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バーコードの無線版として使われ始めた「ICタグ」に注目が集まっている。無線でIDを読みとれるため,モノの所在や属性を手軽に入手できるシステムを構築できる。これにより,流通在庫をリアルタイムに把握したり,盗難品を見つけ出すといった新しいシステムが現実味を帯びてきた。ただし,自由度が大きい分,課題も多い。最大の問題は価格が高いこと。ICタグの現状と課題を報告する。

 あるアパレル業者の会議室で――。
「また新しく春物が来るんだけど,今の商品はどれを残そうか」
「ワンピースですと,売れ線のブルーは残します。あとピンクとグリーンがありますがピンクの方を残します」
「なぜピンクを残すの? POSデータではどちらも売れてないよ」
「“タグデータ”で分かりました。ピンクは,お客さんが手には取ってるんです。試着室に持ち込まれることも多い。少なくとも客寄せにはなるはずです。グリーンはほとんど手に取られていません」

◇              ◇              ◇

 こんなことが間もなく現実のものになる。無線でデータを読み書きできるゴマ粒大のICチップが埋め込まれた“ICタグ”がこれを可能にする。

 アパレル業界なら,衣類の値札などにICタグを忍ばせておく。ICタグスキャナを陳列棚や試着室に設置。これにより,商品が陳列棚から取り出されたり,試着室に持ち込まれたことを自動的に記録できる。これが冒頭のようなマーケティング・データとして生きてくるのだ。

低価格化で用途の広がりに期待

 今,さまざまな業界で,ICタグに熱い視線が注がれている。さまざまなモノにICタグを貼り付け,効率的に管理しようというのだ(写真1[拡大表示])。

 ICタグは,10数バイト~数Kバイトのメモリーと簡単なロジック回路を持つICチップに,小さなアンテナを付けたもの(写真2[拡大表示])。数十cm~1.5m程度の距離からスキャナをかざすことで,無線通信でデータを読み書きできる。さまざまな商品にIDを付けて,製造・流通・リサイクルといった過程で,商品の状態をきめ細かく管理することが可能になる。

写真1●ICタグの実用例
意外に身近な場面で使われ始めている。
 
写真2●ICタグの形状
無線通信に利用する周波数帯域によって,アンテナの形状と大きさが異なる。アンテナを大きくすると通信距離が延びるが,上の二つはどちらも70cm程度の通信ができる。

 例えば書籍業界では,書籍や雑誌にICタグを付けることを目指して,コンソーシアムを設立した。2003年3月19日に,大手の出版社や取次業者,書店が共同で立ち上げた。狙いは,書籍流通の効率化と万引きの防止である(詳細は本号のp.21を参照)。

図1●さまざまな商品にICタグが付いていく
現在は,一つの企業に閉じた利用が中心だが,2005年ころから複数の企業にまたがった利用が本格化してくる。さらに,ICタグを利用したネットワーク家電なども登場するだろう。

 実はICタグが実用化されたのは比較的古く,80年代のことである。FA(Factory Automation)の製造ラインや倉庫内のコンテナ(パレット)管理などで利用されてきた。また,いわゆる非接触型ICカードにもICタグは搭載されている。JR東日本の「Suica」がその代表例である。

 ただし,タグの価格が1個数百円から1000円以上と高価だったため,これまでは用途が限られていた。それが半導体技術の発展などにより,ICタグの価格が数十円程度にまで下がってきた。これが,広い用途で使えるのではないかという期待感を高めている。

 消費財のような安価な商品にもICタグが付けば,これまでにない使い方まで登場するかもしれない(図1[拡大表示])。例えば食品にICタグが付くとしよう。これを活用する「ネットワーク冷蔵庫」が登場することだろう。冷蔵庫にスキャナが付き,食品の賞味期限を自動的に読み取ってくれる。それが冷蔵庫のディスプレイに表示され,うっかり賞味期限を切らすようなことがなくなる。賞味期限が近づいている食品を組み合わせて,レシピを提案するかもしれない。コンピュータがすべてのモノを自動的に認識し,ユーザーにサービスしてくれる“ユビキタス・コンピューティング”の世界が近づくことになる。

通信方式や機能,メモリーサイズが多様

 ICタグにはさまざまなバリエーションがある。用途を求めて,改良を重ねた結果である。

 ICタグは,電池を内蔵するものと内蔵しないものがある。今は電池がないものが主流になっている。電池があると無線通信の距離は延ばせるが,利用期間に制限が生まれ,製造コストも高くつくからである。

