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米Wal-Mart Stores社と米国防総省は2005年1月から,主要な調達先に対して無線ICタグを商品に貼り付けるように義務付ける。これにより年間数十億枚の新市場が誕生する。どちらも採用するのは,UHF帯の無線ICタグ。標準化団体EPCglobalが2004年9月に固める次世代仕様を採用する予定だ。世界のどこでも安価に使える標準仕様のUHF帯無線ICタグ実用化を見据え,米国は先を急ぐ。

 2005年1月,米国全土で無線ICタグ(RFIDタグ)の本格導入が始まる。世界最大の小売業者である米Wal-Mart Stores社と,米国防総省(DoD:Department of Defense)が大量導入することを決めているからだ。どちらも主要な納入業者に対して,無線ICタグを貼り付けて納入することを義務付ける。この結果,年間数十億枚の無線ICタグが利用されるようになる見込みだ。

9月に固まる次期標準を全面採用

写真1●Edward Coyle氏
米国防総省Logistics Automatic Identification Technology Office,Chief。米国防総省の無線ICタグ導入計画に関する基調講演を務めた。
写真2●UHF帯の無線ICタグ
米Alien Technology社の製品の例。サイズは98×13mm。UHF帯タグのアンテナは,半波長の約16cmが標準的な長さだが,アンテナを曲げるといった工夫をすることで,タグのサイズを小さくしている。Class 1 Generation 1に準拠する。
図●EPCglobalの標準化の動き
まずはUHF帯に注力している。現行は無線ICタグの種類(Class)ごとに異なるエアー・インタフェースを,2004年9月ころに固めるGeneration 2で統一する。米Wal-Mart Stores社と米国防総省は,Class 1 Generation 2の採用を表明している。
写真3●米Power Paper社の薄型電池
厚さ0.5~0.7mmと薄く,印刷技術で製造することにより安価なことが特徴。この電池を搭載した無線ICタグを2004年5月にサンプル出荷する。

 Wal-MartとDoDがRFIDシステムを導入する目的は,物流業務の効率化である。パレット(フォーク・リフトで荷物を運ぶための荷台)やケース(ダンボールなど)にタグを貼り付け,物流センターや店舗のどこにモノがあるかを正確に把握できるようにする。米国では日本に比べて,物流の過程で商品が盗まれることが多いが,それを防ぐ狙いもある。

 その本格導入に向けて,無線ICタグの標準規格の作成が急ピッチで進んでいる。標準化作業の中核になっているのはEPCglobal。前身である旧Auto-ID Centerが開発した技術を引き継いで標準化を進めている。その次期標準となるUHF Generation 2を,2004年9月にも暫定仕様として固める。それを機に,対応するタグやリーダー/ライターが一気に製品化されていく見通しである。Wal-MartもDoDも,UHF Generation 2の採用を正式に表明しているからだ。

 Wal-MartとDoDは,メーカーに依存しない標準品の採用を進めることで,メーカー間の競争を促し,価格低下を促進したい考えだ。DoDに関しては,軍向けという特異な用途での利用となるが,「物資を調達するサプライチェーンの仕組みは民間企業と変わらない。無線ICタグは民間と同じ標準品を使い,低コストで導入したい。そのために我々はアーリー・アダプタ(最新技術を早期導入する組織)になり,標準化をリードする」(DoD Logistics Automatic Identification Technology Office,ChiefのEdward Coyle氏,写真1)と言う。

1回だけ書けるUHF帯のICタグを使う

 無線ICタグ向けの周波数帯はいくつかある。このうちWal-MartとDoDはUHF帯(米国では915MHz帯)を採用する(写真2)。UHF帯は,通信距離が最大5~8m程度と長く,電波が回折しやすいため物流管理で使いやすいからだ。

 UHF帯はこれまで,米国や欧州以外のアジア地域では無線ICタグに使えなかった。しかし中国や台湾などでは,UHF帯の一部を無線ICタグに割り当て済み。日本でも2005年3月に利用可能になる見込みである。このように世界で使えるようになるUHF帯のタグを米国は先頭を切って導入していく。

