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 これまで「次期OSのLonghornまではIE(Internet Explorer)新版を提供する計画はない」としてきた米Microsoftが突如方針を変えた。2月15日,サンフランシスコで開催されたRSA Conference 2005の基調講演で同社会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのBill Gates氏が,IE 7.0について明らかにしたのだ(関連記事)。今年の夏にもベータ版をリリースするという。

 ところが,Microsoft社はIE 7についてあまり多くの情報を出していない。今は,どのような形で登場してくるのか具体的なことは分からないといった状況だ。今回はMicrosoft社開発者向けサイトのブログや米メディアなど,ユーザーやアナリストの意見/観測をみながらIE 7について考えてみたい。

■なぜ今なのか?

 Microsoft社が当日出した発表資料によると,新版では,フィッシングや悪意のあるソフトウエア,スパイウエアなどからの防御能力を備えており,新しいレベルのセキュリティを提供するという。Gates氏はこの基調講演で,昨年リリースしたWindows XP SP2の安全性について強調しており,IE 7は同OSの技術をベースにしてセキュリティを確保することになるとしている。この夏にリリースするベータ版もXP SP2に向けるものだ。

 Gates氏の発表を受け,同社開発者向けサイトMSDN.comのIE関連ブログ「IEBlog」で,IEプロダクト・マネージャのDean Hachamovitch氏が説明をしたが,こちらも詳細情報はなかった。

 同氏は,なぜIEの新版をリリースするのかということについて,「顧客やアナリスト,ビジネス・パートナーの意見を聞いた結果」と説明,今回の発表は「Microsoftが,意見を聞く企業ということを顧客に向けて明示したもの」とした。また,なぜこの時期なのか,ということについては,「顧客やパートナーからのMicrosoftの計画について聞かせてほしいという要望が高まり,それにタイムリーに答えるため」(同氏)とした。

■ユーザーの不満が爆発

 ユーザーがこの説明を不十分に思ったのか,同ブログには大変厳しいコメント寄せられたとのことだ。Hachamovitch氏はそれらコメントを次の5つにまとめている。

 1. IE 6以降,Microsoftはいったい何をしてたんだ?
 2. IE 7のWindows 2000版を作ることはそんなに難しいのか?
 3. 標準,標準,標準...何か言ったら!(say something!)
 4. IE 7の新機能は? 少なくともいつになれば分かるのか?
 5. Microsoftの製品は基本的にセキュアでない。そのことを知らないのか?

 ユーザーの長年の不満が爆発したという感じである。

2001年8月 IE 6
2002年5月 Mozilla 1.0
2002年8月 Netscape 7.0
2002年9月 IE 6 SP1
2003年1月 Opera 7
2003年6月 Safari 1.0
Microsoft,IE単体提供の計画はないと発表
2003年7月 Mozilla 1.4
Netscape 7.1
2003年10月 Mozilla 1.5
2004年5月 Opera 7.50
2004年6月 Mozilla 1.7
2004年9月 IE 6 SP2
Mozilla 1.7.3
Firefox 1.0 PR
2004年11月 Firefox 1.0
2004年12月 Mozilla 1.7.5
Opera新版のベータ(名称未定)
2005年1月 Mozilla 1.8の最終アルファ版
2005年2月 AOL Browserベータ版
Firefoxのダウンロード件数が2500万
2005年 Safari RSS,05年前半に公開へ
Firefox 1.1,6月に公開へ
IE 7ベータ,夏に公開へ
2006年 Longhornリリース
 IE 6が公開されたのは2001年の8月。その後,SP1,SP2と2度の更新はあったものの,この3年半で大きな変更はなかった。またIE 6 SP1ではWindows 2000など,XP以外のOSのユーザーにも提供されたが,IE 6 SP2はXPのSP2に同梱される形でしか提供されなかった。米メディアの報道によれば,Windowsユーザーのうち,XP SP2を使っているのは半数以下。つまり,Microsoft社はIE 6 SP2で世界中の大半のユーザーを見捨ててしまった。そして今度のIE 7もそうなるのではないかと言われている(InformationWeekの記事)。

 残念ながらこれは現実になる可能性がある。現状ではWindows 2000版のIE 7を作るのは困難だからだ。その理由は,Microsoft社がこれまで進めてきたOS/IEの統合戦略にある。Windows IT ProのPaul Thurrott氏が過去のIT Pro記事で次のように述べている。

 「昔のOSを新しいセキュリティ機能付きに改造することは,ほぼ不可能なのが現実である。(中略)MicrosoftはIEのコンポーネントをいろいろなバージョンのWindowsに違ったやり方で深く埋め込んだ。その結果,IEにはよく似てはいるが互換性がほとんどない複数のコードがある。そのためWindows XP SP2のIEに組み込んだセキュリティ機能をほかのバージョンのWindowsに組み込むことはたやすい仕事ではない」(掲載記事

 Hachamovitch氏はブログの中で,「夏にリリースするバージョンは,XP SP2“など”の開発で得たものをベースにする」(同氏)とし,XP SP2以外のOSのサポートについては明言を避けている。「今はXP SP2に注力している。Windows 2000については,(同OSの)主要顧客の意見を積極的に聞いていく。彼らが何を望んでいるのかを聞いて,それとエンジニアリングや物理的なことを比較検討する。今言えるのはそれだけだ」(同氏)

 Windows 2000版IE 7の開発が現時点では大変困難で,また同社にとってその価値があるのかは現時点で不明。その一方でユーザーの不満も解消したい。Hachamovitch氏の説明はMicrosoft社が今,あれこれ考えあぐねていることを示しているのかも知れない。

■OSとの統合戦略が裏目に?

 Microsoft社は今回,まずなによりもセキュリティを強化するとしている。機能の拡張や互換性の確保よりも,セキュリティを優先するという。これは当然のことだろう。しかし,Microsoft社への不満はこれだけではない。XHTML,XML,CSS,PNGといった各種Web標準への対応の遅さ(CNET News.comの記事),そしてなによりも進化しないIEそのものだ。メジャー・バージョンアップが3年以上ないという状況で,ほかのブラウザはどんどん新機能を取り込み使い勝手をよくしている。IEが見劣りするのは当然と言える。今回の5つの不満は,ユーザーが長年抱えていた思いが一気に吹き出したという格好だろう。

 米Jupiter Researchのアナリストによると,IE 7にはタブ・ブラウジングの機能が備わるという。しかしRSSリーダーの機能は搭載されない模様。RSSリーダーがLonghornかOutlookに搭載される可能性があるためという(InformationWeekの記事)。ブラウザに新機能を1つ搭載するにも,OSとの連携を綿密に考慮しなければならない。OSとブラウザの統合戦略はIEのシェア拡大に貢献したが,今となってはそれが足かせになっている感がある。IEを長年放置してきたつけも大きい。これらの解決策を見いだし,ユーザーの要望に迅速に応えられるようにする。それがMicrosoft社の課題だろう。

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