 電池を持たないICタグは,スキャナから電力をもらってICチップを起動する。無線通信の方式は無線周波数によって異なり,二つある。無線周波数は,125k~135kHzと13.56MHz,2.45GHzが使われているが,125k~135kHzと13.56MHzは電磁誘導方式を,2.45GHzはマイクロ波方式を用いる。

図2●ICタグの仕組み
電磁誘導方式とマイクロ波方式の2種類がある。前者は電磁誘導により,後者はアンテナの共振により,信号をやり取りする点が異なる。ほかの仕組みは同じ。

 電磁誘導方式は,磁界の発生により電流が起こるという現象“電磁誘導”を利用する(図2[拡大表示])。スキャナのコイルに電流を流すと磁界が発生し,その磁界によってICタグが持つコイル状のアンテナに電流が発生する。この電流によってICタグのICチップが起動される。

 マイクロ波方式は,電波を使って信号をやり取りする。スキャナがアンテナで発生させる電波をICタグのアンテナが受け取り,アンテナ内の共振により電流が発生する。ラジオやTVの放送をアンテナで受け取るのと同じような原理だ。このアンテナを使った通信により,スキャナとICタグがデータをやり取りする。

 どちらの方式も,通信距離はアンテナの大きさや形状で決まる。写真2に示したアンテナのサイズで,通信距離は最大約70cmである。スキャナによっても通信距離は変わる。ハンディ型といったパワーの小さいスキャナなら通信距離は短くなる。

 通信距離の上限は,今のところ電波法の規制によって決まっている。13.56MHz帯の場合で70cm程度,2.45GHz帯の場合で1.5m程度が上限だ。規制が緩い米国などでは,5m程度の距離で使われている例もある。

 ICタグが持つ機能も,製品によってさまざま。IDなどのデータを読み書きするだけのものもあれば,演算機能や認証・暗号機能を持ったものもある。搭載するメモリーもいろいろ。サイズは,10数バイト~数Kバイトと幅広い。機能としては,読み出しだけができるもの,1回だけ書き込みできるもの,何度も書き込めるものの3種類がある。ICタグのIDは,チップベンダーが製造時に付けてもよいし,ユーザーが商品に貼り付けたあとにスキャナで書き込んでもよい。

バーコードの代替を狙う

 商品を識別する仕組みとして広く普及しているものに「バーコード」がある。商品に付けるICタグは,このバーコードの代替を狙っている。

 ICタグは記憶容量が大きいため,商品の一つひとつを識別するIDに加え,各種の属性情報も一緒に格納できる。バーコードは日本の場合,12桁の数字を符号化しているが,そこで識別できるのはメーカー名と商品名だけ注1)。POSレジで商品の値段を計算するのには十分だが,賞味期限や原産地,流通過程のどこで在庫されているか,などの細かな属性情報を商品ごとに持たせるのは難しい。

 もちろん,ICタグの最大のメリットは無線通信機能にある。ダンボールに入っている商品でも梱包を解かずに検品できるし,一度に多数の商品のIDを読み込める。商品のバーコードを一つずつスキャナで読み取るといった手間が省ける(図3[拡大表示])。

 ただし,複数のICタグを同時に読めるとはいっても,実際の通信では,データは1個ずつ読んでいる(図4[拡大表示])。読み取り速度は毎秒20~1200個程度と,ICタグの種類によって異なる。

図3●バーコードと比べたときのICタグのメリット
梱包を解かずに検品できる,同時にたくさん読める,リアルタイムに在庫を把握できる,汚れに強い,といったメリットがある。
 
図4●複数のICタグを“同時”に読み取る仕組み
ICタグは,一度に複数のタグのデータをスキャナで読み取れるが,実際には,1個ずつデータを読み取っている。スキャナは,タグのIDを問い合わせて,複数のタグから応答を受け取ると,衝突があったと認識する((1)~(2))。次に,IDに特定の条件をつけて通信相手を限定していき,相手が1個になったところで相手のIDを読み取る((3)~(6))。図では,IDの値の範囲で通信相手を限定しているが,実際の製品ではより効率がよい符号化方式を使って,相手を限定する。

(安東 一真)
<次回(中)へ続く>