツーカーS」と共通点があるように思えるのだ。同端末は昔の「黒電話」をコンセプトに開発されたシンプル携帯。徹底的に用途を絞り,大型のボタンやスライド式スイッチを採用した。電話機本来の,受話器をあげてダイヤルし,話し終わったら受話器を下げるという一連の動作と同様の感覚で使えることから高齢者を中心に売れている。NTTドコモ,KDDI(au)といった大手の死角を突いた商品で,これが奏功して同社の契約純増数は第3位に躍進した(関連記事)。実は67歳になる筆者の母も今週からこの端末を使い始めている。外では公衆電話しか利用しなかった母にも,どうやら異変が起きているようだ。

 話を戻そう。iPod shuffleは液晶画面を持たない。容量が最大で1Gバイトだから,iPodやiPod miniのように高音質の曲が何千曲も入らない。転送する楽曲の選択は任意でも可能だが,おまかせするのが基本だ。曲目は表示せず,ボタン類もシンプルなため,楽曲の選択はスキップで行うしかない。こう考えると欠点だらけなのだが,そもそもシャッフル再生して,曲順の意外性を楽しむというのがこの機械のコンセプト。だから製品名も“シャッフル”。そう考えると,iPod shuffleの特徴が見えてくる。むしろ機能を絞り込んで簡単にし,楽曲のメンテナンス作業からもユーザーを解放した。そんな新発想の製品なのだと思う。

■iPod絶好調の今がチャンス

 こうして見ると,Mac miniとiPod shuffleともに共通するのは,新しいユーザーや新規市場の創出を狙っているということ。これまでと違うコンセプトで新しいニーズを生み,しかも既存の顧客は減らさない。そんな同社の戦略が見えてくる。

 同社が米国時間1月12日に発表した10~12月期の決算は,利益が2億9500万ドルで1年前に比べ4倍以上となった。売上高は34億9000万ドルで1年前に比べ74%増。iPodも好調で,458万台が売れた。Macintoshコンピュータの出荷台数が1年前に比べ26%増(CPUベース)だったのに対し,iPodの方は,同6倍以上となっている(発表資料)。

 iPod,恐るべしである。そのiPodを購入したWindowsユーザーがMacに興味を抱くようになっているという。同社には今,そうした人々を取り込む絶好のチャンスが到来しているのかも知れない。また今回のiPod shuffleがヒットすれば,オンライン音楽販売の伸びも予想される。今年は同社にとって大躍進の年ではないか。そんな気がしている。

 余談だが,筆者の母の最近のお気に入りアーティストは,天童よしみ,氷川きよし,そしてマツケン。たまにコンサートにも足を運んで楽しんでいる。そんな母にiPod shuffleをプレゼントしたら案外喜ぶのかも知れない。Apple社の新規顧客とはこういう人たちなのかと思うと不思議な気持ちである。何年か前にはまったく考えられなかった。

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