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 802.11g対応チップにまた新顔が加わった。米Atheros Communications社である。アイ・オー・データ機器(以下,I・Oデータ)がAtheros製のチップを搭載したルーター機能付きアクセスポイントと無線LANカードを,2003年4月末に出荷した。ルーター機能付きアクセスポイントは11gだけに対応するのに対し,無線LANカードは11a/gに対応する(11aとgは排他利用)。

 Atherosのチップは,米Broadcom社,米Intersil社に次いで11gに対応する3番目の製品である。これにより,当初より11gにチップを投入すると思われていた3社がそろったことになる。

 早速,実効速度を測ってみた。実験はAtheros(I・Oデータ)とBroadcom(メルコ)のアクセスポイントと無線LANカードを用意し,それぞれの組み合わせで計測してみた。アクセスポイントのイーサネット・ポートにパソコンを1台接続し,無線LANカードを挿したパソコンとの間での実効速度を測った。

図1●AtherosチップとBroadcomチップを搭載した製品の同一/異機種間接続の結果

 結果は,図1[拡大表示]のようになった。最も高速なのはBroadcom同士の組み合わせ,最も低速なのはAtheros同士の組み合わせだった。BroadcomとAtherosの組み合わせはちょうどBroadcom同士,Atheros同士の間ぐらいになっている。

 この原因として「11gは最大で54Mビット/秒で変調するが,実際にはすべての時間で54Mビット/秒で変調しているわけではない。細かく調べると48Mビット/秒と54Mビット/秒を行ったり来たりしていることがよくある」(I・Oデータ ネットワークソリューション事業部ソリューション開発部ネットワークグループの西島久尚セクションマネージャー)ということが考えられる。つまり,Atherosのチップでは常に54Mビット/秒で変調しているわけではなく,低い速度で変調される割合が大きいのだ。一方,Broadcomは安定して54Mビット/秒で変調していると考えられる。

 図1上の11g onlyモードと図1下の11b/gモードはアクセスポイントの設定である。前者は11bの端末の接続要求を受け付けないモード,後者が11b端末の接続要求を受け付けるモードである。

 11b/gモードにはさらに二つの状態があり,11b端末がアクセスポイントにリンクを確立していない場合と,している場合とに分かれる。

 前者は11g onlyモードと同様に動作する。図1下がこのモードの結果だ。このため,図1の上のグラフと下のグラフにほとんど差はない。

b/g混在モードで差が出る理由

 後者,すなわち,11b/gモードで11bがリンクを確立している場合(b/g混在モード)には,11bと同じ送信タイミングで動作するようになる。このため,速度が遅くなる。

 では実際の測定結果を見てみよう。結果は図2[拡大表示]のようになった。ここにはAtheros,Broadcom(プロテクト・モードあり/なし),Intersilの結果を載せている(プロテクト・モードについては後述)。Intersilの結果は2003年5月号で計測したものを流用した。

図2●それぞれのチップのb/g混在モード(bのリンクあり)の結果

 さて,図2を見ると速いものから順に,Broadcom(プロテクトなしモード),Atheros,Intersil,Broadcom(プロテクト・モード)の順番になる。一番と最下位を比べると,ほぼ2倍の速度差がある。このように大きな速度差が出るのは,b/g混在モードにおいて実装が違うためだと思われる。

b/g衝突を避けるRTS/CTS

 まず,速度を分ける大きな要因は,RTS/CTSを使うか,使わないかという点である。

 RTS/CTSとは,端末がアクセスポイントにあらかじめ通信することを通知(RTS:request to send)し,アクセスポイントから端末に通信の許可(CTS:clear to send)を与える仕組みである。CTSのパケットに明示された端末以外は,そこに記述されている時間分だけ送信を見合わせる。これは,アクセスポイントをはさんで無線LANの端末があった場合,端末同士は相手がアクセスポイントと行っている通信を聞き取れないという,「隠れ端末問題」を解消するための仕組みである。これを11gの通信開始時に投げることで,11b端末に11gの通信時間を知らせようという考え方だ。

 11bの端末は11gの通信を理解することはできない。逆に11gは11bの通信を理解できる。このために,11gの通信中に11bがフレームを流し両方のフレームが壊れる可能性がある。また,11bは11gを無視して通信するが11gは11bの通信を聞きながら通信するため,多数の11b端末がある場合には11bの通信が相対的に増え,11gのフレームをあまり流せなくなる。RTS/CTSを使えば,11bが不意に通信するのを防ぎ,11gの通信の時間を確保できるようになる。これを採用しているのが,Broadcomのプロテクト・モードである。

図3●各社によるb/g混在モードの実装の違いと実効速度の理論値
取材や実験結果から,本誌で推定した。青色の文字の部分が本誌の推測値。

 ただし,この仕組みは図3-c[拡大表示] を見れば分かるように,RTS/CTSフレームがデータの前に流れる分だけ,全体に遅くなる。そこで,Intersilは,11gのデータを送る前に,CTSパケットを送る方式を採用している(図3-d)。

RTS/CTSがなければかなり高速

 一方,RTS/CTSを一切使用しなければその分高速になる。RTS/CTSを使わずに動いていると見られるのは,BroadcomのプロテクトなしのモードとAtherosである。

 Broadcomを採用するメルコによると,プロテクトなしのモードではRTS/CTSのパケットを一切流さないと言う。また,実測値が18.1Mビット/秒であることを考えれば,平均ランダム待ち時間(前のフレームが流れてから次にフレームを投げるまでの待ち時間の平均値)が11bと同じ360μ秒ではないと推察される(360μ秒の場合の理論値は18.5Mビット/秒)。理論値に対して実測値は約30%程度落ちるのが普通だからだ。11bよりも短い200μ秒と考えられる(図3-b)。

 このように考えるのは,11gのDraft 5.0ではランダム待ち時間は11bと同じと定められていたが,Draft 6.1からは200μ秒程度でもよいことになったからだ。

 一方,Atherosをb/g混在モードでパケットをキャプチャしたところ,RTS/CTSのフレームは流れなかった。実測値が12.9Mビット/秒と低いため,従来の360μ秒のランダム待ち時間を採用していると推察できる(図3-a)。

(中道 理)