PR

価格の高さが最大の課題

図5●ICタグのコスト構造
数百万個以上といった大量発注をした場合の価格を示した(本誌推定)。ICタグ全体の価格は,パッケージの形態により変わる。少量で発注した場合は,コストが高くなる。

 将来性があるICタグだが,多様な商品に付けられるようになるには,まだまだ課題がある。最大の課題は価格が高いこと。安くなければ,ほぼタダのバーコードを置き換えられない。

 現在は,数百万個という大量発注をしても1個20~30円はかかる。これでは100円の商品には付けられない。

 ICタグの価格は,ICチップとアンテナ,パッケージの製造コストを積み上げたものになる。特にパッケージの形態でコストは大きく変わる。アンテナを透明のフィルムで挟んだだけの「インレイ」という形体のまま使うのが最も安い。ただし曲げや高温には弱い。FAや倉庫のコンテナ管理向けのICタグは丈夫なプラスティックなどで封止される。工場内で汚れたり,室外で風雨にされされても使えるようにするためである。これだと価格は数百円から数千円と高くなる。

 最も安いインレイの場合で考えてみよう。紙やフィルムの商品パッケージを印刷会社などで製造してもらう際,インレイをどこかに貼り付けてもらうようなケースである。現在はインレイでの価格が20~30円である(図5[拡大表示])。

 ICタグの価格は,利用する無線通信の周波数でも変わってくる。数十円から数円といった低価格化が見込めるのは,13.56MHzと2.45GHzの2種類。125~135kHzのICタグは安くても100円前後と,それ以上の低価格はかなり厳しい。このタイプでは,電磁誘導のために小型とはいえ実際の心棒に巻いたコイルが必要となる。フィルム状にできないので製造コストが高くなる。

 13.56MHzと2.45GHzでは,最終的なコストに大きな違いはないようだ。どちらも現時点で10円前後までの低価格化は見えている。

チップのコストは5円程度へ

 チップそのもののコストで比較すると,理論的には2.45GHz帯の方が安くなる。高周波の方がチップサイズを小さくできるからだ。ICチップは1枚のウェハーを格子状に切断して製造する。チップサイズが小さいほど1枚のウェハーから取り出せる数が多くなり,コストが安くなる。例えば0.5mm角のチップは,1mm角のチップとを比べると1枚のウェハーから4倍の個数を取り出せるので,コストもほぼ4分の1になる。

 例えば日立製作所が出荷しているICタグチップ「ミューチップ」は2.45GHz帯の製品だが,サイズは0.4mm角と小さい。13.56MHz帯の多くの製品は,1mm角程度である。

 もっとも13.56MHz帯のチップも,ミューチップ並みに小さくするだけなら「難しくない」(ICタグチップを製造するインフィニオン テクノロジーズ ジャパン セキュアモバイルソリューション事業部の桑原宏之マーケティング課長)。実は,現在製品化されている13.56MHz帯の多くのチップとミューチップでは,搭載するメモリーの種類と容量が違う。ミューチップが16バイトのROMであるのに対し,ほかの製品は48~1000バイト程度の書き込み可能なメモリーである。「書き込み可能なメモリーはROMに比べてチップ上の面積が大きく,容量が大きいものならチップサイズ全体の約8割を占める」(インフィニオンの桑原氏)。16バイト程度のROMだけを搭載するチップなら「13.56MHz帯でも十分に0.4mm角を実現できる」(ICタグチップを製造する日本フィリップス半導体事業部アイデンティフィケーション セグメントの渡辺桂三システムマーケティング課長)。

 商品管理にICタグを使うなら,容量の小さなROMにIDだけを記録すれば十分と見られている。商品の属性は,ICタグのIDと関連付けてサーバーマシンで管理すればよい。ICタグのチップサイズは,周波数帯にかかわらず0.5mm角程度にはできそうだ。

 チップサイズが0.5mm角程度なら,ICチップのコストはどれくらいか。「数億個という大量生産をすれば5円程度にはなる」(日本フィリップスの渡辺氏)と見られている。

 チップサイズのさらなる小型化という視点で見れば,2.45GHzの方が有利である。ただしタグチップを小さくすると,アンテナへの装着が難しくなる。チップの二つの端子を容易にはアンテナにつなげなくなる。例えばNECの社内ベンチャーであるテレミディックなどと2.45GHz帯のICタグを開発している凸版印刷は,「チップのサイズをミューチップよりさらに小型化するといったことは考えていない」(経営企画本部IC事業推進部の難波系治郎課長)と言う。チップサイズのさらなる小型化には限界がありそうだ。

アンテナが意外に高い

 次にアンテナのコストはどうか。これが意外に高い。13.56MHzのアンテナはエッチングで製造しているが,銅を使った場合で7.6×4.5mm程度のサイズが1枚10数円。少し性能が落ちるアルミの場合で10円をようやく切る程度である。

 2.45GHz帯のアンテナは,「同程度の通信距離を出すのにアンテナのサイズが4分の1程度で済む」(凸版印刷の難波氏)。材料コストは4分の1で済む計算だ。ところが2.45GHz帯のアンテナは製造が難しい。アンテナの共振により電力を発生する仕組みなので,「アンテナサイズが少しずれただけで同調がずれる。1枚ずつテストして,端を削るなどして同調を合わせるのにコストがかかる。結局,アンテナの製造コストは13.56MHz帯と変わらない」(日本フィリップスの渡辺氏)という。

 これをチップと同じ5円程度に安くするには「印刷やメッキの技術でアンテナを製造して,さらにコストを下げる必要がある」(凸版印刷の難波氏)。

 チップが大量生産され,アンテナが安く作れるようになれば,ICタグは10円程度にはなりそうだ。では市場のニーズはどうだろう。関係者の多くは,「5~6円が一つのターゲット」(サン・マイクロシステムズ営業開発本部Auto ID担当の湯本由起子担当部長)と見ている。例えば書籍業界では「390円のコミックに付けることを考えると3~5円程度が望ましい」(集英社雑誌販売部の奥脇三雄部長)。そこまでの低価格化を実現しないと,適用商品は限定されるだろう。

(安東 一真)
<次回(下)へ続く>