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 今回からLinuxウォッチを執筆することになった。筆者はオープンソース関連のセミナーやイベントを手がけており,仕事柄様々な人にお目にかかる機会が多い。そこで日々見聞きしたことから興味深いトピックを取り上げてお伝えしていきたいと考えている。

 今回は,最近人気が高まってきている1CD Linuxについてそのメリットと可能性を紹介する。

CD-ROM1枚に各種アプリケーション,インストール不要

 このところ,1CD Linuxの製品化の動きや利用事例が増えてきている。

 1CD Linuxとは,1枚のCDにLinuxカーネルやライブラリ,各種アプリケーションが収められており,CDブートで起動すること使用できるLinux OSを指す。

写真1●KNOPPIX日本語版
写真2●Berry Linux日本語版
写真3●GNOPPIX
 「1CD-Linux」というそのものずばりの名前の1CD Linuxも存在するが,現在最も人気があるのは「KNOPPIX」だろう(写真1[拡大表示])。ドイツのKlaus Knopper氏がDebian GNU/Linuxをベースに開発した1CD Linuxで,日本では独立行政法人 産業技術総合研究所の須崎 有康氏が中心となり日本語化やカスタマイズなどが行われている。

 Red Hat Linuxをベースにした1CD Linuxとして「Berry Linux」がある(写真2[拡大表示])。日本語化も行われているので,RPM環境に慣れているのであればこちらを利用する事も可能だろう。

 KNOPPIXはデスクトップ環境にKDEを採用しているが,デスクトップ環境にGNOMEを採用した1CD Linuxとして「GNOPPIX」がある(写真3[拡大表示])。こちらは残念ながら日本語化が行われていないので日本語を利用できない状態であり,日本語化が期待される。

 ほかには教育用コンテンツを組み込んだ「KNOPPIX Edu」など,教育分野での利用研究が現在は活発となっている。

 どの1CD LinuxもISOイメージでダウンロードできるので,CD作成ツールを使ってダウンロードしたイメージをCD-Rに焼けばすぐに使い始めることができる。

 コンピュータやネットワークの学習用プラットホームとしての本格的な利用も始まっている。日本電子専門学校では,プログラミングの実習用端末としてKNOPPIXを利用したディスクレス端末を採用している(関連記事)。

 商用製品としてはライブドアが販売する「Lindows CD」がある。Lindows OSをベースにした1CD Linuxで,Webベースのネットワーク・ストレージ・サービスにデータを保存できるなどのサービスがセットになっている。日本大学理工学部 船橋図書館では,蔵書検索用端末としてLindowsCD smileを使用したパソコン10台を導入している。

ブラウザやオフィス・ソフトなど一通りの機能を収録

 1CD Linuxのようなアイデア自体は以前からあった。昔を振り返ってみると,1CD Linuxに類似するものとしてシステム・レスキュー用のCD-ROMというものが存在していた。CDに最低限の起動用Linuxシステムを収めてあり,起動するとコマンドライン・シェルが動作して,障害が発生したシステムを回復するのための操作を行うことができるというものだ。

 こういったかつての1CD Linuxは最低限のアプリケーションだけを収めたもので,操作もコマンド・ラインから行うものがほとんどだった。

 しかし,現在の1CD LinuxはGUIとしてX Windowが起動し,エンドユーザーが十分に通常の用途で利用できるデスクトップ環境を備えるようになった。このことが現在の1CD Linux人気の源となっている。

 ブラウザのMozillaやオフィス・スイートのOpenOffice.orgなど,エンドユーザーが使いたいソフトがすぐに使える。作成したデータなどはハード・ディスクやフロッピー・ディスク,USBメモリーなどに保存しておくことができるので,継続的な利用も可能だ。

 通常のLinuxにない1CD Linuxのメリットはその手軽さである。インストールが不要なので,気軽に動かしてみることができる。そのため,Linuxの学習用に使いたいというニーズが出てきている。

 Linuxのインストール自体はかなり簡単になったとはいえ,使用できるマシンが1台しかない場合など,デュアル・ブートでWindowsと共存させようとなると途端に敷居が高くなる。しかし,1CD LinuxであればインストールなしでGUIまで自動的に起動してくれる。Linuxがどんなものか色々と試してみたり,コマンドラインでの操作を勉強したりと,Linux入門者がやりたいことは一通りできる。

クライアント管理コストを削減

 前述のように,日本電子専門学校では,プログラミング実習クライアントととしてKNOPPIXを利用している。CDメディアを利用している特性から個々の端末のシステム管理をする必要がないため,管理コストが削減できるという。

 教育分野では学生・生徒に利用させたいソフトがある程度決まっているため,ソフトを追加インストールできる必要はほとんどない。逆に学生・生徒がシステムを変更できない方が,一律の環境を提供できるので授業の妨げにならない。このような条件がある教育分野は,1CD Linuxの適用に向いている。

 1CD Linuxの課題として,物理的なCD-ROMドライブの使用とその耐久性があげられる。つまり,CD-ROMドライブは長時間使用していると意外に壊れやすい。このことが,管理コスト増につながる恐れもある。

