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表●NTTドコモの実証実験の参加企業
2004年夏ごろまで実施する。
写真●JR東日本の定期券/乗車券「Suica」を載せた携帯電話機の利用イメージ
図●携帯電話機搭載のICカードとサーバー・システムが連携する仕組み
電子マネーをチャージする場合の処理の流れを示した。携帯電話上で動作するJavaアプリケーションは,ローカルの専用ソフトを呼び出し,電子マネーのチャージを指示する。専用ソフトは,インターネット経由でサーバー・アプリケーションを呼び出す。サーバー・アプリケーションは認証処理のあと,ICカード上のアプリケーションに残高変更の指示を出す。

 携帯電話にまた新しい機能が加わる。JR東日本の乗車券「Suica」やビットワレットの電子マネー「Edy」として利用されている非接触ICカードである。

 非接触ICカードの搭載により,携帯電話は“ネットワークにつながった”定期入れや財布として使えるようになる。リーダー/ライターに携帯電話をかざすと,「ピッ」という音とともに,改札処理や決済が瞬時に終わる。定期券や電子マネーといったバリューはネットワーク経由でダウンロードでき,券売機やATMに出向かなくて済む。

 この非接触ICカードの搭載に向けてNTTドコモとKDDIの2社が具体的に動き出した。NTTドコモは2003年12月,JR東日本やぴあなどと試作機を使った実証実験を開始([拡大表示],写真[拡大表示])。非接触ICカードを載せた機種を2004年夏ごろに発売する見込みである。KDDIは2003年12月,携帯電話向けの非接触ICカードを日立製作所と共同で開発したと発表。2005年には対応機を発売する。

 どちらもソニーの非接触ICカードの規格「FeliCa」に対応する。KDDIはFeliCaに加えて,国際規格のISO14443タイプBにも対応する予定である。

かざすだけで処理が終わる

 非接触ICカードは,約1mm四方と小さなICチップと,アンテナからなる。リーダー/ライターが発生する電波をアンテナで受信し,それを電力に変えてICチップを動かす。ICチップとリーダー/ライター間のデータ処理は0.1秒といった短時間で終わる。

 これを携帯電話に内蔵するメリットは大きく二つある。一つは,ICチップの中にデータを安全に保持できること。非接触ICカードは,アクセス用の鍵がなければデータにアクセスできず,無理にアクセスしようとするとデータが壊れるという「耐タンパー性」を持つ。このため現金や定期券といった,強い安全対策が必要な電子データを扱いやすくなる。

 二つ目は,簡単な操作で実世界の機器と通信できること。携帯電話に搭載済みの赤外線通信の場合,通信する前にユーザーが携帯電話のメニューなどを操作する必要があった。非接触ICカードなら,リーダー/ライターにかざすだけで,瞬時に処理が終わる。

 プラスチック・カードだったSuicaやEdyが,携帯電話に内蔵されることで得られる利点は大きく三つある。

 第1は,利用履歴や残高が携帯電話の画面で確かめられること。携帯電話が非接触ICカードのビューアになる。

 第2は,定期券や電子マネーをネットワーク経由でダウンロードできること。券売機などの行列で待たされなくなる。チケットのダウンロード販売を計画しているぴあの場合,携帯電話にダウンロードしたチケットを個人間で譲渡する機能も用意する。

 第3は,1台の携帯電話で電子マネーや電子チケットといった複数のサービスを利用できることだ。複数のプラスチック・カードを常に持ち歩き,使うときに財布から探し出すという手間がなくなる。携帯電話をリーダー/ライターにかざせば,非接触ICカードのサービスは自動的に選択される。

サーバー・システムで鍵を管理

 非接触ICカードの利用イメージは次のようになる。NTTドコモが予定する仕組みを[拡大表示]に示す。

 非接触ICカードのサービスを利用するには,サービスごとに開発される専用のiアプリ(Javaアプリケーション)をまずダウンロードする。iアプリは,ダウンロード元のサイトに依頼して,非接触ICカード内に必要なデータ領域を確保する。サイトに依頼するのは,データ領域の確保に専用の鍵データが必要になるため。その鍵はサイト側で安全に管理されている。

 データを書き込む場合も同様である。電子マネーの残高を増やすなら,iアプリからまずサーバーにそれを依頼する。するとサーバー・システムが専用の鍵を使って携帯電話内の残高を増やす。

 データの読み出しは,鍵なしに実行できるようにも運用できる。例えば電子マネーの残高をローカルで読み出すiアプリを実装できる。

 サービス事業者が非接触ICカードを使ったサービスを提供するには,あらかじめNTTドコモと契約する必要がある。必要な鍵データとiアプリの専用APIを開示してもらう。

 NTTドコモが採用する非接触ICカードの空き容量は約4.8Kバイトになる予定。この空き領域を複数のサービスが分割して使う。必要なデータ領域は,Edyの場合で約0.7Kバイトである。1台の携帯電話で同時に使えるサービスは「最大で5~10種類になる見込み」(ソニー ネットワークアプリケーション&コンテンツサービスセクターFeliCaビジネスセンター モバイルFeliCaビジネス事業部プラットフォームビジネス課統括課長の丸子秀策氏)と言う。

バッテリが切れると使えない?

 非接触ICカードを携帯電話に内蔵することは悪い面もある。使い勝手が悪くなる場合があるのだ。

 まず携帯電話のバッテリがなくなると使えなくなる可能性が高い。携帯電話をずっと充電しないまま駅に行くと改札を通れなくなるかもしれない。

 プラスチック・カード・タイプの非接触ICカードは通常,電池を内蔵しない。リーダー/ライターからの電波を電力に変えて動作する。ところが携帯電話内蔵のICカードはリーダー/ライターの電波だけでは十分な電力を得られず,携帯電話のバッテリで動作することになりそうである。

 理由は携帯電話のサイズが小さいため,非接触ICカードのアンテナがプラスチック・カードの場合と比べて小さくなること。このため発生可能な電力が小さくなる。さらに携帯電話に含まれる金属が邪魔になる。非接触ICカードは,周りに金属があると通信しにくくなるのだ。このため携帯電話のバッテリが必要になる。

 もっとも,「非接触ICカードの動作に必要な電力は比較的小さい。バッテリが少なくなって通話ができくなったあとでも,数時間から数十時間,非接触ICカードは動作する」(NTTドコモiモード事業本部iモード企画部ECサービス担当課長の平児玉功氏)という。

 携帯電話の機種を変更したり紛失したりした際にも,手間がかかる。具体的な対応策は未定だが,機種変更時には,定期券や電子マネーといったバリューをWebサイト経由で移すといった作業が必要になりそうだ。ただしKDDIの場合,着脱式の非接触ICカードを利用する予定である。機種変更なら,新しい機種にICカードを差し替えるだけで電子バリューを移せる。

(安東 一真)