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インクジェット・プリンタの新製品が出揃った。各メーカとも,写真印刷の用途を見越した高画質の追求に余念がない。画質を上げつつも,速度低下を防ぐ工夫にも力が入れられている。これと同様の競争は,ページ・プリンタの世界でも繰り広げられている。

 一般的によく目にするプリンタには,大きく分けて二つの種類がある。一つが,家庭などで使われるインクジェット・プリンタ。印刷ヘッドを左右に動かしながら紙にインクを吹き付けて印刷する。もう一つは,トナーと呼ばれる微少な粉末を紙に定着させるページ・プリンタ。オフィスなどに置かれ,複数ユーザがネットワークを使って共有することが多い。

 印刷方法は違っても,この二つのプリンタが目指すものは同じだ。高速,そして高画質な印刷である。どちらの分野でも,競争は激しくなる一方だ。

インク滴を微少化して画質を上げる

 インクジェット・プリンタの画質は急速な勢いで向上している。2002年秋に発表されたA4サイズ対応のインクジェット・プリンタは,昨年の製品よりも解像度を倍に高めた製品が話題になった。セイコーエプソンの「PM-970C」(写真1[拡大表示])と,キヤノンの「PIXUS 950i」(写真2[拡大表示])である。PM-970Cの解像度は2880dpi×2880dpi。2880dpi×1440dpiだった従来の最上位機種「PM-950C」の倍になった。950iは「F930」の後継に当たる。2400dpi×1200dpiだった解像度を,4800dpi×1200dpiと,こちらも2倍に高めた。

写真1●セイコーエプソンのインクジェット・プリンタ「PM-970C」。
解像度は2880dpi×2880dpi
 
写真2●キヤノンのインクジェット・プリンタ「PIXUS 950i」。
解像度は4800dpi×1200dpi

 解像度とは,ある領域に印刷できる点の数のことである。dpiは「dot per inch」の略で,1インチに打てる点の数を表す。解像度を上げるということは,より細かく点を打つことを意味する。細かく点を打つためには,インク滴自体のサイズを小さくすることが必要になる。

 このため,画質向上の競争はインク滴の微少化技術につながる。現在のインクジェット・プリンタは,インクの液滴を数ピコ・リットル(ピコは1兆分の1)にまで少なくしたものがほとんどである。この数ピコ・リットルを,さらにどこまで小さくできるかで各社がしのぎを削っている。

 ただしその方法は,メーカによって異なる。インクを噴射する仕組みが違うためだ。インクを噴射する仕組みには,主に圧電素子(ピエゾ素子)を使う方式と,インクを加熱して発生した泡を使う方式の二つがある。

ピエゾ素子でインクの動きを制御

図1●ピエゾ素子を使ったインクジェット・プリンタの仕組み。
振動板の上に載ったピエゾ素子に電圧をかけて変形させ,インクを制御する。セイコーエプソンの方式では,噴射前に一度奥にインクを引き込む。インクの表面を整えることができ,さらにインクの大きさも変えられる

 ピエゾ素子を利用するのがセイコーエプソンである。ピエゾ素子は電圧が加えられると変形する性質を持っている。この変形によって発生する圧力を利用してインクを噴射する(図1[拡大表示])。

 ピエゾ素子を使うことの利点は,ピエゾ素子に加える電圧を変えることで,インクの噴射をさまざまに制御できることである。セイコーエプソンは以前から,この性質を利用してよりきれいなインク滴を噴射するための仕組みを導入してきた。

 それが図1の下である。まず,インクを噴射する前に一度インクを奥に引き込む。こうすることでインク滴の表面が安定し,インクをまっすぐに吐き出せるようになる。次にインクを押し出して噴射する。

 セイコーエプソンは,この仕組みをインク滴の大きさの制御にも使っている。液滴を大きくするには,インクをあまり引き込まずノズル周辺に残しておく。逆に小さくするには,噴射前にインクを大きく引き込んでノズル周辺のインク量を減らす。この原理を利用して,液滴を微少化した。

 さらに,ピエゾ素子の長さを従来の半分にして変形量を減らし,噴射する液の量を少なくした。これらの工夫で,PM-970Cのインク滴のサイズは1.8ピコ・リットルにまで小さくできた。

 ただし,ピエゾ素子の変形量が減ると噴射力も弱まり,インクの飛ぶ速度は落ちる。この問題は「ピエゾ素子の応答性が向上することを利用して変形速度を上げることで対応した」(セイコーエプソンの情報画像事業本部 TP開発部の北原強課長)という。

ノズルの穴を小さくする熱方式

図2●加熱板で発生させた泡を使うインクジェット・プリンタのヘッド(キヤノン提供)と,内部の仕組み。
泡の圧力でインクを押し出す。よりシンプルな仕組みでインクを打ち分けるために,異なるサイズの穴を持つノズルを並べることでインク滴の大きさを変化させる。キヤノンの850iでは,2ピコ・リットルと5ピコ・リットルの穴を並べている

 一方,熱を使った方式を採用するキヤノンや米Hewlett-Packard社,米Lexmark International社は別のアプローチを採る。ノズルの穴の大きさを狭めてインク滴を小さくするのだ(図2[拡大表示])。

 この方式は,インクに熱を瞬時に加えて沸騰させ,発生した気泡の圧力でインクを押し出す。加熱板さえあればよいためヘッドの構成がシンプルになり,小さい範囲にたくさんのノズルを配置できるのが利点だ。キヤノンは今年,ノズル穴自体を微少化してインク滴を小さくした。

 キヤノンの950iは,2ピコ・リットルのノズルを用意して液滴を小さくした。このように細かなノズルも「フォトリソグラフィという技術で,高精度に形成できる」(キヤノン iプリンタ開発センター iプリンタ第一設計部の大塚尚次部長)という。フォトリソグラフィとは,細かなパターンを光で転写し,半導体の集積回路などを製造するための技術。これを利用してノズルを高密度に配置し,さらにノズルの穴のばらつきを抑えた。

 インク滴のサイズは,今後もさらに小さくなり続けそうだ。セイコーエプソンの北原課長は「ハードウェアの技術的には,まだまだインク滴を小さくできる余地はある」と語る。キヤノンの大塚部長も同意見だ。「技術的には,インク滴はいくらでも小さくすることは可能」(大塚部長)だという。

(八木 玲子)