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図7●液晶プロジェクタの構造
ランプから発した光は,まず紫外線と赤外線がカットされる。その後,ダイクロイック・ミラーという特殊な鏡で赤,緑,青の三つの光に分ける。3色の画像を作り,プリズムで合成して投影する。
図8●台形になった画面を補正する技術
素子上で台形に広がった部分の画素を間引く。そのため解像度が落ちる。
写真2●レンズを使わず鏡だけで短焦点を実現するプロジェクタ
NECビューテクノロジーのDLPプロジェクタ「WT600」。60型(0.9×1.2m)スクリーンの場合,投写距離は26cm。

特殊な鏡で光を分ける

 プロジェクタの基本的な構造である3板式のプロジェクタには三つのタイプがある。(1)普及モデルである透過型液晶を使う製品,(2)DMDを使う高価格製品,(3)反射型液晶素子を使う高価格製品,である。

 液晶プロジェクタを例に構造を見ていく(図7[拡大表示])。まず最初に,ランプによって発した光から体に有害な紫外線および温度に影響する赤外線をカットする。その後,波長によって光を赤,緑,青に分離する。分離には,特定の波長の光を通しそれ以外の光を反射する,または特定の光だけを反射し残りの光を通す特性を持つ「ダイクロイック・ミラー」という特殊な鏡を使う。まず赤色を分離し,その次に緑色を分離する。最後に残ったのが青色になる。青,緑,赤の順番に分離する製品もある。素子で3色ごとの像を作り分け,それらの光をプリズムで合成する。自然な色になるように赤が3,緑が6,青が1の比になるように光を合成するという。

会議室用と家庭用は要求が異なる

 プロジェクタ製品は素子の種類や,素子を実装する数によって異なる特徴を持つ。ただ,実際の製品は素子以外にも用途に合わせて調整されている。

 プロジェクタの用途は大きく三つに分けられる。まずは会議室などで使うプレゼンテーション用,二つ目は家庭で映像を投影するために使うホームシアター用,三つ目は映画館などでデジタルデータの映画を投影するデジタル映写機である。

 製品数が最も多いプレゼンテーション用とホームシアター用では12万~60万円程度の比較的小型の製品が一般的に使われている。こうした製品の出荷台数は,透過型液晶素子を使うものが約8割,DMDを使うものが約2割という割合だという。ホールやイベント会場,映画館ではDMDを3枚使うDLPプロジェクタや反射型液晶素子を使うプロジェクタが利用されている。

 明るさを重視するか,コントラスト比や色再現性を重視するかは用途で異なってくる。プレゼンテーション用のプロジェクタは主に会議室での利用を想定し設計してある。会議室では,メモを取るために手元がある程度明るくないといけない。そのため,プロジェクタには明るさが求められる。1500ANSIルーメンから2000ANSIルーメンほどあれば周囲が明るくても表示が可能だという。加えて,表など細かい字を表示することもあるため高解像度も求められる。最近では,パソコンのディスプレイと同じXGA(1024×768ドット)以上が多い。

 一方,ホームシアター用では部屋を暗くできるためにそこまで明るさは求められない。代わって求められるのは,コントラスト比が高く黒をより黒く表現できるか,肌色を表現するのに重要な赤がしっかりと表現できるか,といった点だ。色再現性を高めるために,「ダイクロイック・ミラーの作り方を工夫して,赤と緑をしっかり出せるようにしている」(三洋電機 コンシューマ企業グループAVソリューションズカンパニー プロジェクタビジネスユニット商品企画部商品企画課の杉邨一人課長)という。また,反射型液晶を使う高価格なプロジェクタでは,光の波長分布が自然光に近く色再現性がよいキセノンランプを使っている。

画素を間引いて表示画像を補正

 プロジェクタは他の表示装置と同様に画質が重要だが,「投影」という方式に起因するプロジェクタ特有の問題もある。投影する角度の調整が必要な点と,スクリーンとプロジェクタの間に障害物がないスペースが必要な点だ。

 プロジェクタは,投影する角度によっては表示画像が台形にゆがんでしまう(図8上[拡大表示])。部屋が狭いときにはプロジェクタを横にずらして置いたり,下の方から投影しなくてはならないことがある。横から投影すると,左右が広がった形の台形に,下から投影すると上が広がった形の台形になってしまう。

 この台形補正の技術は確立しており多くの製品が実装している(図8下[拡大表示])。「キーストン補正」と呼ばれるものだ。

 プロジェクタで投影する表示画面が横4:縦3の比になっている場合を例に取る。上が広がっている台形のときは,下の線を基準にして,4:3の長方形になるように補正する。それを実現するために,素子が生成する画像を変形させる。そのまま投影したのでは広がってしまう部分の画素を素子上で間引く。つまり,素子上の表示を台形にすることで,投影像を長方形に見せるのである。ただどうしても,画素を間引いた部分の解像度は下がってしまう。

 これ以外にも補正技術は進歩している。上下だけでなく横に広がった場合の補正ができたり,投影したときに傾きセンサーで本体の角度を検出してゆがみを自動的に補正する製品もある。

 ユニークな方式としてはNECビューテクノロジーが開発した補正技術がある。付属のリモコンで歪んだ表示画面の4隅を指し示して,設定用のボタンを押すと,指定した4点で構成する四角形に補正できる。同社ではこの補正技術を独自開発のチップで実現している。

 スクリーンとプロジェクタの距離を短くするための工夫もある。障害物が映りこまないようにするには,投影距離が短いほどよいからだ。最近はレンズの焦点距離が短い製品へのニーズが高まっているという。短焦点レンズは高解像度の高価格帯のモデルを中心に採用されている。ただし,レンズ自体が高額であるため,当初は高機能で高額な商品に採用されていた。最近はレンズの価格が下がり,2年ほど前から小型の製品にも採用されている。

 レンズを使わずに短焦点を実現する工夫を施した製品も開発されている。NECビューテクノロジーが開発した,鏡で光を反射させて角度を調節するDLPプロジェクタ「WT600」だ(写真2[拡大表示])。光を4枚の非球面ミラーに順に反射させて投影する。プレゼンテーションする人とスクリーンの間にプロジェクタを設置できるため人が影にならない。「製品化にあたっては明るくするのが難しかった。カラーフィルタを調整して1200ANSIルーメンを実現した」(NECビューテクノロジー プロジェクタ応用開発本部プロジェクトグループ(A)の工藤芳久技術マネージャー)という。

(堀内 かほり)