 この問題に対して,例えば独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が実施している未踏ソフトウエア創造事業に採択された「KNOPPIXホスティング環境」プロジェクト(開発者は産業技術総合研究所 須崎有康氏)では,ネットワークを経由したKNOPPIXの利用が研究開発されている。ほかにもUSBメモリーやCFカードからの起動なども研究されており,利用形態に関する研究開発が進むことで様々な状況での利用が可能となるだろう。

システム・ファイルやコンテンツが改ざんされない

 今後,1CD Linuxはどのように活用されていくのだろうか。前述したように,学校などの不特定多数の利用者をサポートするシステム環境では,TCO削減に繋がるとしてシステムの集中管理が行えるディスクレス端末の導入が積極的に検討されている。

 1CD Linuxはこのような要請に応えるものとして導入が進んでいく可能性がある。例えばライブドアは同社のLindows CDを公共・教育機関向けに無償で提供する「公共・教育機関向け無償提供プログラム」を実施している。この分野での可能性を見込んでのことだろう。

 一方サーバー利用では,CDから起動するだけでシステムが動作するメリットを活かした利用方法が考えられる。CDであるため,システム・ファイルやコンテンツが改ざんされない。このことは,セキュリティの観点から注目される。ただし外部からの攻撃に対して完全というわけではなく,実行中のプロセスに対する攻撃が行われる可能性がある点は,注意が必要だ。

 まだ運用ノウハウの蓄積がないため,本格的な利用は先になりそうだが,TCO削減が必要なネットワークサーバーの分野,例えばNAS(Network Attached Storage)などを実現するには有効なツールとなっていくと考えられる。

 1CD Linuxの分野は,ソースコードという「素材」をユーザーニーズに合わせて「調理済み」(平たく言えば「レンジでチンするだけ」の状態)にまで加工したことで,オープンソース・ソフトウエアをさらに普及させる手段となり得る可能性がある。まだまだ荒削りな部分もあるが,まずは気軽に1CD Linuxを試してみてはどうだろうか。

宮原 徹(Toru Miyahara)

インタビュー

産業技術総合研究所 主任研究員 須崎有康氏

 KNOPPIX日本語版の開発に携わっている産業技術総合研究所の須崎有康氏にメールでインタビューを行い,日本語化に関する苦労や今後の開発方針を聞いた。

――KNOPPIXの日本語化を始めたきっかけは。

 もともとOSのマイグレーション(OSを停止せず別のコンピュータに転送する技術)の研究を行っていました。この研究でデバイスの自動認識が必要になり,探していたところCDブータブルLinuxで行われていることを知りました。最初はKNOPPIXではなく,DemoLinuxというCDブータブルLinuxをメインに改良していました。この時期にKNOPPIXを知りました。

 たまたま,DemoLinux のメーリングリストである質問をしたところ,Knopperさんから返事があり,KNOPPIXを紹介されました。この時はすでにKNOPPIXの有用性を知ってましたので,リプライのついでに日本語化をしていいか尋ねたところ,快諾を得られたので日本語化を開始しました。

――日本語化を行っていて楽しいことは。

 色々な日本語ソフトの開発者やコミュニティと連携できることですね。最初のKNOPPIX日本語版を評価してもらったのも OpenOffice.org の日本語ユーザー・グループでした。日本語入力システムの Prime,Anthy,UIM の開発メンバーもKNOPPIXを通して知ることができました。つい先日もMozillaユーザーのイベントMozilla partyに呼ばれました。

 それまではフリー・ソフトを使う一方だったのですが,ユーザー・グループや開発者と交流することで色々刺激を受けられるのが楽しいです。逆にKNOPPIXに取り込まないといけないプレッシャもありますが。

――日本語化を行っていて苦労される点は。

 ライセンスです。私の所属している産総研が公的な機関であるため,ライセンス管理は厳密に行う必要があります。昨年の東風フォントのライセンス問題の時には早急な対処を求められ,一時期公開を停止しました。

――どんなユーザーに使ってほしいですか。

 どなたでも。初心者向けと紹介されることが多いですが,アプリケーションを入れ換えれば専門的な方にも使えると思います。数学ソフトを集めた「数学版」は日本数学会で展示して好評を得ています。

――今後やってみたいことは。

 もともとの研究課題だったOSマイグレーションを深めたいと考えています。

 今,KNOPPIXはWindows上で稼働することができるようになっています。昨年IPAの未踏プロジェクトでKNOPPIXのホスティング環境の開発を行い,LinuxエミュレータのUserModeLinuxで動くKNOPPIXを作製しました。さらに UserModeLinuxがインストールしてあれば,KNOPPIXをダウンロードしなくても起動できる環境を構築しました。これをWindowsで動くLinuxエミュレータのcoLinuxに展開したり,OSの実行途中のスナップショットを取れるScrapbook UMLに対応させたりしたいと考えています。


■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと 代表取締役社長/CEO。1994年~99年,日本オラクル株式会社でデータベース製品およびインターネット製品マーケティングに従事。特に,日本オラクルのWebサイト立ち上げ,および「Oracle 8 for Linux」のマーケティング活動にて活躍。2000年,株式会社デジタルデザイン東京支社支社長兼株式会社アクアリウムコンピューター代表取締役社長に就任。2001年,株式会社びぎねっとを設立し,現在に至る。1972年,神奈川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。Linuxやオープンソース・ソフトウエアのビジネス利用を目指したProject BLUEの設立をはじめ、様々なオープンソース・コミュニティの活動に従事している(関連記事)。