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 オープンソース・ソフトウエアは,企業の業務システムに着実に浸透しつつある。そのような動きを反映してか,これまでオープンソースを支えてきたコミュニティにも変化が現れている。

 “コアな趣味指向”のコミュニティから企業人を含む“多様性のある緩やかな”コミュニティへ,“ソフトウエアそのもの”を興味の対象とするコミュニティから“ソフトウエアを使い組み合わせて提供するソリューション”を指向するコミュニティへの変化だ。

PHPカンファレンス
 このような変化を,先日開催された「PHPカンファレンス」で強く感じた。筆者は「日本PHPユーザ会」の立ち上げに関わり,毎年夏にはPHPの最新情報を提供する「PHPカンファレンス」を開催したりしてきた。

 今年で5回目となるPHPカンファレンスには,関係者を驚かせる大きな変化が起こった。過去4回は約200名程度の参加者だったが,今回は参加者が爆発的に増え,会場の関係から400名弱の時点で締め切らざるを得なくなってしまった。さらに参加者の約7割が今回初めての参加だという。

 参加者の半数近くがPHP経験1年未満、経験3年未満のプログラマが3割で,まだ触ったことがないという参加者も1割強となっていた。またWebデザイナなど,プログラマ以外の参加もあった。

日本語化や情報交換,オープンソースを支えるコミュニティ活動

 日本語化やドキュメントの翻訳,情報交換など,今でもオープンソース・ソフトウエアはコミュニティによるボランタリな活動に支えられている。企業が自社製品をオープンソース化するケースも出てきたが,ボランタリな活動の果たす役割は依然として大きい。

 ここでいう「ボランタリ」というのは「無償」というよりは「自発的な」という意味が強い。これらの自発的なメンバーが集まって構成されるのがいわゆる「コミュニティ」「ユーザーグループ」だ。

 オープンソースのムーブメントの中で初期のころから現在まで大きな役割を果たしてきたのが,LinuxやBSD系OSなどのOSのユーザー会,「LUG(Linux User Group)」や「BUG(BSD User Group)」といったグループだ。これらのグループでは主眼がOSに置かれているものの,実際の利用では様々なアプリケーションを使用するので,そのカバーする範囲は多岐に渡っていた。そこで徐々にアプリケーション中心のコミュニティが様々な形で生まれてくることになる。私が主に参加していた「Project BLUE(Business Linux Users Encouragement)」なども,やや毛色は違うもののビジネス系Linuxユーザーコミュニティといえる。

 Webサーバーの「Apache」やWindows互換のファイルサーバー「Samba」,その他「PostgreSQL」や「MySQL」など現在でもメジャーなソフトウエアのコミュニティは,利用者が多かったこともあってかなり早い段階から形成されている。PHPなどのWebアプリ開発にかかわるソフトウエアは,インターネットの比較的緩やかにコミュニティが形成されてきている。

 そして最近では,システムを階層化した時にユーザーに最も接する部分でのコミュニティの形成が活発になっている。例えばオフィス製品の「OpenOffice.org」やWebコンテンツ系では「Zope」や「Plone」,「Wiki」や「XOOPS」といったオープンソース・ソフトウエアだ。これらのソフトウエアのユーザーからはOSの層は抽象化されていて見えないため,どのOSを使っているかはあまり関係がない。そのソフトウエアがオープンソースであるということよりも,自分のやりたいことができるという点に魅力を感じてユーザーとなることが多いようだ。

コアな技術者から企業人まで,多様で広がりのあるコミュニティへ

 かつてコミュニティを構成していたのは,技術者が中心だった。オープンソースによるビジネスが一般化する前だったこともあって,所属企業のビジネスに利用できるかどうかは直接的には関係ないことが多い,一種の技術的な趣味の領域でもあった。

 しかし,私自身がそうであったように,趣味で触っていたオープンソース・ソフトウエアをビジネスで利用する可能性が広がり,現在ではオープンソースに触れるのはビジネス的な要請というユーザーが増えて,コミュニティのメンバーとなっている。

 その間には,新しい市場形成をして初期導入を行うユーザーと,遅れてやってくるユーザーとの間の「カズム」(隔絶した溝)があった。しかし,ここに来てカズムを越えたところに来るオープンソースのコモディティ化が進んでいると感じられる。以前は密度の濃いコミュニティが構成されていたが,現在では比較的緩やかなコミュニティが形成されている。

 このような緩やかなコミュニティの構成メンバーは,多くの場合が企業人だ。場合によっては企業という法人そのものがメンバーとなる。あまりボランタリではなく,どちらかというと受身の姿勢で参加されることが多い。また,新たに参加される方も“お客さん”のように静かにしている方が多いようだ。

 しかし,能動的にコミュニティに参加することで得られるものはとても大きい。技術や知識,人的なネットワーク。そして何よりも「楽しい」。仕事上の立場を越えて様々な人と交流できるまたとない機会だ。ぜひ積極的に活動してほしい。

「ソフトウエア」コミュニティから「ソリューション」コミュニティへ

 コミュニティ参加者のニーズとして感じるのは「ソフトウエア」主体のコミュニティから「ソリューション」主体へのコミュニティが求められていることだ。

 ビジネスの潮流がハードウエア,ソフトウエアからサービスへと移行しているのと同様,コミュニティにも構成メンバーが直面している課題を様々な立場からの視点で相互扶助的に解決するソリューションが要求されている。

 別の言い方をすれば,現在のシステム構築では特定のソフトウエアだけ見るのではなく,いくつかのソフトウエアの組み合わせが要求される。そのため,今までの垂直的に対象物として捉えられるソフトウエアから,水平的なソリューションへと変化してきている。このようなソリューション志向を共有できる,特定のソフトウエア中心ではなく,いくつかのソフトウエアにまたがった横断的なコミュニティが新たに求められていると感じる。言わば,縦だったものを横にするような新しさが必要なのではないだろうか。

オープンソースカンファレンス2004
のホームページ
 そのような水平的な状況を作り出すために,様々なオープンソース・コミュニティが一堂に会する「オープンソースカンファレンス2004」(9月4日(土)に都内で開催)を企画した。OSからアプリケーションまで幅広いコミュニティが揃うことは今までにもあまり例がない。そこでどのような化学反応が起きるか実に楽しみだ。時間の許す方には,是非会場に足を運んで,雰囲気を肌で感じてほしい。

 今回だけでなく今後も継続的に,できれば日本各地で同様の催しを開催していく予定だ。参加者も,どんどんと新しいタイプの人に参加してもらい,企業や職種の枠を越えたコミュニティ活動の楽しさを味わってもらいたい。オープンソースのムーブメントはこれからまだまだから新しい領域へと広がっていく。こういったイベントが,そのためのきっかけとなればうれしい。


■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと 代表取締役社長/CEO。1994年~99年,日本オラクル株式会社でデータベース製品およびインターネット製品マーケティングに従事。特に,日本オラクルのWebサイト立ち上げ,および「Oracle 8 for Linux」のマーケティング活動にて活躍。2000年,株式会社デジタルデザイン東京支社支社長兼株式会社アクアリウムコンピューター代表取締役社長に就任。2001年,株式会社びぎねっとを設立し,現在に至る。1972年,神奈川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。Linuxやオープンソース・ソフトウエアのビジネス利用を目指したProject BLUEの設立をはじめ、様々なオープンソース・コミュニティの活動に従事している(関連記事)。