 EPCglobalが2004年9月に固めるUHF Generation 2もUHF帯が対象である。この規格では,タグとリーダー/ライター間の通信手順(エアー・インタフェース)を定めている。タグの種類はClass 0~4の5種類([拡大表示])。Class 0~2は,電池を内蔵しないパッシブ・タグで,Class 3,4が電池内蔵のアクティブ・タグである。

 Wal-MartとDoDが2005年1月から本格導入を始めるのはパッシブ・タグで,Class 0とClass 1の2種類。どちらも96~256ビット程度のID(EPC:Electronic Product Code)だけを格納し,パレットやケースの属性情報などはデータベース・システムで管理するタイプである。Class 0は読み取り専用で,Class 1は,1回だけ書き込みできる。Class 0では,タグの製造時に固有のIDを書き込んでもらう必要があるが,Class 1なら,企業ユーザーが手元でIDを書き込める。

 Class 0とClass 1では,Generation 1と呼ぶ規格が既に標準化されている。Generation 1の問題は,Classごとにエアー・インタフェースが違うこと。リーダー/ライターはClassごとに異なる規格に対応する必要があった。これに対してGeneration 2は,すべてのClassで読み書きといった基本的な手順を共通化した。これによりリーダー/ライターの導入コストを抑えられるようになる。

 Wal-MartとDoDが今後導入していくのは,ID(EPC)を1回だけ書き込めるClass 1である。このClass 1 Generation 2に準拠した無線ICタグは,2004年9月以降,各メーカーが競って製品化し,価格低下が見込まれている。例えばタグ・メーカー大手の米Intermec Technologies社は,「2004年9月にGeneration 2のサンプル出荷を始める予定。タグの単価は2005年には15セントを切るレベルになるだろう」(同社Consumer Goods,Sr. Business Development ManagerのJon Rasmussen氏)と言う。

 もっとも2005年1月の時点では,Generation 2の供給が間に合わない可能性もある。それに備えてWal-MartとDoDは,調達条件として既存のClass 0,1でもかまわないとしている。

通信距離を長くした新型製品も

 このような無線ICタグの本格導入を目前に控えて,無線ICタグの専門イベント「RFID Journal Live! 2004」が米国シカゴで2004年3月29~31日に開催された。その展示会場では,新しいタイプの無線ICタグが登場し,注目を集めた。米Impinj社とイスラエルPower Paper社の製品である。どちらも無線周波数としてUHF帯を使う。

 Impinjは,書き込み時でも読み出し時とほぼ同じ8m以上(米国の場合)の距離から通信できる無線ICタグ「Zuma」を展示した。Zumaの量産は2004年6月に始まる予定である。

 メモリーとしてEEPROMを採用する現在の主な無線ICタグは,書き込み時の通信距離が読み出し時よりも短い。EEPROMは書き込み時の消費電力が大きいため,読み出し時よりもタグをリーダーに近づけないと必要な電力が得られないからである。Zumaで採用する同社独自の不揮発性メモリー「AEON」は,「書き込み時でも消費電力が低い」(Product Line DirectorのDimitri Desmons氏)。このため離れた距離からでもデータを書き込める。

 Power Paperの無線ICタグ「PowerID」は,金属や水があっても長い通信距離を確保しやすいという特徴がある(写真3)。金属や水の影響を受けると,無線ICタグはリーダーからの電力を受けにくくなり通信距離が短くなる。PowerIDはタグの起電力不足を補うため,同社独自の電池を内蔵する。その電池の特徴は「印刷技術により実装できるためコストが安いことと,厚さ0.5~0.7mm程度と薄いこと」(Power Paper, Strategic MarketingのElan Freedberg氏)。従来からの電池内蔵のアクティブ型が「10ドルだったのに対して,PowerIDは1ドル以下で提供できる」(同氏)と言う。Power Paperは物流管理の用途を狙い,2004年4月中にサンプル出荷を開始する。

(安東 一真)